傷ついた心に優しさは毒
『のーじま様』よりファンアートを頂きました。
本当にありがとうございます!
掲載の許可を頂いたので、下の後書きに表示します。
「んふふ……いらっしゃ〜い」
私の作ったダンジョンのフィールド内に、足を踏み入れた存在がいる事を感覚が知らせてきた。
「幼女ちゃ〜ん、どうやら苦労して作ったダンジョンに、ようやく冒険者がやってきてくれたようだよ」
「……」
幼女ちゃんは、スキマの中で横になりながらパイプ端末を弄っていた手を止め、視線を向けてきた。
どれ、映像を浮かべて幼女ちゃんにも、見えるようにしてあげなきゃね。
「ほうほう、三人の冒険者のようだね」
「……」
「なかなか精悍な顔つきじゃないかね。これは、さぞかし名のある冒険者に違いないね!」
「……オバケ姉ちゃん」
どうしたんだい幼女ちゃん? そんな哀れそうな目を向けてきて。喜びなよ、念願の冒険者だよ。
これから冒険者で満員だよ?
「…………オバケ姉ちゃん、げんじつ見なよ」
「……」
「……これ冒険者じゃなくて霊媒師だから」
…………ですよね。
ダンジョンでよく見る、冒険者の格好と違うもんね。
なんかスピリチュアルな格好というか、防具っていうより『神聖な存在だぜオラァ』って感じの服装だし。
いや、ウチはダンジョンやぞ。テメェら何しに来たんだよ……。
『先生、ここが例の悪霊が出ると噂になっている土地です』
「ダンジョンより悪霊の噂の方が先行してんですけど!」
「……そらそうよ」
ふざけんな! オバケ屋敷は閉園してんだよぉ!
ようやくパリピ以外の人間がやってきたんだから、冒険者だと思うじゃん。
「チクチョウ……期待させやがって。何処から雇われてきたんだよ」
「……さぁ」
あ〜もぉ、冒険者用のダンジョンじゃなくて、パリピ用ダンジョンに送るか……。モンスターも宝箱もない、脅かして感情エネルギーだけを生産する方に。
ちゃんと分けとかないと、冒険者がますます寄り付かなくなっちゃうからね。
「お望み通り悪霊に会わせてやるよ! あれ? ちょっと待って、もしかしてアイツら強いかな? ……やっぱ止めとくか?」
よくよく考えたら霊媒師なんて、戦闘力高そうだよな。人間も払っちゃえる?
そんなことを考えてたら、幼女ちゃんが鼻で笑うよう首を振る。
「……あれ、エセ霊媒師だよ」
え、マジで? なんで分かんの?
幼女ちゃんは、霊媒師集団が映っているモニターを指指す。
「おわっ……アイツら見えてねぇのかよ」
「……見える人は少ないけど……見えるフリをしてる人は多い……らしい」
霊媒師たちの横を、例の悪霊が普通に素通りしてやがんね。悪霊ってのは私の演出じゃなくてね。
幼女ちゃんが、この街をゴーストタウンにした元凶じゃないかって教えてくれた、目と口のポッカリ空いた黒い影の化け物のことだね。
街をダンジョンに変えても普通に歩いてるわ。
あれ、でも変だね。
「幼女ちゃん……何で私、シッカリと見えるんだろうね?」
私はアレを、ガス漏れみたいなモヤでしか見えなくて、何かに反射した状態でしか観測できなかったんだよ。
でも、モニターに映る黒い影は、どこか肉感的というか現実的で私にもハッキリ見える。
「……もともとオバケ姉ちゃんに見えるのが異常……。アレは、この街にいる悪い物が固まって現実になった状態」
「……」
「現実になった状態なら、見える人はいるから……あの霊媒師たちはソレすら見えてない……見えてるフリをしてるだけ」
ふむ……なるほどね。
もともと、私が見えていた黒い影の進化系ってコトでいいよね? なるほど、アレが見えてないからエセ霊媒師なワケだ。
ここまで考えて、私は頭を抱えた。
