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初めまして世界


「ふんっぐぎぎぎぎ!」


 私は今、昼間に豚貴族の寝室に忍び込んでいる。夜じゃなくて昼間なのは寝室に至っては昼の方が豚貴族がいないから安全だからだ。

 牢屋から豚貴族の寝室までスキマを等間隔で設置してある今、気をつけて行動すれば問題ない。人が見ていない隙にスキマからスキマにダッシュすればいい。

 牢屋も一応、ベッドを膨らませて擬装しているけどメシの時間も尋問の時間も把握済みだ。


「にゅおおおおお! ……ダメか!」


 それで今何をやっているかというと、豚貴族の部屋のリクライニングチェアをお借りしようと思ってね。やって来たんだけどダメだわ。

 豚貴族が座ってるだけあって大きすぎてスキマの空間に入らない。ギュウギュウ押し込んでみるけど無理くさい。なんせスキマの中はタタミ一畳分しかないから。


「まぁいいか、本当に盗む気はなかったし」


 ホントだよ。流石に部屋の椅子が無くなってたらバレるだろうしね。じゃあなんでそんな事してんの? っていうなら……なんとなく。入るかな〜って。

 入ったら入ったでいいかな〜って……。


 まぁとにかく入らなかったんだからいいでしょ。


 流石に昼の厨房は働いてるコックさんが居るだろうから食べ物はクスねられないかな。牢屋に真っ直ぐ帰ろ。厨房は夜に行けばいいでしょ。


 慎重に人がいない隙を突いて牢屋に戻る途中。ふと通路の窓を覗いてみた。


「……高度が落ちてる?」


 忘れているかもしれないが、此処は飛行船の船内だ。常に空を飛んでいたはずだが下の森が近くなっている。

 なんか嫌な予感がするね。早く牢屋に戻ろう。


 牢屋に戻って数時間後。私は縛られていた。


「なぜに?」


 いや、何もしてないだろ! いや、確かに不法侵入したり、厨房から食べ物を失敬させてもらったけど! バレてないはず……だよね?


 うん? なんかおかしいな。牢屋から出されたぞ。釈放って訳でもないよな。縛られているし。

 

 私は縛られたまま、通路を歩かされる。船内が慌ただしく感じた。でも問題が発生したという訳でもなさそう。ただ忙しそうなだけ……。

 ついでに私を護送しているのは、兵士っぽい一人だけ。捕まった時は大人数で連行した癖に……。

 もしかして人手が足りない? いや、ちょっと分かって来たぞ。


 私はしばらく歩かされた後、外まで連れてこられて確信した。


「どうやら飛行船が目的地に到着したようだね」


 飛行船は地上に降り立っていた。私は飛行船の周りに付いている土星の輪の様な通路を歩かされている。久々に外の空気を吸ったような気がする。

 私がこの飛行船に落ちて来た時に豚貴族の上に落ちて来た、あの土星の輪の部分だ。


 どうやら小高い丘の上に飛行船は着地しているようだ。なるほど、コレだけ大きな飛行船だからね。着陸させる為にわざわざ丘の一帯を切り開いて専用の発着場にしているらしい。


「着陸してると完全に建造物だねぇ」


 丘に建てられたドームと変わらない。


「お、豚貴族と軍人執事だ。二人とも降りるんだね」


 兵士を二十人ほど引き連れた隊列で輪の上を歩いてくる。


「あ、私もアレに加わるのね」


 縄を軽く引かれて私はその最後尾に並ばされた。

 ゾロゾロと輪の上を歩いていると、兵士っぽい格好をしていない、辺りを忙しなく動いていた一般職員みたいな人達が数人ががりで輪の先から階段を降ろしてくれた。


 兵士に連れられて、四十段ほどの階段をエッチラオッチラ降りておりていたのだが、連行していた兵士が焦れたのか、私をハンドバッグみたいに抱えて降りてくれる。

 わるいね、子供の体じゃ段差が高すぎるわ。


 それにしても、


「あのヤンキーはファンタジーを勘違いしてないかい?」


 階段で抱えられながら、丘の上から景色を眺める事になった私はそう呟いた。


 丘の上という言葉の通り、飛行船の発着上は高所にあるわけだが、その見下ろす景色いっぱいに街が広がっていた。地平線の向こう側まで途切れる事なく建物が続いている。


「どの辺がファンタジーなんだよ。発展し過ぎだろ」


 ちょっとこの世界の認識を改めるべきかもしれない。飛行船からチョイチョイ見えてた景色が自然ばかりだったから勘違いしてたけど、発展している所は発展しているってことか。

 よくよく考えればこの飛行船だっておかしいわ。飛行船ってより空飛ぶ建物だもん。元の世界でも無理だわこんなん。


 これがこの世界の常識か。

 

 私の知らない常識だからこそ可能な現実だ。


「うへぇ……この世界、簡単じゃないかも」


 世界が違うなら常識も違う。そんな当たり前のことを再認識した。この空飛ぶドームも私の知らない常識、技術でなりたっている。

 私たちの世界がその世界に合った常識で進化を遂げてきたのなら、この世界の人間はこの世界にあった常識で進化してきたんだ。


 気合いを入れろ私! この世界はもう、他所様の世界じゃない。私がこれから生き抜く世界。


 私の世界だ

 


 地面に降り立つと作業員の人たちが荷物を下ろしたり、運んだりしている。

 

 あれ、もしかして私はいま、初めて異世界の大地に足をつけたのでは? ふふ、転移してから時間がかかったよ。


 初めまして世界。どーも私です。


 

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