侯爵様、私は沢山触れてほしいのです
2週間に一度の頻度で私は婚約者のシンディ・グリファン様とお会いしている。
シンディ・グリファン様は、深い藍色の髪の毛はサラサラと太陽の光に当てるとキラリと天使の輪が輝き、深緑な瞳なんて一度目を合わせたら逸らすなんてもったいないくらい。
更にいうと容姿もとても整っているのに、程よく鍛えられている体もあわせもっているお方で、思わず抱きしめてもらいたいという願望が湧き出てくるくらいだ。
そして私より2歳年上なだけなのに、もう後継ぎとして活動されて………、要するにめちゃくちゃ理想的で魅力的な人気のある男性だ。
そんなお方に平凡な容姿で、家格も男爵でどう考えても政略結婚には力が足りないような私がどうして婚約者に選ばれたのかというと、実際のところよくわかっていない。
「今度こそ…、今度こそ…お伝えしなくては…!」
ぶるぶると震える手を握りしめて、ガタガタと揺れながら彼の家へと向かう馬車の中私は以前から考えていたことを今日こそは伝えるべく_目尻には涙が浮かんでくるが_気合を入れる。
ここまで震えながらも、勇気を奮い立たせて伝えようとしていることはなにか。
それは、彼との婚約解消についてだ。
勿論シンディ・グリファン様のことは全く以て嫌いではない。
お伝えした通りとても魅力的な彼を逃したらきっと私は、一回り以上年が離れている方に嫁ぎに行かされるかもしれないくらい、‥まぁ、要するに男性に人気がないのだ。
別にお茶会やパーティーで粗相を侵したりした記憶はないし、女性の友達は普通にいるから、原因といえば姉や妹よりも出ていない女性的な肉体から遠い部分にあるのだと思っている。
それに私だって結婚するならかっこよくて素晴らしい男性がいいに決まっている。
ではなぜそんな素敵で理想的な方と婚約解消を求めようとしているのか、それは彼とこのまま結婚しても幸せにはなれないからだ。
勿論それだけの理由ならば、私が我慢すればいいだけのこと。政略結婚ならは普通のことだ。
だけど見てしまったのだ。
彼が私の家に来て下さったとき、私が席を外している間彼の相手をしてくれた妹に微笑む彼の姿を。
私には一度も向けてくださらなかった微笑みを妹には向ける。その意味を理解した瞬間、私は彼と結婚したら私も彼も不幸になると思ったのだ。
馬車が彼の家の前に着いた時、馬車の外から声がかかり扉が開かれる。
婚約者として待ってくださっていたのだろう、もう涼しくなるとは言っても日差しはまだこんなに強いのに、なんとも律儀なお方なのだろう。
そんな彼の行動が私の胸を高鳴らせて、頬を赤く色づかせるのだ。
だけど
「………」
無言で差し出された彼の手には革製の手袋がはめられている。
最初はそういうものなのかと思った。
だけど、以前はしたない行動だが走る馬車の中から彼の姿を1秒でも長く見る為に覗き込んだ時、私と別れてから鬱陶しそうに手袋を外す彼の姿を見てしまったのだ。
はめたくもない手袋をどうしてはめているのか……
私は差し出された手に、いつものように軽く手をそえて馬車から降りる。
すると、するりと離れる手になんとも言えない感情で胸をつぶされたような痛みが走った。
そんなに私に触れたくないのか。
布製ではなく革製の手袋をはめるほどに。
そんな思いがふつふつと湧き出て、私の胸をぎゅうと締め付ける。
そして、こうして毎回出迎えてくれるのに、門から玄関までの道ではエスコートすらされない。
エスコートされない私は、彼の後ろを彼のスピードに合わせながら懸命に追いつこうと必死に足を運ぶことにも気付いてもらえない。
(だから、高いヒールも履かなくなったのよね)
ヒールの高い靴は女性の憧れだ。
