子供は船に乗るだけで大変だ
「……ぬぬぬ」
「ど〜お? できたっスか?」
「……うるさい。やってる」
「あ、はい」
どーも私です。
えー宝石店を後にした私たち幼女コンビは、現在、コンビニっぽい店のイートインスペースを占拠しております。
飲み物1杯で二時間粘る剛の者ですが、別に遊んでる訳ではないので問題はありません。
「ゴホン!! ……チッ!」
さっきから店員が私たちの周りの床を頻りにモップで拭いてますけど問題ありません。
てか凄いね。私達の座ってる周りが異常なほどピカピカだぁ。
すんませんすんません。もう少しで終わるんで見逃して下さい。
いやまぁ、本当に遊んでる訳でも、暇つぶしにタムロしてる訳でもなくてね……船のチケット取ってるのよ。
「……たぶん。これでいい……と思う」
ウィーンという音と共に、私たちが座っていた席にある装置から紙が出てくる。
「幼女ちゃん何コレ?」
え? コレがチケット?
こんなにペラいの?
お、でも幼女ちゃんは胸をはってやり切った表情をしている。
そして出てきたペラ紙をブチッと千切って呟いた。
「……何コレ?」
「しらんけど!!」
ヤベェ……たかがチケット取るだけで難航しまくっとる……。
で、なんで船のチケットなんて取ってるかっていうと話は少し前に遡る。いや、遡るほど前でもねぇんだけど……。
――――――――――――――――――――――
「そんじゃ王都目指してレッツゴー!」
「……オー」
OL女に協力してもらって豚貴族の領地を調べた結果。二カ所まで絞れた。
まあ、此処らからその二カ所には直通で向かえないってことでね。王都を経由しないと飛行船がないらしい。
て事でどっちが豚貴族の領地かは分からんけど、王都に行くのは決定した訳だ。あとは王都で調べればええんちゃう? なんとかなるやろ。
「んで、どーやって向かう?」
「……たぶんアレでチケットを買う」
そーやって幼女ちゃんが指さしたのは、コンビニのようなお店だった。発券機みたいなもんがあんのか?
「……お母さんがチケット買ってた。飛行船のチケット買って王都に向かう」
「……なるほど」
ふむ、何処にでもあるコンビニのような店でチケットは買えるようになってんのか。前の世界でも似たような事できたから何となく分かる。しかしちょい待てよ。
「それってさ、一番楽なのが飛行船って事でいいんだよね」
「……? ……たぶん」
「他の行き方に変えないっスか?」
「……なんで?」
「いや、考えてもみてよ。一番楽ってことは他の奴も同じ事を考えてる訳で……簡単にいうとハリウッドメガネに見張られてねぇかな?」
この世界の常識に疎いから何とも言えんけど、少なく見積もってもハリウッドメガネは資金力溢れるメガネだぞ。おまけに誘拐なんて呼吸感覚で行うナイスガイときた。
そんな奴が王都行きの空港を見張らないもんかね? そこんとこ、この世界代表の幼女ちゃんはどう思うよ? もちろん子供だから明確な判断はできんだろうがね。
でもスマン。私よりマシなんだわ……。
「ノコノコ向かって空港でハリウッドメガネが笑顔で手を振ってたらどーするよ?」
「コロス」
そうだね! 殺すよね!
無垢な幼女によるノータイム殺人宣言入りました!
幼女ちゃん、ハリウッドメガネ大嫌いだもんねぇ。
でも少しだけ現実見ようね!
「……でも今はムリ」
おや?
「……今は力が足りない。……力をつけて確実にツブす」
お、おう。
この子、現実見てたわ。現実見た上で現実的にぶっ殺そうとしてたわ。
無駄に感情で動かない分、本気度がうかがえるよね。
「え、えっと、それでどーする?」
「……ぬ」
幼女ちゃんが自前のパイプ端末で調べた結果を元に話し合い、行動が決まった。
ハリウッドメガネの勢力圏から遠ざかる為に、とりあえず列車で移動。空港と違って、ステーション(駅)はいっぱいあるから見張るなんて無理だろって考え。
ハッキリ言って、この世界初心者の私と、子供の考えだし穴はあるかもしれん。
そして次に船に乗って海を渡る。
船の着いた先でようやく、飛行船に乗って王都に向かう。
ちなみに船で渡った先も此処と同じ領地らしい。
なんか広くね? ハリウッドメガネの勢力圏から脱出できてる?
まぁ大丈夫だよね! 同じ領地とはいえ遠くの空港に行くんだ。ハリウッドメガネの捜索から逃れられるだろ!
てな訳でコンビニモドキで船のチケットを購入しようと思ったんだけど……躓いた……。
いや、躓いたは言い過ぎたね。
チケットを取る為にコンビニモドキにある装置を操作する事になるんだけど……もちろん私は戦力外!
