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slitースリットー、ゲームクリア


 おはようございます。気づいたら牢屋のベッドに横になっていました。

 どうやら領域内で寝過ぎて二十四時間を経過したらしく、勝手に領域が解除されて戻ってきたようだ。


「夜の探索に向けて二度寝しよ……」


 夜は動くからね。寝るなら昼間の方が都合がいいのよ。それにヒマなんだよ牢屋は。寝るか天井のシミを数えるしかやる事ないんだから。


 今日の夜の探索では上の階を重点的に調べることにした。懐中時計を手に入れた執務室のあった階だ。


「お、この扉とか良さそうじゃん」


 執務室と同じように豪華な扉を発見。侵入開始。

 中は豪華な部屋だった。うーむ、部屋の肖像画を見る限り豚貴族の寝室か? でもキングサイズのベッドは空だ。あれだけデブだとベッドもデカいな。

 

 なんか良いものでもないかな〜。飾ってある置物を手に取る。うん、いらんな。

 リクライニングシート……欲しいな。でもこんなの持って帰れないわ。せめてスキマの能力で空間を作れる様になってからだな。

 これは……この飛行船の模型かな?


 ガチャ……

 目が合った。


「あ……どうもお邪魔してます」


 横の扉からホカホカの豚貴族が出てきた。


「……」

「お風呂に入ってたんすね」

「……」

「お貴族様のお風呂はさぞ豪華なんでしょうねぇ」

「……」


 バスローブ姿の豚貴族は、模型を手に取る私を無言でガン見だ。やっべぇ〜……油断した。

 どうする? 殺す?

 いや何で何も言わないのコイツ。表情が一ミリも動いてなくね? 怖いんだけど。


「それでは夜分遅くに失礼しました……それでは」


 豚貴族が機能停止している間に逃げ出そう。

 ペコリと頭を下げて、テクテク歩いて扉に向かってからニュルとスキマに逃げ込んだ。必殺アナタの見た物は幻よ作戦だ。

 走って逃げ出さないのがコツだ。


 さも当たり前の事、という態度が大事。


 スキマに入り込んでドキドキしながら様子を窺っていると。程なくして起動した豚貴族は覚束ない動作でワインを取り出し飲み始めた。

 椅子に座って目頭を揉んでいる。

 言葉にするなら「ワシ……疲れてんのかな?」だろう。

 なんか上手く行ったわ。


 尋問の時間です。昨日は来なかったくせに豚貴族の野郎が来やがった。昨晩、私の姿を見たのが気になったのだろう。

 はいはい、ちゃんと牢屋にいますよ〜。どうしたんですか? そんな目をして。

 ニッコリ笑ってやったら難しい顔をして出ていった。お疲れなんじゃないですか? よく眠る事をオススメしますよお貴族様。



 ゲームの時間だ。がむしゃらにやり続けたslitースリットーも恐らく今回でクリアなんじゃないかな?


 そんな訳で十九章から開始。

 ジャックに託されたUSBメモリからアジトの情報を入手。そして黒幕の孤児院の先生の真なる目的が書いてあった。ありがちな内容だが永遠の命を求めているらしい。


 二十章 アジトに侵入した主人公は先生の策略により地下深くの大穴に落とされる。その地下からの脱出。結構難しかった。途中で血族のオーブという明らかにキーアイテムっぽい物を拾うが何に使う物なんだろう。


 二十一章、植物を操るアルラウネみたいな化け物と戦う。戦い後のムービーで、実はこの植物の化け物はジャックの妹だという事が判明。ジャックの妹は最後の理性を振り絞って自分で液体窒素を被り、氷漬けになった。

 神々しく氷像と化した妹をバックに「全て終わらせてくる」という主人公の呟きで二十一章のクリア。


 二十二章、さて盛り上がってまいりました。儀式場にてパイプオルガンのメロディーと共に独演会を始める黒幕、孤児院の先生。「待ちに待った……ついにこの時が来たのだ! お前が! 最後のカケラだ!」その言葉を皮切りに悪魔らしいフォルムに変わった先生とのバトル。

