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物理を演算してんだよ


「さて、まず大前提を考えとかなきゃね」


 能力の目的とする所だね。

 とにかく勘違いしちゃいけないのは、真っ向から殴り合うのは無理。


「当たり前か!」


 当たり前も当たり前。

 でも本当に勘違いしちゃいけない大事な事だ。


 じゃあ逃げるための能力にするか?


「ちょっと厳しい……」


 本命の欲しい能力ではあるけど、逃げ出せばきっとキモノお嬢が、私たちの前に立ち塞がる。


 そんな時、ただ逃げるだけの能力では太刀打ちが出来ない。


「基礎スペックが違いすぎるんだよなぁ……」


 下手な小細工では潰されて終わりだ。

 そもそも私は、キモノお嬢の動きが全く見えないし、読めない。

 そしてキモノお嬢は、私の小細工を真正面から捻る力を持っている。


 付け焼き刃の能力ではダメだ。


 相対した時に、キモノお嬢の見えない動きに対処しつつ、逃げられる能力……。


「一応……ヒントはあるんだよね」


 

『前の時も思ったけど……コレを使ってる時オマエの重心の動きが分かりづらいのよね』


 私を捕獲した際に、キモノお嬢が呟いていた言葉だ。


 突破口はこれ。


 会話の流れから、キモノお嬢は私の重心の動きを察知して、動きを読んでいるらしい。


 ならば重力を操るような能力はどうだろうか?


「たぶんダメ……」


 面白い能力になりそうだけど、キモノお嬢に対抗できるようになるまで時間がない。使い慣れない能力なんてキモノお嬢に通じないだろうね。


 それを言い出したら何の能力にしてもダメか。

 

 まぁぶっちゃけ、私の中では方向性は固まっているんだけどね!

 


「と言う事で……能力の方向性としては、『ジェットブーツの動きを補助できる能力』にします!」



 どうでしょ?

 唯一、キモノお嬢が私に対して、面倒だと感じたであろうジェットブーツ。

 新たに能力を開発してぶつけるより、今ある使い慣れた能力を、伸ばす方向へ考えてみたんだ。


 能力としては、ジェットブーツを使っていることが前提の能力になる。つまり、この能力を使用するなら自動的に四つ装着できる能力のスロットを、二つ消費してしまう事になるね。


「うわ……使い勝手悪そ……」


 でもしょうがない。

 そのくらいしないと、キモノお嬢から逃げるなんて難しいんだからさ。



「つーことでハイ、今回のゲーム」

 

『Locomotive Simulator 〜ロコモーティブ シミュレーター〜』


 実は、前々から構想はあったゲームなんだよね。

 でも能力として考えた場合、現状で必要性を感じなかったんだ。

 そもそもが、ジェットブーツが前提の能力だからね。


 だが今回はこの能力がキモだ。


 さっそく始めていこう。

 レッツプレイ!

 


 ゲームを起動すると、いきなりタイトル画面。

 ポップなフォントでLocomotive Simulatorの題名が表示され、背景では煙突から煙を吹き出す機関車。


 本物のようにリアルな機関車ではなく、ツミキで出来たような3Dの可愛らしい機関車だ。


 Locomotive【ロコモーティブ】

 つまり『機関車』を題材としたゲームということだね。


「PVで大体どんなゲームか分かってるけど、一応チュートリアルから始めて行こうかね?」


 ……あるよな? チュートリアル。

 私、チュートリアルがないと不安になるタイプなんだよ。お、あるある。


 よっしゃ!

 いま私が把握している、このゲームの概要でも説明していこうかね。


 ジャンルとしては、題名に『シミュレーター』と付く位だから、もちろんシミュレーションだよ。あと付け加えるなら『建設』かな?


 ちょっとゲームの中では、マイナー寄りのジャンルみたいなんだけどね。『ブリッジビルダー』という根強い人気を誇るジャンルなんだそうだ。


「ほうほう、ステージクリア性のゲームか。一面ずつ進んでステージを開放していく感じね」


 最初の数面がチュートリアルみたいだね。一からゲームを教えてくれるのは好感が持てる。


 ステージのクリア条件は非常に分かりやすくて、『機関車』を『ゴール』まで持って行く事。


 ステージを始めると、横スクロールのような画面になり、機関車とその進行方向にゴールが見える。


「なんだ簡単じゃ〜ん」


 とか行かないのがこのゲーム。

 機関車とゴールの間には川があって、ゴールには辿り着けない。

 まぁチュートリアルだから、一回失敗しているところを見せるために、そのまま進めるつもりみたいだね。


 チュートリアルが丁寧なゲームは好きだよ!

 練習中でも飽きさせない。これは良いゲームだ。

 レビューでも高評価だったしね!


