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世界の終わりで踊り狂う少女


 ズンッ! ズンッ! ズンッ! ズンッ!


 重低音のドラムが花びらを舞い散らせる。

 雅な庭園にそぐわぬ、アップテンポでテクノなイントロが鳴り響く。


「やかましいわね……」


 自分が手掛けた庭園の雰囲気をぶち壊す音に、キモノお嬢は糸目の間の眉間に皺を刻んだ。


「あははぁ〜、お気に召しませんでした? ご主人様にお似合いの音楽だと思ったんスけどぉ」

「そう……あくまで私を怒らせたいのね……」


 キモノお嬢……エルテ バイラールは非常に不愉快だった。

 それは天然コアを盗まれたことではない。


 開き直ったかのような髪の長い少女の態度……そして何よりも『舞』をくだらない踊りと言われたことだ……。


「……いいわ」


 両手を広げたキモノお嬢はバッと扇子を、自身の誇りである武器を開く。


「望み通り……私の舞で確実に殺してあげる……」


 その言葉を聞いた少女は、何がおかしいのかクスクス笑うと白い髪の幼女に目配せする。

 白髪幼女はスタスタ歩いて、いまだ花びらが散りゆく樹木に背を預け、観戦の姿勢をとった。


「安心していいわよ。コイツ(ノラ)が終わったらオマエ(シロ)もすぐに同じところに送ってあげるから」


 言われたシロは、一瞬キョトンとした顔をしたあと、ニィイイっと笑った。


「……へ〜それは……「楽しみだね」」


 幼女二人の声を揃えての発言にビキリ……とキモノお嬢のコメカミに青スジがたった。怯えるどころか挑発までかましてくる幼女二人に抑えきれないほどの殺意がわく。……よほど死にたいらしい。


 髪の長い少女は、ニヤニヤ馬鹿にするような笑みを浮かべながら、キモノお嬢を真似するように両手を広げてバッと何かを広げる。


 それは明らかにキモノお嬢のポーズを真似ていているが持っている物は決定的に違う。


 少女の両手に持っている物は『ハリセン』だ。


「……わお、器用な表情しますね」


 抑えきれないイラつきは遂に表情にまで現れた。

 

 口だけは笑みのままの形に……。

 しかし、糸目は開眼され、少女を殺さんばかりに睨みつけていた。


 本来、彼女の張り付いたような笑みや、怪しい糸目は自身のクセというわけではない。

 言うならば、舞の流派におけるクセに近い。


 舞の基本は相手の観察だ。

 それは重心だけでなく、息遣いや表情にいたるまで判断に至る。

 そのせいで舞を覚えるうちに、相手に観察されないよう表情を隠すクセが出来てしまう。


 キモノお嬢にとってそれは張り付いた笑みと、視線を悟られないような糸目だったのだが、彼女くらいの達人になると、もうそれは意味をなさない。

 つまりは、ただのクセなのだが……もう、そんな気分ではなかった。


 許してはおけない……。


 自分の持つ扇子の代わりに、形こそ似ているものの、ふざけた『ハリセン』を持ち出した事に深い怒りを感じる。

 

 いや、形が似ているからこそ許せない。

 馬鹿にしているのだ。舞というものを貶すためだけにハリセンなどという馬鹿げた物を持ち出した。

 この怒りは殺して細切れに切り刻んでも晴れることはないだろう。


「もういいわ。その子憎たらしい口を塞いであげる……」


 踊るように扇子を振り、一歩を踏み出したキモノお嬢の体がブレた……。


「「永遠にね……」」

 

 キモノお嬢は二人に分身し……もう一歩踏み出せば四人に、八人に……。


 ズンッ! ズンッ! ズンッ! ズンッ!


 まるで音楽に合わせて分身したような気分になって不愉快だが、目の前の虫ケラを屠るには勿体ないほどの技。


 幾人にも分身したキモノお嬢は舞うように、長い髪の少女を取り囲む。


 誰もが捉えることの出来ぬ神懸かり的な動き。


 せめて、自分が死んだことすら知覚できぬうちに散るがいい……。

 長い髪の少女の背後で、扇子を振り上げる。


「サ ヨ ウ ナ ラ ……」


 綺麗に半分になりなさいな……。


 ズンッ! ズンッ! ズンッ! ズンッ!


 その生意気な脳天目掛けて扇子を振り下ろす。


 


 ズンッ! ズンッ! ズンッ!


 

 

  ┓

 ズ

 ン  そして……目が合った……。

 !