 ラスボスらしくその場から動かないで、小さな悪魔を三十体ほど呼び出し主人公に差し向けてくる。

 このパターンはあれだ。ギミックがあるタイプの戦闘だ。

 二回死んで分かった。沢山の悪魔の目から逃れつつ先生の元に辿り着くのが正解だ。

 たどり着いたらムービーの開始。

 

 どうやら主人公に宿っている特別な悪魔を媒介に、目当ての悪魔を降臨させることが先生の目的だったらしい。

 

「もうすぐ……もうすぐ手に入るぞ! 永遠の命が!」

 

 ラスボスお約束の第二形態だ。翼が生えて若返り、イケメンとなった先生が化け物の体で立ち塞がる。

 

 この第二形態の攻撃がとんでもなかった。カマイタチ状の真空波を嵐のように飛ばしてくるのだが……入り込みスポットがフィールドに存在しないのだ。こんなんあり得ないでしょ。一発二発なら問題ない。ギリギリだが回避は可能。

 咆哮とともに放ってくる格子状の真空波が絶対に無理。プレイヤースキルとかの問題じゃない。完全に回避できる余地がないのだ。そのくせ入り込みスポットが存在しないという矛盾。

 はい、死にました。これクリアできる?

 突破口が見つけられないまま四回目のゲームオーバー。


 少し……休憩します……。



 ゲーム再開! 何が辛いって第1形態からのやり直しなことだよ。悪魔三十体の目から逃れつつ先生に向かうの地味に時間掛かる。



 見つけた! ようやく見つけたぞ先生! 入り込みスポットだ。

 最後の入り込みスポット、それは先生の出してくる格子状の真空波、その隙間だ。

 いくら探しても見つからない訳だよ。絶対にくらう攻撃そのものが回避スポットなんだもん。回避に走ってたら見つからないよ。しかも入り込めるのが一瞬だしね。

 ようやく拝めたな、先生ぇ。近づいたらムービーです。

 先生の額にナイフを差し込む主人公。痛がる素ぶりを見せる先生だが、直ぐに余裕の表情を見せると傷が塞がりはじめる。

 その時、主人公が手にした血族のオーブ。ソレに驚愕する先生は奪おうとするが、主人公はそのオーブを悪魔が降臨しようとしている儀式の中央に投げ込んだ。

 どうやらこのオーブ。ジャックのUSBメモリに入っていた情報で全ての悪魔が現世に降臨するための楔になっているらしい。

 ただ破壊は不可能。最大の悪魔が降臨するこの時にしか破壊出来ない代物だそうだ。

 斯くして最大の悪魔の降臨は防がれ、主人公に宿っていた悪魔もいなくなってしまった。

 

 そして、老人の姿となった先生はフラフラと儀式の中央に歩み寄り、布を剥ぎ取った。

 そこには横たわる女性の姿があった。

 何の説明もなかったけど先生はこの女性を助けたかったのだろうと思う。


 そしてイキナリ崩壊をはじめる教団のアジト。途中人間に戻ったジャックの妹を回収して脱出! 朝日が昇る背景をバックにエンドロールが流れ始めた。


 

「素晴らしい! めっちゃ面白かったわ!」


 大満足だよ。まさかゲームでここまでの感動を与えてくれるなんて。

 最初難易度が高すぎて不安があったんだけどね。クリアした今となっては、その難易度の高さも達成感に変わったよ。


 私は流れるクレジットをボンヤリと眺めながら余韻に浸る。

 そしてthe endの文字が浮かび上がった。


 心地よい喪失感を味わいながら私はベッドに転がり込んだ。


「あー……おわったぁ……しばらく何もしたくないっスわぁ」


 このまま寝ちゃお……。起きたら……そうだね。このゲームの攻略サイトとか設定とか調べてみようかな。クリアするまで、見ないようにしてたんだよね。


 そんな事を考えながら意識は薄れていった。



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― 新着の感想 ―
2週目や裏ボスまでどうするのだろうか?
[一言] 豚貴族さんも大変だな…
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