長いドレスもふわりと広がるドレスも綺麗にみせてくれるだけではなく、宝石に見立てたようなガラスの細工がキラキラと輝きを放つほどに装飾されている。
勿論金に糸目をつけない上級身分の方々はガラスではなく宝石などをあしらっているだろうが……。
そんな美しい靴とは裏腹にヒールの無い靴は、はっきり言って地味なのだ。
装飾など微々たる程度にしか付けられていない。
男性だが侯爵様のように華やかなお人ではないにしろ、私だってお洒落くらいしたいと思うのは当然のことだった。
だが……
高いヒールで懸命に彼の後を追っていた最初の頃の私は、当然だが躓いてしまったのだ。
前に倒れる私を、受け止めてくれるのだろうと期待していたが、スッと身を引くように避けられた。
誰にも支えられなかった私はそのまま膝をすりむき、手のひらにはわずかな傷ができてしまった。
そこから、彼と会う時はヒールのある靴を履かなくなったのだ。
(……こうして振り返ってみると、とても行動で示されていたのね…)
もしかして始めから彼は私ではなく妹の方に気があったのかしら…
次女も三女も変わらないもの、もしかしたらちゃんと指名していなかったことを、彼も後悔しているのかもしれないわ。
そう考え付いた時、私は一つの結論を出した。
このままだと、妹に恋心を寄せている彼を不幸にしてしまうと。
彼と婚約解消を行い、彼が望むなら妹との婚約を結ぶ手伝いをしようと。
妹も彼のことをまんざらではないように話していたし、円満に解決するわ。
(よかった…、まだ恋をする前で…)
その言葉は音になることはなかったが、私は彼のことを嬉しそうに話す妹の頭を撫でながら微笑んだ。
だけど試合はここからだった。
いざ伝えようとすると、身分差からの恐怖かわからないがすくんでしまう。
そうして何日も伝えることもできずに過ぎていってしまった。
だけど、今日こそは!
「ぐ、グリファン様!」
ギュッと目をつぶり、手を固く握りしめながら、私は意を決して自分の気持ちを口にしたのだった。
■
幼い頃の初恋である彼女と婚約を結ぶことに成功した私は、少ない頻度だが2週間に一度お互いの家で交流を深めていた。
私が正式に当主になることが、彼女との結婚を許すという条件だった私は、提示された後すぐに跡取りとしての勉強を開始した。
いくら人を雇うといっても、当主が仕事内容を把握していなければただの傀儡。
覚えることは山ほどあったが、彼女との結婚、そして2週間に一度の彼女との交流日を励みとして、父に食らいついていった。
「あ、あの…このクッキー美味しいですね…」
小さな彼女の口に収まるように作られたクッキーは、嬉しそうにほほ笑む彼女の口の中に消えていく。
通常サイズに作ったクッキーでも、ボロボロと溢してしまう彼女が恥ずかしそうにする姿(妄想)も、口に頬張る彼女(妄想)も実にかわいらしいし、見てみたい気もあるが、
クッキーのカスを溢したことに対する羞恥心から二度と会えません!などと言われることも嫌だったし、小さな口いっぱいに頬張ってしまった結果彼女の口の中を傷つけてしまうことも嫌だった私は小さめのクッキーを作らせることにしたのだ。
お陰で嬉しそうにする彼女を見れたことが、今日の収穫だ。
そう満足気に、彼女が好きな緑色が出るという東方の地のお茶を飲みながら、彼女をおかずに味わっていると、いつもとは様子の違う彼女がプルプルと震えながら私の名前を呼んだ。
「…なんだ?」
一体どうしたのだろうか。もしかしたらクッキーが甘すぎたか?それともお茶の緑の色合いが足りなかったのだろうかと不安な気持ちを抱きながら、たっぷり数分の時間を置いて、彼女から信じられない言葉が飛び出した。
「わ、私との婚約を解消してください!」
■
(言った!ついに言ったわ!!)