 


「……………………は?」


 自分の口からマヌケな声がもれる。

 

 脳天から唐竹割りにしてやろうとしていた少女の頭が……ギュルリと上を向き、背後にいた自分と目が合った。


 幾人もの分身を用意したはずなのに……本体である自分と目を合わせる。


 あり得るワケがない……。


 そして……人間離れしたキモノお嬢の知覚が少女の表情を見た……。


 少女はニィイイヤァアア……と笑うと微かに口を動かす……。




 みぃ つけ たぁ……

 


 

 扇子を持つ手にゾワリ……と怖気が走る。


「チィッ!!」


 それを振り払うかのように、顔面目掛けて扇子を振り下ろす。


 ズンッ!!

 少女の顔がブレる。


 両足のジェットブーツを左右で前進と後退をさせ、体高を低くコマのように回転した少女は、開脚された両足でシャカシャカ回り回避すると、『どうしたの?』とでも言うように目を細めて笑った。


「……な……ぜ……ッ!!」


 あり得ない。


 目の前で起こった超常現象に、一瞬呆けたお嬢だったが、ギリッと奥歯を噛むと鬼のような顔で睨みつけた。


 少女の両脇に分身の二体が現れる。


 当然のように振るわれる分身二体による扇子の斬撃を……


 ズン!

 

 あろうことか少女は振り向きもせずジェットブーツの摩擦による動きで上空に避けた。


 上空で上下逆さまに回転する少女の背後に、新たな分身が現れ扇子が振るわれる。


 ズンッ!

「【反発レール】」


 ミサイルのように地面に向かって発射された少女は着地すると、待ってましたとばかりに囲まれた三体の分身の攻撃を……


 ズンッ! ズンッ! ズンッ! ズンッ!

   ┓

  ア  首を下げて避け……

 ヒ

  ャ  腰を捻って避け……

 ヒ

  ャ  とても……

 ヒ    とても……

  ャ    楽しげに踊る。


「ふざけるなッ!!」


 思わず口から出てしまった言葉……。


【なぁに言ってんスかぁ……踊りましょうよぉ】

「ッ!!」


 踊りながら高速で移動した少女が、お嬢の背後でケタケタ笑う。


「……チィッ!!」


 一閃……。

 振り向き様に少女の首を扇子で落とす。


 少女の首はカクンとズレ……


「あれぇ〜?」


 しかし落ちずに不思議そうな声をあげると、酷く嫌らしい笑みを浮かべる。


「不思議ですねぇ〜? 首が繋がってますよ?」


 お嬢はあり得ない光景に動揺を隠せない。

 確かに首を落としたはずだ。


 ふと、少女の足元を見てみれば、答えは単純過ぎるほど単純だった。


 少女の両足の前から一直線に続く焦げたような跡。


 目の前の少女は、その不思議なブーツで体勢をそのままに高速で後ろに後退したのだろう。


「なんだ……なんだそれはッ!! 答えろゴミムシ!! キサマ何をしたぁっ!!」


 こんな事があって良いはずがない……。

 自身の舞を見切り、あまつさえ避け切るなど……起こり得るハズがないっ!!

 自分の舞はそんなに安い物ではないのだ!! 


 しかし、目の前の存在は確かにソレをやってのけた……。

 

 ピシリ……と心にヒビの入る音が聞こえた。

 

 驚愕と共に、ヒビ割れた心から去来するのはマグマのような強い怒り。もう表情を取り繕う余裕はなかった。


 普段は見せない感情的な顔で、目の前のバケモノを睨みつける。


「あはぁ〜? ご主人様は『分かんない』ばっかりですねぇ〜。少しは自分で考えたらどうです? 眼球だけじゃなくて脳みそも硬いんですかねぇ」


 馬鹿にするような顔で囀る少女が、ここでストンと表情をなくした……。

 その態度に、ビクリと反応してしまった自分に腹が立つ。


「最初はさぁ……アンタのこと、私の天敵だと思ってたんだ。でも違った……」


 チリチリと……全身を見られているような感覚。

 それは、目の前の少女からではない……。


 


「私が……私たち(●●●)がアンタの天敵だったんだ」


 自分の一挙手一投足を、流れる音楽に乗せられているような違和感……。

 彼女はようやく気づいた……。


「キサマか……」


 誰もが捉えられぬ舞の所作、それを唯一観測できていた存在(ムシ)がいたではないか……。


「キサマかぁッ!! シロォォォオオオオ!!」


 白髪の幼女は、瞳を煌々と赤色に光らせ、瞬きもせずに穴が開くほどコチラを見ていた。

 