「これってこの、なんちゃってファンタジー世界における『マジもんのファンタジー』だわ……」
この世界ではアレの存在が確立してないから、私は幽霊だと思われる。なまじ文明が進んじゃってるから、一定数しか観測出来ない幽霊を、幽霊たらしめてるんだね。
この世界の住人に対するファンタジー。
文明が発達したこの世界で『観測できない幽霊なんて居ない』という感情と、『存在しないという明確な否定材料もない』という感情がこの世界における幽霊の扱いだ。
つまり、前の世界と幽霊の扱いは一緒。
だから、エセ霊媒師なんて職業も出て来るワケだ。
見えない人間からしたら、霊媒師がエセかどうか判断できないからね。
もとの世界に、幽霊が存在したかどうかなんて知らないけど、幽霊が見えないけど、霊媒師みたいなコトをやっていた人は居たはずだ。
個人的には詐欺師なんて思わないけどね。見えないけど霊障に怯えている人からしたらカウンセラーの役割もあるだろうし……。
「少なくとも、この世界には本当に、悪霊が存在してるってことね」
「……悪霊じゃないけど、悪霊だと思われてるだけ。お母さんに言わせれば、自然現象の一種……」
分類はどうだっていいよ。分かんない人間からしたら充分悪霊なんだし。
「まぁいいや。アイツらに念願の悪霊を見せてあげて、感情エネルギーを搾り取ってくるよ」
「……また、悪霊の噂が広がるんだろうね」
うぐっ、それはもう仕方がない。
早く冒険者こないかな〜……。
ちなみにエセ霊媒師たちは、中々の感情エネルギーを生産してくれました。
嬉しいだろ? エセ霊媒師から本当に見える霊媒師にジョブチェンジだね!
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「うぉおおおお! だから横のすり抜けは無理だって言っただろ!」
「負け犬ニーサンも最終的には納得したでしょ!」
「……足が遅そうだから大丈夫だってオバケ姉ちゃん言ってたのに!」
どーも、ダンジョンを爆走する三人の盗賊です。
え〜……今現在、体長一メートルほどの、アルマジロみたいなモンスターから逃げ惑っております。
通路の後ろから、ゴウンゴウン転がりながら迫って来るアルマジロ型モンスター。
なんか遺跡のワナ踏んで、大岩が転がって来るみたいな状況になってんですけど!
何とかセーフティゾーンまで逃げ込んで、事なきを得ました。
「はぁ! はぁ!」
し、しんどー……。
いっそ、ジェットブーツで逃げようかと思ったわ。
「はぁ、はぁ、はぁ……疲れた。休憩がてら、ここで昼食にしようぜ」
「そっすね。いい時間だし、昼食休憩にしますか」
「……さんせい。オバケ姉ちゃん、弁当取り出して」
私はスキマから弁当を取り出して、幼女ちゃんに手渡す。
その光景を、負け犬野郎は横目で見ていたが、私が視線をやると慌てて逸らした。
ふふ、何処から取り出してるか興味あるかい?
直接聞いてこないのには好感もてるけど、教えてあげないよ。
お、負け犬の昼食は缶詰ですかぁ。
結構良いもん食ってんじゃん。この世界の缶詰って結構美味しいんだよね。ちと高いけど。
私たちと行動をするようになってから、金のまわりが良くなったんだろうね。
「……すこし、辺りをみてくる」
「う〜い」
弁当を食べ終わった幼女ちゃんが、セーフティゾーンの扉を開けて出ていく。
私は食後で動きたくないから、寝転がってるよ。
「……」
「……」
う〜ん?
なんか、負け犬の方から視線を感じるな……。
「何スかね?」
ゴロリと横目になって、腕枕で答えてやると、ビクリと体を震わせて、気まずそうな顔をする負け犬。
なんだよ。なんか気になんだろ?
