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少年は謳い、少女は笑う  作者: 春乃ねこ
3/5

自称宇宙人の変人少女が見せた一瞬の蒼

 「そういえば、お前はなぜ転校してきたんだ?」


 アリーナ棟に向かう蓮はいちごに疑問を投げつける。さも興味津々であるようであるが、蓮はさほど興味を持っているわけではない。ただ、気になって聞いただけである。


 「引っ越しよ」


 彼女は淡々とそう言った。彼女もまた聞かれたから答えただけであって反応を期待している様子はない。


 「宇宙からか?」


 「違うわよ。いや、宇宙から来てるのは合ってるんだけど!」


 やけに『宇宙』と言う単語だけは強く言う。よっぽど宇宙人キャラは崩したくないようだ。


 「私はね、つい最近までトウキョーにいたのよ」


 「なぜ東京をカタコトで言う?」


 「私が初めて地球人と接触し、場所を聞いた時にその地球人がそう言ってたのよ」


 「………ここの国はなんて言う?」


 「ジャパン」


 「聞いたの絶対外国人だろ…」


 「まあ、日本人からみたら外国人だね」


 「日本わかってんじゃねーか!」


 元気溌剌なツッコミが炸裂!蓮がここまで声を張り上げるところを見るのは一年経ったくらいの高校生活で初めてではないだろうか?明日は多分槍が降る。いや、絶対降る。


 「無駄に大声を出させるな。で、なんで東京から引っ越してきたんだ?」


 「引っ越した理由ねぇ。理由は二つあるわよ」


 「二つもあるのか。てっきり親の転勤かと思ったよ」


 「親の転勤じゃないわ。そもそも、私両親と一緒に住んでないし」


 「…そうなのか」


 「うん。それに、私の両親は今どこにいて、何をしているかなんてわからないわ」


 「わからない?」


 ここで初めて蓮は首を傾げた。いちごは、しばらくの間両親とは会っていないということだろうか。突然告げられた事実に少々戸惑いを隠せない。


 つい、家族構成が気になってしまう。いちごが自称宇宙人なのはまだしも、過去に家族関係で何かあったのだろうか。

 だが、気にしてる素振りを顔に出さない辺り、蓮なりに気を遣っているのだろうか。それとも、そのつい気になった具合がほんのちょっとの疑問だったのか、それとも…


 「あ、でも心配しないでね。私は孤児よ」


 「心配するわ!普通「私は孤児じゃないわ」って言うところだろ!」


 まるで雷のようなツッコミを炸裂する蓮。こんなツッコミが見られるのは今までで二度もなかったはずだ。明日はお金が降るな。降って欲しいな。


 「ていうか、孤児!?てっきり、佐藤が両親とはしばらく会っていなくて、事実的一人暮らしをしている話じゃなかったの!?」


 「貴方、初めて会った時よりもどれだけ元気になってるのよ…」


 若干呆れた顔を見せつつ「まあいいわ」といちごは話を続ける。ただ、蓮も蓮でここまで威勢よく話すどころかツッコミができることに戸惑いを隠せないでいる。


 「そうよ、私は孤児だったの。でも、仕方ないでしょ。私が5歳の時に両親共に行方不明になってしまったの。だから、今はもう生きてるか死んでるかわからないわ」


 「行方不明。いきなりか?」


 「ええ。ある日いきなり両親は私の前から姿を消したわ。その時に腹に赤子を残したまま」


 「赤子?」


 「そう、赤子。出産まであと数週間というところだったのよ。わかっているのは、その赤子が男の子ってことだけ」


 「なるほど。でも、探したんだろ?警察にも通報したんだろ?」


 「いや、行方不明という言葉がここではおかしかったわね。いや、確かに事実上行方不明であるのは事実なんだけど。その時の私は、捨てられたのよ」


 「捨てられた!?そ、そんなことがあっていいのか?」


 「私の星では、たまに聞く話だったのよ。私は養育施設に5歳の時に入れられて、十数年そこで暮らした。ああでも暮らしは悪くなかったわ。ご飯も三日三晩出てくるし。ある程度の自由は保障されてたわ。故に、地球の創作物にたまに出てくるタチの悪い施設とは印象は異なるわ」