  【VRリズム剣豪】踊る能力

  【MOD オン幼女】


 

【正ぇ解ぃ〜】

「ッ!!」


 白髪幼女に視線が移った瞬間、背後に移動していた少女が声を掛ける。そして手に持ったハリセンが振るわれた。

 

「チッ!!」

 

 それを扇子で受け止めれば、スパァンと破裂したような甲高い音。音とは裏腹に、手に伝わるのは非常に軽い感触だ。

 これは攻撃などではない。


 こんなもので何万発叩かれようが、自分にダメージすらない……しかし……。


 振り返って少女に振るった扇子は空を切った。

 扇子を飛び越え、回転した少女のハリセンが迫る。

 防御しなくとも問題はない……それでも……。


「馬鹿にするなっ!」


 それを逆の扇子で受け止める。

 

 プライドの問題だ……当たったところで何の意味もない……それでも、むざむざハリセンに叩かれるなど彼女のプライドが許さなかった。


「アヒャヒャヒャヒャ!!」


 スパパパパパパァアンと、ハリセンと扇子の打ちつけ合う音が響く。


 当たらない……。

 相手の動きを読み、力を逸らす自分の舞が意味をなさない。


「クソがぁ!!」


 それだけではない。

 髪の長い少女の動きが読めない……。


 これ程の屈辱はない。


「アハハハハッ!! めっちゃ怒ってんじゃん!!」


 少女は未来でも予知しているかのような動きで回避する。


 ……いや違う。本当に読んでいるのは、目の前の腹の立つ少女ではない。

 白髪の幼女のほうだ。


 白髪幼女が自分の動きを読んで、少女に何かしらの方法で伝えているのだ。

 そうだ……シロは魔力の流れが見える。

 魔力で道を作る自分の動きが……事前に読まれてしまっている。

 恐らく、この音楽、この音楽で白髪幼女は伝えているに違いない……。


「……天敵」


 そう、天敵だ。

 認めるしかない……。

 白髪幼女は間違いなく自分の天敵だ。

 

 しかも髪の長い少女の重心は元々読み辛い。

 いや、白髪幼女に操作されている状態だと、中途半端に重心が読めるのが仇となっている。


 扇子が酷く短く感じる……。

 少女の首に今一歩届かない。


 相手の重心が読めるからこそ、それを自然と見るクセがついている。

 そのせいで、中途半端に重心の読める少女との距離感が、おかしくなってしまっている。


 天敵……まさしく天敵。

 二対のムシが協力したことにより生まれたバケモノ。


「ぐぎぎッ!」


 許せない……許せない許せない許せない許せない。


 こんなペテンで、まるで自分が虫ケラと同格と言われたようで我慢ができない。


 なおも少女のイカれた動きから繰り出されたハリセン。それを扇子で受けようとして。


「……おやぁ?」


 少女がハリセンをピタリと止めた。

 そして少し不思議そうに首を捻った後、何かに気づいてニィイイと口を吊り上げる。


 酷く意地の悪そうに、隠していた何かを見つけたように。


「何がおかしいッ!!」

「アヒャヒャヒャヒャ!!」


 少女はジグザクに後退して避けると、腹を抱えて笑う。


「いや〜、失礼したッスねぇ……実はさっき、直前で幼女ちゃんからの指示が変わったんですよねぇ……」


 ニヤニヤと笑う少女に、嫌な予感が走る。


「このまま扇子を叩いたらダメだって。ハリセンが壊れちゃうってさぁ!! あ“ーっハッハッハッ!!」


 一瞬、言われた意味が分からなかった……しかし、その意味に気づいた瞬間……頭にカッと血が昇った。


「随分と力一杯握ってらっしゃるようで。……もしかして無意識でした?」


 本人達以外には分からないだろう……しかし、その事実は間違いなくお嬢のプライドをズタズタにした。


「ゴミがぁ!!」


 離れた位置から扇子を振る。

 鉄をも切り裂くカマイタチのような斬撃が少女を襲う。


 ズンッ! ズンッ! ズン! ズズスンッ!!