「今日は来たんだな……」
不登校に対する先生かよ。
会話に困ってんじゃねぇよ。
「ま、最近は幼女ちゃんに、お金稼ぎを任せてましたからね」
「……」
あー、もちろん私が居ない分、ワケ前は調整してるよ。幼女ズと負け犬で、五対五の計算だったからね。
私が居ないぶん、2.5対7.5だね。
もっとも、私のスキマ配送が無い分、負け犬の稼ぎも減ってるだろうけど。
「……なんで、俺に異能を隠さないんだ?」
「ふむ?」
「白髪の方の異能は鍵開け、お前の方は物の持ち運びだろ。お前たちは、その能力のせいで追われてるんじゃないのか……なんで俺に隠さない。いや、隠す素ぶりだけ見せて、本当に隠す気がない」
なるほど、警戒してんのね。
でも……
「負け犬ニーサンも、分かって聞いてんスよね? でもあえて聞く事で安心したいんスね」
「……」
「想像通りですよ。負け犬ニーサンは、私たちの能力を知った所で活かせない。巻き込まれたくない。だから本気で隠す気がないんすよ」
負け犬は、その確証が欲しかったんだ。
もっとも、幼女ちゃんの能力の全貌は伏せてるし、私の能力も、見せているのはスキマだけだけどね。
有用な能力を持っている癖に、なぜ自分と手を組むのか。もしかして、なにか裏があるんじゃないかって不安になったんだろうね。
「……………………………………はあ〜………………」
警戒するように私を睨んでいた負け犬は、長めのため息を吐くと、気が抜けたように天井を仰いだ。
「分かった。なるほど、お前たちを必要以上に警戒するのは疲れるだけだ」
「そうそう、私たちは負け犬ニーサンに深入りしない。利益だけ、むさぼり喰う共存関係。これが一番賢いッスよ」
「はぁ、そうだな。……その負け犬ってのヤメロよ」
「おや? ……んははは。気の抜き過ぎじゃないッスか?」
「なにがだよ。そもそも、なんで俺のこと負け犬だなんて言うんだよ。いやまぁ……その通りだが」
「んふふふ、負け犬ニーサンさぁ……。何で今なんスかね?」
「……」
「なんで今更、負け犬だなんて暴言が気になったんだと思います?」
「……」
「余裕がなかったんスよね? だから今まで気にする気力もなかった」
「……そう……だな」
「良かったッスね。ソレが気になり出したってことは、金に余裕が出てきて、少しばかり前向きになったってことじゃないッスか?」
負け犬野郎は、呆然と床を眺めた後『……そうか』と呟いた。
「嫌なら負け犬って呼ぶの止めましょうか? 別に今更、そう呼ぶ必要とかありませんし」
「どう言う事だよ……」
「もう分かってると思いますけど、私も幼女ちゃんも少しばかり便利な能力があるだけで弱いんスよ。それこそヒョロイニーサンにすら太刀打ち出来ませんね」
「ならなんで……俺の神経を逆撫でして、暴力を振るわれるとか思わなかったのか?」
私はね、コイツに恨みなんてないんだ。
逆なんだよ……。暴力に訴えられないようにだ。
「この世の終わりみたいな表情してるヤツに、『そこの男前なニーサン』とか思ってもない事いったら、警戒して会話どころじゃなかったでしょ」
「当たり前だ。何考えてるか分かんねえよ」
「そう、負け犬ニーサンを刺激しない一番の方法は、負け犬を負け犬と呼ぶことなんすよ。特にドン底の人間に、お前はマトモな人間だって扱うのは、逆に警戒されると思ったんスよ」
鬱病の人間に『頑張れ』って言うようなモンだね。心が死んでる時には、友好的に接するより安全な場合がある。
もちろん、完璧な答えじゃないけど、このニーサンには効果的だと思っただけ。
私らなりの生存戦略だったワケだ。
「んで? 負け犬って言うのやめましょうか?」
「………………いやいい」
「あらソすか」
「そうか、じゃあ白髪の俺に対する態度が悪いのも……」
い、イヤそれはどうやろ……。
単純にあの子も警戒心の塊だろうしなぁ。
ただ生き残るために、他人の心情を推し量るのにも長けてるからねえ。本能的に、冷たくするのが正解だと察している説も……。
「ご、五分五分ってところで……」
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「遅くなっちまった」
「今日はダンジョンでの稼ぎがイマイチだったな」
「まあ、そんな日もあるだろ」
三人の冒険者が夜道を歩く。
「近道して行こうぜ」
「お、おい。近道って……」
一人の冒険者が、いつもは直進する通路を曲がろうとする。
「まずいって……そっちはアレだろ? 呪われた街」
「はぁ? お前そんなモン信じてんのかよ……」
「はっ、呪いが怖くて冒険者やってられねえよ」
「ま、待てって……」
ただ気まぐれに近道をしようとしただけ……そんな冒険者三人が進む道の先には……。
「チッ。仕方ねえな」
出来たばかりのダンジョンが、大口を開けて待っていた。