告げた今もぎゅうと固く目を閉じているから、グリファン様がどのような反応をしたのかはわからない。
ぱぁと華が飛ぶかのような笑みを浮かべてなければいいのだけれども、その可能性が十分にあるから私は目も開けれない。
婚約解消を告げて、喜ばれる光景なんて見たくないのだ。
そして私が固く目を閉じている間
ガシャン! バタン! 担架!担架を!! バタバタバタバタ!!! 心臓マッサージをできる人は!!! 医者を誰かぁ!! 馬車を!!!!・・・
一気に騒がしくなり、私はそろりと目を開けて、恐る恐る俯いていた顔をゆっくりと上げた。
「申し訳ございませんが本日はここらへんで…」
と深々と頭を下げるメイドの姿があった。
ちらりと部屋の中を見ても、彼の姿はない。
………もしかして出て行ってしまったのか。ご機嫌に?それとも怒って?
どうせなら、解消することに怒ってくれた方が…と無駄な思いを抱きつつ、私は待機させていた馬車に乗って自宅に帰った。
■
「……ハッ!!!!」
彼女の口から恐ろしい言葉を聞いた私が次に見たのは自室の天井だった。
(もしかして、悪い夢だったのだろうか…)
のそりと起き上がり、ふぅと息を吐きだすとタイミングよく幼い頃より面倒を見てくれた執事が部屋に入ってくる。
「坊ちゃま起きられましたか…、気分はどうですか?」
「ああ、少し夢見が悪かっただけで大したことはない。
それより今日はアイリーンが訪れる日だろう、彼女が好きな色のお茶は入手できているか?」
思い出したくない夢を振り払うように、今日尋ねてくる彼女を迎えるべく、調達していたお茶の入手状況を執事に尋ねると、執事は眉間に皺を増やして少し困った表情を浮かべた。
「…どうした?」
「…………今日はお嬢様はいらっしゃいません」
「…何故だ?会うのは2週間に一度と決まっているだろう?どうして会えない?」
「………先日既にお会いになっているからです」
「…なん、だと…?」
「じいは…じいは情けないであります!あれだけお嬢様に優しく接するようにと!口を酸っぱくしてお伝えしていたのに!
今は廃れてますが亭主関白的な方もいるため、エスコートは目をつぶっても、浮気などなさるなんて!!!!だからお嬢様から婚約解消を告げられるはめになるんですよ!!!!」
「亭主関白なんてしていない!する気もない!寧ろアイリーンに尻に敷かれたい派だ!
第一浮気とはなんだ!?婚約解消!?悪夢でも見ているのか!?」
「夢に走らないでくださいませ!お嬢様からの手紙を先に見るのは忍びなかったですが、あんなことがあった後の手紙です!
じいが先に拝見させていただいたところ、アイリーンお嬢様ではなく、妹君のエリスお嬢様との婚約手続きの書面が同封されているではないですか!
しかも坊ちゃまが望むなら、あなたの幸せを祈っておりますという一言付きで!」
「な!?どういうことだ!?」
「どういうことはこちらのセリフですよ!!
アイリーンお嬢様を好き好き言いながら、アイリーンお嬢様ではなくその妹君と仲良くしアイリーンお嬢様を苦しめ、お嬢様にこんなことを言わせるだなんて!!!
じいは見損ないました!!!!!この件は旦那様に告げさせていただきます!!!!!」
「待て!やめろ!父上に通ると婚約が本当に解消されてしまう!!!!」
「では今すぐお嬢様の誤解を解きにいってくださいませ!!!!!」
「お、お前は私を突き放すのか!?見捨てるのか!?」
「ならじいの言う通りになさいますか!?今まで全く聞く気にもならなかったじいの言葉を聞いてくださいますか!?」
「聞く!聞くから教えてくれ!!」
_まずはその手袋を外してください。
_お嬢様に引き締めた顔以外をお見せください。
_お嬢様を抱きしめてあげてください。
手袋を外して抱きしめるだと!?そんなことしたら彼女の体温を直に感じ取れてしまうだろう!?