 その嵐のような暴力を……避ける。


「アハハハハッ!!」


 いや、踊る。

 両手にハリセンを持ちながらクルクルと回り、振り付けまでつけて避ける(踊る)


 全てを避け切った少女は、ハリセンで自分の肩をペチペチと叩いて挑発的な表情を向けてきた。


「終わりですかね? いや〜、ご自慢の『舞』とやらも……」


 言うな……。


「全部幼女ちゃんに見切られちゃうんだもんね。あれ? 怒りました?」


 怒らないワケがない……むしろ怒りなど通り越している。


「もしかして頑張って、舞とやらを覚えたんですかね?」


『アナタ……今まで必死に鍛えて鍛えて自慢の腕力を手に入れたのよね?』

 それはかつて、二人の少女に出会った時に自分が口にした言葉……。


「それがご主人様のプライドなんですかね?」

 

『そしてその腕力を手に入れた事が自信になり、自分の腕力にプライドを持ったのね』


 言うな……。


 


 『私はそんな力自慢に教えてあげるの』


 


「無駄な努力ご苦労様ぁ……テメェの人生たいした事ねぇなぁ」

 


 ブツリと……何かが心の中で切れた気がした。


 


「ア“ア“ア“ぁア“ァああ“ああ“ぁぁああアアアアァァ!!!」


 自身の魔力で扇子を覆い飛ぶ斬撃を生成する。


 百本をも超える斬撃(暴力)が、たった一人の少女に向けて発射された。


 ズンッ! ズンッ! ズンッ! ズンッ!

 

「アハハハハッ!! 怒った!? 怒っちゃった!? くだらねぇ人生のクセにプライドだけは一丁前だよなぁオイ!!」


 逃げ場のないようなその猛攻を……不規則な動きで、目の回るほどのスピードで駆け回り避けていく。

 楽しそうに笑いながら、踊るように避ける。


 そして、最後の斬撃を上空にジャンプして回避した少女は、クルクルと回転してキモノお嬢の邸宅の屋根に着地した。


 その少女に向かって再度、扇子を振りかぶろうとして


「ッ!!」


 ピタリと止める。


「…………」

「…………なんだその目は……」


 終始ニヤニヤと笑いこけていた少女の表情はストンと抜け落ち……コチラを見ていた。


 屋根に立っている関係で、まるでそれは自分のことを見下しているような……。


 そして酷く『つまらない物』をみているような目……。

 それが彼女のプライドを刺激した。

 


「アアぁあああああ“!! その目をヤメロ!!」


 キモノお嬢を起点に、暴風が吹き荒れる。

 凶悪なオーラが地面を、森を、少女の立っている邸宅をビリビリと震わせる。


 


「もういいゴミムシがっ!! チリになれっ!!」

 



 ついに、キモノお嬢が荒々しく舞った。


「さて、現れたね……」


 少女は屋根の上で空を見上げながら呟く。

 

 視線の先には空一杯に広がる長い体の龍。

 黄金に光るその龍の周りでは、お嬢の心情を表すかのような黒い雷がバチバチと迸る。


 前回に見た黄金龍より数倍は大きな、その圧倒的な暴力は……。


 たった一人の少女を消し飛ばす為だけに生まれた。


 その黄金龍の周囲がキラキラと輝きだす。

 大地を砕く金属の杭を生成する。

 

 その数は数えるのすら馬鹿らしい。


 その金属の杭が、嵐の雨のように少女に降り注いだ……。


 空全体が落ちてくるその光景を見ながら、少女は屋根の上でしゃがみ込む。

 

「……頼むよ幼女ちゃん……私に……道を示せ!!」


 少女の足元に車輪型魔法陣が現れる。



 白髪の幼女は、赤く光る目をカッと見開く。

 瞳孔は小刻みに揺れ、雨の隙間を縫うような『道』を探り出す。


 ズンッ! ズンッ! ズンッ! ズンッ!


 曲は最後のサビに差し掛かろうとしていた。


「……」

「……」


 全てを終わらせる金属の杭が降り注ぐ瞬間……少女は嵐に向かって射出された。


 

 お嬢の屋敷は一瞬で倒壊……もとい粉々に。

 地面は掘削機のように掘り進められ、なおも捲れる。


 唯一救いがあったとすれば、豆粒のような少女一人に攻撃が向いていたことだろう。

 広範囲に渡って被害が出ることはなかった。

 無差別だったら山一つとはいかなかっただろう。


 そんな光景を作り出したキモノお嬢は空を見上げて呟く……。



「……そんな……馬鹿な……」



 ズンッ! ズンッ! ズンッ! ズンッ!