 「まあ、こんなところかしら」とあくまで淡々と語り終えるいちご。それでも、自己紹介の時や初めて蓮と話した時の威勢のいい声はどこか行ってしまっていた。


 「そ、そうなのか。なんか、ごめん。こんな話させちゃって」


 「謝る必要はないわ。もう、過ぎたことだから。それに、私が好きで話したのだから」


 いちごの目は明後日の方向を向いていた。向いた先は十数年前の過去だろうか。目は哀しい目をしていた。


 数秒間沈黙が続く。アリーナ棟の入口も目の前に見えており、周りは始業式に向かう人で賑わっている。しかし、この二人の空間だけ重い空気が流れている。


 「で、結局なんで引っ越ししたんだ?」


 「引っ越しした理由、それはね」


 「それは?」


 「CMの後で!」


 「いや、なんでCMの後でなんだよ。アニメかドラマかよ。このあとBパート始まるのかよ」


 「うん、始まるよ。ちなみにBパートでは始業式のシーンから始まる」


 「そりゃこのあと始業式だからな」


 「あと、CMは『C業式が終わった後のMバ○ガーでの食事シーン』の意味ね」


 「どこかの芸能人みたいに略すな。あと、このあと二人で食事シーン?」


 「そうだよ。ほら、台本4ページから食事シーンって書いてあったじゃん」


 「待って!今撮影中だったの!?」


 さっきの鋼みたいな重い空気はどこに行ったのだろう。もう今はヘリウムのようだ。逆に周りから浮いて見えてしまう。


 アリーナ棟に二人の姿は消えていく。始業式は、もうすぐ始まろうとしていた。


     *   *   *


 場所は某ハンバーガー店。時間は正午過ぎ。店内はお昼時ということもある混んでいる。


 2階まで店舗を設けており、2階のテーブル席に蓮といちごはいた。側から見れば一組のカップルがハンバーガー店でランチを食べているように見える。しかし、この二人は今日初めて会った仲である。


 「本当に、ハンバーガー屋で食事をするとは…」


 小さくため息を漏らす蓮とは対照的に美味しそうにいちご。食べているのはアボカドバーガー。バンズにハンバーグとチーズとアボカドとトマトが挟んでいて、特製ソースがかかっている人気バーガーの一つだ。それを一口食べることにいちごのほっぺたは落ちていった。


 ちなみに、蓮が食べたのはハンバーガー店ではオーソドックスのハンバーガー。この店のハンバーガーはバンズにハンバーグとピクルスとトマトとチーズが入っている。そしてトマトソースがかかっているので酸味が効いていて、これも人気の一品だ。そして、既に蓮は食べ終わっていた。


 「あひはらはふ、れんふんははへるのははいへ」


 「食べるか喋るかどっちかにしろ」


 「ちょっと待ってて、すぐに食べ終わおわふはら」


 「………」


 いちごが食べ終わるまでしばらくお待ちください。



 「お待たせ!」


 「ようやく食べ終わったか」


 「いえ!食べ終わってません!ポテトが残ってます!」


 「そこまではいいだろ。口いっぱいにポテト詰め込むわけじゃないし」


 「モグモグ」


 「俺、帰っていいか?」


 大量のポテトが詰め込まれたいちごの口から止めようとする言葉が出るが何を言っているかわからない。既に蓮は呆れ果てていた。


 十数秒後、ようやくいちごがポテトを呑み込み、凛とした顔に戻る。


 (黙ってれば、クールでかっこいいキャラなんだけどな)


 蓮は静かそう思った。


 「で、佐藤がこっちに引っ越してきた理由はなんだ?なんでここの街に住み、ここの高校に通ってる?」


 蓮はほんの少しだけ興味を持ったようだ。それもそうだ。始業式が始まる前からハンバーガー店でハンバーガーを食べ終わるまで焦らされたのだから。


 「理由は二つよ」


 「うん、さっきも聞いた」


 「一つ目は、」


 「一つ目は?」


 「言えない」


 「は?言えないだと…?」


 「ええ、これは宇宙規模の秘密事項よ。これを話してしまうと最後私どうなっちゃうか分からないわ。焦らしてなんだけど許してちょうだい」


 「『宇宙規模の秘密事項』が気に食わないが、わかった」


 「そして、二つ目は、」


 「二つ目は?」


 「恋されちゃったのよ、私」


 「は?」


 目を丸くする蓮。つまり、誰かがいちごを好きになる人がいたのだろうか。

 というか、これから惚気話になっていくのだろうか?蓮がやや目を細めた。


 「想像つかねぇな」


 「む。ひどいなぁ」


 「で、なんでいちごに恋する人が現れるとまずいのか?なんで、東京からここまで来る必要があったのか?」


 「貴方ねぇ、私が宇宙人ってことちょくちょく忘れてるわよね?」


 「忘れてるっていうか…。そもそも、なぜ宇宙人という設定なんだよ。いちいち佐藤を宇宙人だと思わなくちゃいけないのかよ」


 「だって、私宇宙人だもの」


 「ハイハイ、ソウデスカ」


 「むぅ!棒読みで返すな。あと、聞いておいて自分から話を脱線するな」


 頬を膨らませるところ、子供かっ!とツッコミしたくなる気持ちを抑えつつ、「続けろ」とだけ蓮は返した。


 「その人、私が宇宙人だと知らずに恋しちゃってたのよ。そして、その人は生粋のストーカーだったわ」


 「ストーカー!?」


 「ええ、もう煩わしいことこの上ないわ。それに、住所まで特定されるところだったし。ちょっと特殊な住所ということと、その他諸々の件で私にとって住所が特定されるのはあまりにも不都合だった」


