ローダンセ
「久しぶり」
『久しぶり』
「はい、お土産」
『わっ!朝香の手作りパウンドケーキ!』
「好きでしょ?」
『うん!高校1年のバレンタインで初めてもらって食べた時から、ずっと大好き!』
「昨日ね、仕事必死で終わらせて、残業免れて帰ったんだ。妃花にケーキ作ること考えたら、頑張れた」
『えー!嬉しい!ありがとう、朝香』
「桜、咲いたね」
『そうだね。春って感じ』
「春って感じ」
『あっ、同じこと言った、うふふ』
「ふふ。妃花、春、好きだったよね」
『うん!春が季節の中で一番好き。朝香は確か……』
「私は、夏が一番好き」
『そうだそうだ!夏だ』
「7月の暑ーい日に、海、一緒に行ったことあったよね」
『あったあった。1日中、遊んだよね』
「ビーチバレーしたり」
『そうそう』
「スイカ割りしたりね」
『懐かしい~!』
「私は全然ダメで、妃花が、お見事!ど真ん中に当てて、割ったんだよね」
『あはは!そうだったね』
「懐かしいね」
『うんうん』
「秋には、焼き芋大会するのが恒例」
『大会っていうほどの人数いないんだけどね。あははっ』
「2人だけ。けどそれが、すごく楽しかった」
『美味しかったな~、炭火で焼いたサツマイモ』
「去年の冬は、イルミネーション、2人で見に行ったよね」
『そうだそうだ!“恋人同士かよ!”って、お互いにお互いでツッコんだよね』
「綺麗だったなぁ、あの、ピンク色の、でっかいクリスマスツリー」
『たしかに……あの綺麗さは、忘れられないなぁ』
「あれ見て、約束したんだよね。来年の春は、桜見に行こうって」
『……そうだね』
「行きたかったな……」
『うん……』
「妃花と一緒に、桜……見たかった……」
『うん……』
「……泣かないよ、私は」
『えっ……?』
「妃花なら、きっと、こう言ってくれると思うんだ。“朝香、笑って”って」
『朝香……』
「だから、もう、泣かない。妃花、今も、天国から私のこと、見ててくれてる?」
『うん……うん、見てるよ』
「妃花、私の声、届いてる?」
『うん……届いてる。全部、聞こえてる』
「妃花、泣かないで」
『なっ……泣いてないよ……』
「笑って、妃花。約束、ね」
『うん……わかった。約束、ね』
「これ……誕生日プレゼント」
『お花……?』
「ローダンセっていうの」
『綺麗……』
「花言葉は、“変わらぬ思い”、“終わりのない友情”」
『終わりのない、友情……』
「私たちは、これから先も、ずっと親友」
清森朝香は、立ち上がった。
彼女の目の前には、水上妃花の墓があった。
「大好きだよ、妃花」
『私も、大好きだよ、朝香』
「じゃあ……またね」
朝香は振り返った。
そこには、満開の桜があった。
『またね。いつでも、待ってるから』
桜の枝が優しく揺れたのを、朝香は見た。