 ステージ開始時点では、時間は止まっている状態。そして時間を進めるボタンがあるんだけど……。

 その時間を進行させるとぉ〜。

 機関車は、シュッポッシュッポッと黒い煙を吐いて前に進み始める。


「そして川にドボンと……」


 まぁそうなるよね。ま、これが悪い例。

 

 そして、プレイヤーがやる事といえば、実は機関車の操縦じゃなかったりする。というかプレイヤーが直接、機関車に干渉する手段はない。

 そーいうゲームだ。


 じゃあどうやって機関車をゴールまで持って行くのか? そう、もうこのゲームの内容は分かるよね。

 ブリッジビルダー……プレイヤーはゴールにつながるレールを作るんだ。

 だからジャンルが『建設』なんだよ。


 まずは、ツールからレールを選んで、ボスッボスッと川の岸と岸を繋ぐ。


「んで、時間を進めるっと」


 先ほどのように、前方に走り出した機関車は、私の作成した橋をブルンブルンと揺らしながら、川を渡る。


「はいゴール!」


 楽勝だね。

 次のステージでは川の幅が広くなっている。


「長くなっただけで、さっきと同じじゃね?」


 とか思ってたら、機関車が橋を中程まで進んだ所で、バキッという音と共に崩壊した。そして機関車は哀れ崖の下へ真っ逆さま……。


「あ〜なるほど」

 

 ……橋が長くなったことで、レールが機関車の重さに耐えられなかったのか。


 うん、このゲームにおける最大の売りだね。


 このゲーム、『物理演算』を組み込んだゲームなんだ。

 物理演算がなにかって? ……知らんよ。

 なんとなく分かるだろ。


 まぁともかく、重さやら摩擦とかの物理をゲームがシミュレートしてるから、橋は耐え切れなくなり崩れちゃったんだよ。


 まあ、小難しいことはいい。

 橋が重さに耐えられなかったってだけだ。


「う〜ん、橋を崩れさせない為には……コレだな」


 橋の下に『柱』を設置してやる。


「お、行けた行けた」


 まぁこう言うゲームだよ。


 

 ――――――――――――――――――――――



「おわっ! 機関車が乗ってもいないのに崩壊した!」


 ステージを進めれば進めるほど、難易度は上がっていき、使用する要素やギミックが増えてくる。数時間も進めれば、一筋縄では行かなくなってきた。


「こ、これでどうかな? お、おおっ。ゴール! ようやく行けたー!」


 うん、面白いわこのゲーム。

 魅力としては、あーでもない、こーでもないと、微調整しながら頭を捻り、レールを作成。

 そして作ったら、時間を進めて見守るだけというドキドキの瞬間。


「上手く行った時の快感がクセになるわぁ〜」


 まぁ上手く行かなかった時のストレスもあるけど、それもクリアに向けてのスパイスよ。

 何作もゲームをやってみて気づいたね。


「今度のステージは……うぉ、建設資金が少ない……」


 このゲーム、レールや施設を作るのに決められた資金がちゃんと決まってんのよ。

 だから無制限に建築できるわけじゃなくて、無駄も省かなくちゃいけないんだ。もちろんフリービルドモードという資金無制限のモードもあるけどね。


 普通にゲームとして楽しむなら、資金の制限があった方が楽しい。


「ん〜んん。ゴールは崖の上かぁ。普通にレールを作ってちゃ資金が足りないなぁ……」


 なにかクリア方法が用意されているはずだ。

 お、新しい要素が解禁されてる。これか……。


 反発レールね。このレールに機関車が乗ったらボヨ〜ンと跳ねんのね。

 これを崖の下に設置して……反発の強さも調節できるのか。とりあえず六十位かな? 弱いかな?


「強すぎた!」


 なんか画面内をカコンカコン機関車が跳ね回ってる。

 これ中の乗客グチャグチャだろ……。可愛らしい機関車が暴力的な動きすんのシュール過ぎてウケる。


 このゲームの機関車は割と繊細で、車体が壊れたりするとクリア扱いにならないんだよね。

 だから無理な動きはNG。


 つーことで反発レールの強さを弱めて、フワッとね。

 どや? ん〜、ダメか。強さは良い感じだけど、着地が上手くいかない……。


「あ、これ着地地点に、良い感じにレールを作ってやればいいんじゃね?」


 出来た!

 いやぁ、自分の考えがバッチリ決まった時の爽快感がたまりませんなぁ!

 さて!



「……こんなもんかな」


 

 私の表情が抜け落ちる。


 目を瞑り、出来たばかりの能力をセットする。

 

 首を回してコキコキと鳴らしたら……ゆっくりと目を開いてニィイイと挑発的な笑みを浮かべた。

 

 

 遊び(ゲーム)の時間は終わりだ。

 


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