ゴーストタウンのゴースト
「これより円卓会議を始める!」
丸いテーブルの、向かいに座る幼女ちゃんに宣言すると、ジト目で見られた。
「……どこで拾ってきたの? このチャブ台」
「ゴミ捨て場……」
チャブ台言うな……円卓と言え。
どーも私です。
現在、スキマの中でチャブ……円卓を囲みながら作戦会議中をしております。
「まずこれからの方針なんだけど……幼女ちゃん何か意見はある?」
「……お金」
「そうだね。お金は大事だね! ……他には?」
「……お金」
「なるほど……私としては情報を集めつつ……」
「……お金だよ」
「……」
「……」
はい、分かってます。お金だよね。
情報集めるにも、王都に向かうのも、お金がかかるもんね。
なんならもうすぐ食料すら危ういからね。
「……盗もう」
一言、犯罪行為を仄めかす我らが幼女ちゃん。
うん、私としても善悪なんぞにこだわって餓死するくらいなら泥棒くらいなんてことはない。
むしろ正義感で反対しないで助かるまであるね。
でもねぇ……
「貴族とマフィアに追われてる現状、目立つことはなるべく避けたいんだよねぇ……」
「……場合か?」
「それもそう」
そうね。大っぴらに動くのは目立つから最終手段にしたい気持ちもあるけど、幼女ちゃんの言う通りマジで金がない。
「……なるべく金持ちそうなのは避けたほうがいい。現金を持ち歩いてない可能性が高い」
「なるほど確かに」
この世界は、パイプ端末とかいうスマホみたいな技術がありふれているからね。買い物するのに電子マネー的な決済があるせいで、現金を持ち歩いてない事が多いんだよ。
豚貴族の屋敷では貴金属は見つけられても、現金は見つけられなかったしね。
「……でも目立つのがマズイのは分かる」
「そうなんだよねぇ」
「……どうする? オバケ姉ちゃんなら目立たずに盗める?」
「う〜ん、何処かに置いてあるものを盗ってくるならまだしも、持ち歩いてる財布を盗むのは難しいかな? 最悪はやるけど」
幼女ちゃんは腕を組んで考え込むと、円卓をポンと叩いて宣言した。
「……分かった。ギリギリまで盗むのはさけよう。でも、お金のことは第一で考えて行動したい」
「オッケー、とりあえず外に出て辺りを探ってみるか」
スキマからニュイっと出て見れば、寂れた公園の遊具の中。
「よしよし、暗くなってるね」
これでも逃亡者だからね。
大きく行動するなら夜の方が都合がいい。
「あ、帽子はちゃんと被っててね。幼女ちゃんの髪は目立つから」
「……むい」
遊具から出て周りを見渡して見れば、錆びた遊具に手入れが行き届いていなくて草が伸びている広場。
壁にはスプレーで描かれた落書き。
ふ〜む、人目を避けてここにしたけど、ゴーストタウンって感じかな。ここが打ち捨てられた公園ってワケじゃなくて、街全体に人気がない。
周りの建物もボロくなっていて、コンクリートの壁にはヒビが入ったりしている。
「まぁ、隠れ住むには最適かな?」
なにかが原因で、人のいなくなった街なんだろうね。
まぁ元の世界でも珍しいことじゃない。
なんで公園かって言うと、水飲み場の水道が生きているからだよ。
「ほんじゃ、こんなゴーストタウンじゃなくて人気のある方に向かいましょうかね?」
情報集めるにしても盗むにしても、人がいないと意味がないからね。現状、公園は拠点ってだけだ。
「ほい幼女ちゃん、お弁当だよ」
後ろの滑り台から降りてきた幼女ちゃんに、お弁当を渡す。
「……やさい」
「お弁当だよ?」
幼女ちゃんに手渡ししたのは、大根のような根菜。
それをストンと手に置いてやれば、ドン引きした顔でソレを見ている。
スマンな。もうそんなもんしか食べるもんねぇのよ。
それでも幼女ちゃんはシャクシャク齧り始めた。
「……せめて……味付けがほしい」
「塩ならあるけど?」
私も大根モドキをシャクシャク齧りながら、色褪せたベンチに座って食べ始める。
あ〜、うん。やっぱ金だわ。
――――――――――――――――――――
「……ッ」
しばらく二人で野菜を齧ってたら、妙な物音が聞こえた。
「……」
幼女ちゃんと顔を見合わせて、ゆっくりとベンチから腰を上げる。
エンジン音? ……こんな真夜中のゴーストタウンに車か。
車のヘッドライトが見えた瞬間、私と幼女ちゃんは無言で遊具に走って隠れる。
車は公園の近くに停まったようだ。
「ふむ、どう思う? マフィアかな」
「……分かんない」
遊具から少しだけ顔を出して覗いて見れば、車からは数人の男女が降りてきた。
けっこう若そう? う〜ん、マフィアって感じじゃないけど……マフィアに依頼されて探してるチンピラとかだったらマズイね。
『うわ〜雰囲気あるね』
『だろ? なんでもこの公園は出るんだってさ』
『やだー』
『へへ、肝試しにはいいだろ?』
……パリピだわ。
コイツら遊びで心霊スポットにやってくるパリピだね。
ビビらせんじゃねぇよボケが……。
ホラー映画の冒頭で殺されろ。
まぁ、なんにせよ危険はなさそうなのは良かったよ。
無駄にビビらされたのは腹立つけど……。
『あれ? なにこのベンチに置いてある野菜?』
幼女ちゃんとホッと安堵の息を吐いていると、パリピの一人が私たちの座っていたベンチに置いてある野菜を手に持っていた。
あ、慌てて逃げたから回収するの忘れてたわ。
『あ? なんでこんなところに野菜が……』
『おいおい、幽霊が野菜でも育ててるってか?』
『お、おい。その野菜……歯型が……』
『……え? キャァァアアーーーー』
野菜を持っていたパリピ女が野菜を投げ捨てる。
テメーこら何すんねん!