そして幼女ちゃんは幼女でしてぇ……文字の読み書きが完璧ではない幼子には難易度が高ぇっていうね。
普通に考えてチケットの購入って複雑な事書いてるだろうよ。船の発着時間やら、よく分からん文章なんかで読み書きが完璧じゃない幼女にチケット取れなんて頭おかしくなるわ。
でもそこは逃亡者の自覚ありの幼女ちゃん……必死に頭をこねくり回して、よく分からん文章はすっ飛ばしてチケットを取ろうとしている。
その結果が……
「……何コレ?」
出てきたペラ紙に目を点にしている状態。
多分白髪ママが出したチケットと違ったんだろうな。
いや、よく頑張ったと思うよ。
普通に考えて、前の世界でコンビニチケットを一人で取る幼女なんて居ないだろうからね。
「……」
「……」
しかし、どうしようね……密航でもする?
「ゴホン! ゴホン!」
いいかげん店員の兄ちゃんの視線も厳しいしさ。
すげぇよこの兄ちゃん。私たちの周りを掃除し過ぎて汚れのドーナツ化現象起こしてるもん。
「ゴホン! ごほ……あぁ、チケットね。それ持ってレジまで来て。チケット発行するから」
ペラ紙見ながらパニックを起こしていた私たちを見て、店員がそう告げてきた。あ、そう言うシステムね。
ていうか最初から聞いとけばよかったよ。
そうしてレジでお金を払い、カード状のチケットを無事ゲットした私たちは、列車を乗り継ぐこと二日。
「海だー!」
「……客船」
目の前には巨大で高級感漂う豪華客船。
船着場まで到着出来た。
しかしチケット代高かった訳だぜ。
――――――――――――――――――――――
「君たち保護者は?」
「……?」
「保護者?」
客船を前に、係員にチケットを見せて乗り込もうとしたら止められた。
「いないっスよ」
「悪いけど子供だけじゃ乗せられないよ。決まりだから」
追い返された。ガッデム……クソが。
子供だけで乗れねぇのかよ!
まずいな……思ったよりこの世界、子供に権利がねぇ。
これ、飛行船に乗る為の空港も怪しいな。
「もう密航するのがいいっスよ」
高いチケット買ったのは腹立つけど、子供だけじゃ乗せられないつーならしたかないじゃん。
「……船のご飯は……ビュッフェ」
悔しそうに呟く幼女ちゃん。
なぬ?
ビュッフェかぁ……豪華なんやろなぁ。密航したら厨房で食材漁り……。
「仕方ねぇ……能力、入れ替えてくるか……私の領域!」
――――――――――――――――――――――
「ようこそ、あぁさっきの。お母さんを待ってたんだね」
「……ども」
船着場でチケットを見せる白髪の親子……。
「親御さんも、子供だけで船に乗せないよう気をつけて下さいね。きちんと一緒に来て下さい」
「…………」
白髪の母親に忠告するが、母親は冷や汗を流しながら答えない……。
「どうしました?」
そんな母親の様子に係員が胡乱な目を向ける。
「……お母さんは病気で……喋れない」
「そ、そうか、それは失礼しました。お母さん大丈夫? 冷や汗すごいけど」
「……大丈夫。そう言う病気」
「本当に大丈夫! なんか、ペラっとしてるけど!」
「……大丈夫。お母さんはペラっとしたお人」
「なんか煙吹いてるけどホントに大丈夫!」
「……よくある」
そんな事がありながらも白髪の親子は無事客船に乗り込む。
そして角を曲がった瞬間。
「ぷはぁ!! ハァ! ハァ! 苦しかった!」
ボフンッという音を立てて少女の姿に変わった。
――――――――――――――――――――――
「あ、危なかったッスわ」
「……ぐっじょぶ」
「どぉ? 気づかれてない?」
「……少し疑ってたみたいだけど大丈夫そう」
ふぃ〜、危ねぇ危ねぇ。
『TRAITOR 〜トレイター〜』
【他者に擬態する能力】
前に幼女ちゃんに化けてた能力だね。
これで白髪ママに化けてたんだけど……この能力ってさ。体の質量が違うと長持ちしないんだよね……。
幼女ちゃんならともかく、ママさんくらいになると十秒って所かな。別にママさんが太ってる訳じゃないよ。
ママさんの髪の毛でもあれば良かったんだけどねぇ。
仕方ないから余ったリソースで、ささやかな制限を増やしてきた。
息を止めてる間は擬態時間が伸びる。まぁ、それほどリソースが余ってなかったから完璧じゃないけどね。
だから喋れなかったんだ。
それに節約でちょっと平面的なママさんになっちまった。
しかも解けかけて煙吹いちゃってたしさ。ギリギリだったわ。
まぁ何にせよ……。
「船に乗っちまえばこっちのもんよ」
「……ビュッフェ」