 「『ちょっと特殊な住所ということと、その他諸々の件』が気になるが、まあ、住所を特定されるのは地球人であろうとも厄介だからな」


 「ほんと、しつこかったわ。学校で連絡先を何度要求されたことか」


 「教えなかったの?」


 「貴方の癖に馬鹿言わないでちょうだい。それに、今主流の携帯電話なんて契約してるわけないでしょ。なけなしのお金しかないのだから」


 「まあ、そりゃそうだよな」


 「まあ、つまり要約すると宇宙人であるという正体がバレることと、私の星の文明の秘密がバレるのは相当まずいと判断しここまで逃げてきたってわけ」


 「要は、私の隠れた秘密がバレるのが怖かったからそれでわざわざ転校してきたと」


 「ちっがーーう!!!アイアム宇宙人!てか、私の隠れた秘密ってちょっとエッチな響きじゃない!」


 「誰がエッチな響きのように言った。さては、いちご変態だな」


 「む!うっさい!バカ!死ね!宇宙の藻屑となれ!」


 「おいおい、そろそろ落ち着けよ。周りの目線が恥ずいぞ」


 周囲を見渡すと、ハンバーガーを食べている男や、パソコン作業しながらジュースを飲んでいる男、友人と話す女子高生や勉強している大学生など、ほとんどの人がいちごたちの方を見ていた。それはまるで痴話喧嘩の野次馬のようだった。


 いちごはすぐに赤面すると、怒った顔をして再度蓮の方を向く。


 「ふん。貴方のせいなんだから」


 「勝手にエッチな解釈をしたのはいちごだ」


 「いい加減話を戻すわね。これ以上脱線すると尺的に危ないから」


 「………」


 なんの尺かは分からなかったが黙っておくことにした。


 「まあ、簡単には恋されてストーカーに遭って東京からこっちに引っ越してきたわけなのだけど、それはあくまで理由付けに過ぎないわね」


 「理由付け?」


 「そう。私フツーに恋愛禁止だから」


 「は?なんで?」


 「考えてみてよ、宇宙人と地球人が付き合うと色々やばいわよ。遺伝子といった理由で宇宙国際法でも禁じられてることよ。もし、犯されたりしたら…」


 「ゴクリ…」


 唾を一瞬飲み込む蓮。だが、


 「おい、それより前提としてお前を宇宙人だとまだ認めたわけではないのだが?」


 「む。シリアスな展開なのに何を言う。私のアイデンティティだぞ。そろそろ信じろよ、友達だろ?」


 「なんでちょっと友達であることを押し付ける癖の強い奴みたいになってんだよ」


 「え?友達じゃなかったの?」


 「初対面で友達ってフレンドリーすぎるだろ!」


 「まあ、フレンドリーな自信はある」


 (こんな奴が友達でいいのか?)


 一抹の不安を感じる蓮。それもそうだろう。自称宇宙人。自己紹介で宇宙人であることをアピールする少女。そして、変人。この少女と今後友達やっていって大丈夫なのだろうか。


 あと、いちごは蓮に向かって「私を退屈させないでくれ」と言っている。正直今後面倒ごとに関わりたくない。


 ただ、話していると楽しく、それでいて美しく可愛い少女は今後蓮の人生でいつ現れるのだろうか。それくらいにいちごと話している時間は妙に心地よかった。


 「………」


 「はにゃ?なんで急に黙るの?私、何か変なこと言った?」


 「うん、変なことしか言ってない」


 「む!なんだと!」


 「でも、ちょっと楽しかった」


 「本当?良かった。脱線し過ぎて話したかったこと全て話したわけではないのだけど。例えば、なぜこの地を選んだのかとかね。まあ、それもいいか。少しずつ話していくとするよ」


 最後は笑顔を見せてくれるいちご。本当、黙って笑顔だけ見せてくれれば印象いいんだけどなあ。もちろん、蓮はそんなことは言わない。


 「さて、難しい話は一旦終了!私ちょっと気になったことがあるんだけどいい?」


 「何?」


 「貴方が朝読んでた本ってどんな本?」

後書きコーナー

蓮「今回の問い、『どうして宇宙人は自分が宇宙人だとバレてはいけないのか』について考えてみる。まず、これを考える上での前提条件として、宇宙人が地球人として擬態していることが挙げられる。擬態していなかった場合は既にバレているも同然だからだ。また、私の隣の席に座る自称宇宙人は例外である。さて、この問いに関しては、まず始めに宇宙人の立場になって考えてみよう。自分が宇宙人で、もし自分が宇宙人だとバレてしまったら、一体どうなるのだろうか。周りの噂程度で済むのか、或いは…。

この問いの答えは、次回、お話の中で」

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