それは貴重な私たちの食料やぞ!
『おっと、落ち着けよ。どーせネズミかなんかだろ』
お、ナイスキャッチ。
『へへ、幽霊なんているワケねーだろ』
そう言って野菜をキャッチした男は振りかぶる。
ん? おいヤメロ!
キサマにはただの野菜かもしれんが、私たちにとっては命を繋ぐ食料なんだよ!
「か、返せー!」
私は物陰から飛び出した。
――――――――――――――――――――――
パリピ集団がやってきたのは、人がいなくなったゴーストタウンの寂れた公園。
アスファルトの亀裂からは雑草が生え、しばらく人の手が入っていない事が分かる。
車でやってくる道中も、ゴーストタウンの街並みは非現実があって『肝試し』には百点の雰囲気だ。
そんな公園のベンチに不自然に置いてあった野菜……。多少疑問には思ったが、何のことはないと野菜を投げ捨てようとした瞬間……ソレは現れた。
暗い公園に佇む小さな少女……。
公園という場所に子供がいるのは自然だろう。
ただしココが、真夜中の打ち捨てられた公園でなければ……。
「……ヒュッ」
野菜を振りかぶった姿勢のまま、喉が変な音を立てる。
真夜中の公園にいるはずもない子供。
だが確かにソコにいるのだ。
そして、子供の霊はいきなり……足音もなく凄まじいスピードで近寄ってきた。
カエセェエえエえぇエエェェぇエェぇ!!!!
――――――――――――――――――――――
「ヒィ!!」
「ウワァァアア!!」
「キャァァアア!!」
「待てテメェら!! 人のご飯盗んでんじゃねぇぞコラぁ!」
逃げ出したパリピどもを追いかけ回す。
逃げんじゃねぇよ! なんで逃げんだよ馬鹿どもが!
野菜置いてけって言ってんだよ!
「クソ! 逃すな幼女ちゃん!」
「……ほいさ」
公園から逃げ出そうとするパリピ集団の前方で、公園入り口の柵がパチパチと電気を迸らせ、左右から勢いよく閉まる。
「ナイス幼女ちゃん!」
幼女ちゃんは公園の壁に手を付けている。
どうやら、解の巫女の能力で公園の柵を操作したらしい。
幼女ちゃんの能力は、対象に触れていないといけないみたいだけど、魔力が電線みたいに伸びているものはソレを触れることで干渉できるようだ。
「「「ギャアァァアア!!」」」
前方を塞がれたパリピどもはパニックを起こして逃げ惑う。
だから逃げんじゃねぇ!
「オイテケェエエエエ!!」
「「「ヒャアァァアア!!」」」
なぜか逃げるパリピ集団は、公園の塀の乗り越え、乗ってきた車に乗り込む。
「逃すか! レディセット! ゴー!」
かかりの悪い車のエンジンを鳴らして車は急発進を始める。
私はジェットブーツを起動して後を追う。
そして走っている車の窓ガラスをバンバン叩いた。
「もしもしもしもーし!! そちらのお野菜返して貰えませんかねぇ!!」
「「「ギャアァァアア!!」」」
「ああクソッ!! なんで止まらねぇんだよ、この野菜泥棒! 人の物盗んじゃいけませんよ!」
直接扉を開けてやる。
ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ!
「鍵掛けてんじゃねぇぞパリピどもがよぉ!! オラァ開けろコラ! ……うおッ!」
………………あ、事故った。
車が急ハンドルを切ったと思ったら、廃墟にぶつかって停車した。
い、いや私悪くないよ。
野菜泥棒が悪いんだよ。
「ひ、ひぃいいいいい!!」
お、生きてたわ。
車から這い出してきたパリピ集団は、車を捨てて走り去っていった。
「あ〜うん。野菜は置いていったみたいだね」
車の中を覗いてみたら座席に大根モドキが転がっていた。初めから返せば良かったんだよ。
「……よくやった」
いつの間にか追いついていた幼女ちゃんが、後部座席から顔を出す。
その手には財布が握られていた。
「……シケてるけど現金が手に入った」
「ナーイス! 美味いもん食いに行こうぜ!」
「……うむ」
なんだよ、金くれんなら先に言いなさいよ。
ゴーストタウンのゴーストの噂が付近で流れ始めた。