 

 金属の嵐を切り裂く『雷』のように……少女は突き進む。


 万を超える雨を空中で避け、仕舞いには金属の杭すら足場にして突き進む。


「……ふざけるなッ!! 何だそれはッ!!」


 針の糸を連続で通すような神技……。

 魔力の流れを読み、金属の杭が起動しない位置を足場にするというイカれた精神。


「認めないッ!! 認めてなるものかッ!!」


 力の方向を見極め、力をいなす……

 少女のやっていることは認めたくなくとも、まちがいなく『舞』だった……。


 

 金属杭の嵐を抜けた少女が、地に落ちた雷のように着地する。

 間髪いれずに少女はハリセンを翻して、キモノお嬢を視界にいれミサイルのように突っ込んでくる。


「認めないッ!! キサマを認めないッ!!」


 自身に凄まじいスピードで迫る少女に、斬撃を飛ばす。

 

 当たらない。


「チィッ!! 直接掻っ切ってやるわッ!!」


 手に持つ扇子を開いて、向かってくる少女の首を目掛けて振り切った。



 


 お嬢と少女が接敵する瞬間……

 白髪の幼女は静かに目を閉じた。


 ズンッ! ズンッ! ズンッ! ズンッ!


「…………ぱーふぇくと」


 スパァーン……


 その音が鳴り響いた場所では、キモノお嬢は扇子を振り抜いた姿勢で、少女は空に舞い上がり回転している。


 少女の両腕は確かに振り抜かれていて、ハリセンは歪に歪んでいた。


「……」


 着地した少女は、慣性を殺すためにギャリギャリと地面を進んで止まる。止まった少女のジェットブーツは役目を終えたように消え去った。

 そして曲がったハリセンをポイッと無造作に投げ捨てた……。


「……キサマ……キサマァァアア!!」


 キモノお嬢は、驚愕の顔をクワッと歪ませ怒りの表情を見せる。


 顔面をハリセンで叩かれた。


「だからどうしたッ!!」


 そんな物は、何万発叩かれたところで何のダメージもない。

 許さない……存在を残すことを許さない。


 般若のような顔で、立ちすくむ少女の後ろ姿に大股で歩み寄る。

 そして、その後ろ姿に向かって扇子を振り上げた。


 

「……おやおやぁ?」


 ピクリと止まる扇子。


 少女は、肩越しにこっちを覗くと、口を三日月に歪ませて笑った。



「優雅じゃありませんねぇえ?」

「ッ!! キ、キサマッ!!」


 キモノお嬢の奥歯がギリギリと音を立てる。

 振り上げた扇子がブルブルと震える。


「わざとッ!! 私を怒らせてッ!!」


 あまりの怒りに唇を噛む。

 眼球に刃物すら通さぬ、キモノお嬢の口から血が滲む。


 この少女は、自分に対して人質を取ったのだ。


 突きつけられるのは『少女を殺すこと』と『舞』……どちらを取るか……。


『『舞』の基本なのよ。相手を観察して動きを読む、そして相手の動きをコントロールする』

『相手の全力をいなし、その全てを無意味にするのが私のポリシーよ』


 試しているのだ。自分の舞に対するポリシーをッ!!


 扇子がミシミシと嫌な音を立てる。


 振り下ろせば簡単に少女は真っ二つになるだろう。

 足の不思議なブーツもないようだ。


 そう、もとより勝負になどなっていなかったのだ。

 ハリセンなんて何万発殴られようが無意味。

 冷静に対処すれば、それすら当たらない。

 


 だから……だから少女は自分を必要以上に怒らせた。


 無駄に煽って本気を出させた。


 そして『力づく』の攻撃で押し潰させようとした……。


 それで殺せていたならよかったのだ……。

 それで殺していたら、ただムシを潰しただけ……。


 しかし、この少女たちは示してしまった。


 自分の全力を躱しきり、一撃を喰らわしてきた。

『力』をいなし、『力』を制御する。すなわち舞の真髄。


 最初から少女達は舞で自分に勝負を仕掛けていたのだ。


 自分の力づくを防ぎ切った時点で、少女達は『舞』の勝負というステージに初めて立ったのだ。


 しかし、悲しいかな少女達にもう残された力は残っていない。

 故に……


 グシャリと扇子の柄を握りつぶす。


「……私の……」


 振り上げられた手は、力をなくして下される。


「……負けよ」


 故に……

 この無力な子供を殺すという行為は

 力づくで勝利した……という結果しか残らない。


 それは彼女のポリシーを……プライドを。

 舞に捧げた人生を否定することになる。



「……ゲームクリア」

 

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― 新着の感想 ―
好きな舞と勝敗を天秤にかけてプライドを取るお嬢様いいね 幼女ちゃんの存在はもはやtas
[気になる点] やっぱりぬるい結末になった
[一言] ハガレンのキンブリーの言葉を思い出した 「貴方、美しくない」 だからこそ、プライドを取ったお嬢は美しい
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