それに彼女にはかっこいいと思われたいんだ!常に表情を意識しなければかっこいいと思われないだろう!?
_坊ちゃまは自重という言葉を覚えてください。それぐらいできますでしょう?
_それに女性は自分だけに向けられた表情に弱いのです。坊ちゃまがじいにお嬢様のことを話す時のあのでれでれした表情でも、他のものに向けられない自分へだけの表情というものに特別を感じるのです。
_つまり坊ちゃまは今非常に危険な状態なんですよ!常に無表情!お嬢様に触れもしない!
_いくら坊ちゃまが変態具合を抑えるための行動だろうが、お嬢様にはそれが伝わっていないのです!
_お嬢様は今「私には微笑みすら向けられない、触れてもくださらない」「私のこと好きではないのね」と心を痛めておられます!だから婚約解消を願い出たのでしょう!
なら普段の“俺”を見せればアイリーンは婚約を継続し、“俺”と結婚して子作りに励むと!?そういうことか!?
_……これからの坊ちゃま次第ではそうなる可能性も残っております!!
!!!!!
_鼻の下を伸ばさない!!!!
_このままだと坊ちゃまは確実に婚約解消し好きでもないアイリーンお嬢様の妹君と婚約させられた坊ちゃまはそのまま、アイリーンお嬢様と他の男性の結婚式や仲睦まじい様子を見せられることになるのですよ!!!
い、いやだ!そんなの!見たくない!!!!
_では泣いてアイリーンお嬢様に縋りついてきなさい!!!!!!!
■
「…はぁ…」
てっきりすぐにお返事がくると思っていた私は、グリファン様からなんの音沙汰もないこの現状に不安を抱いていた。
彼は妹が好き。
妹も遊び歩いてはいるが、彼が来るととても喜んで私がお茶を入れている間彼の相手をしてくれるほどに彼のことを気に入っている。
グリファン侯爵からの婚約指名は私の推測上では私でも妹でも構わない筈。
だからこそ妹との婚約契約書面も同封して彼の家に速達で届けてもらったのに、どうしてまだ返事がないのだろうか。
今日も陽が暮れて一日が終わる。
涼しくなった季節は陽が落ちるとあっという間に寒くなる。
男爵家の私の家はメイドや使用人を何人も雇えるほどの資金の余裕はないから、雇っているメイドたちは通いで来てもらっているのだ。
その為夕飯の支度を済ませたメイドは既に退勤している。
私は薄い羽織を肩に羽織らせて、手紙が来ていないかを最後に確認しようと、暗闇の中外に出る。
(やっぱり、来てない…)
このまま婚約状態を続けられたら私は気付かなかった彼への気持ちに気付いてしまうだろう。
胸に秘めた、彼に対する想いと向かい合いたくないのに、できるならばすぐに別れて、傷が浅いうちに前に進みたいのにと。
そんな時、かなり急いでいるのだろう馬の蹄の音が聞こえてきた。
暗闇ではっきりとはわからないが、蹄の音は激しく鳴り響く。
野次馬の好奇心で家に戻らずその場に立ち止まって眺めていた私は、次第に近づいてくるその者に驚いたのだった。
「………グリファン様!?」
「アイリーン!アイリーン!!!」
馬から飛び降りるように降り立ったグリファン様は私に駆け寄るや否や、力強く私を抱きしめる。
彼よりも小さい私の体は、素晴らしい肉体にすっぽりと収まった。
「ッ!?な、なにを…!」
彼の腕の中は心地よく、一瞬堪能しかけたがすぐに自分がグリファン様に申し出た件を思い出して、彼を突き放すために彼の腕の中で暴れた。
だが所詮は女の力。
細い腕で暴れても彼にとっては赤子同然の様子で、ぎゅうとさらに抱きしめられる。
「アイリーン、アイリーン」
「…ッ、な、なんですか!私のこと好きでもないのに!なんでこんな…!」
本当に、なんでこんなに切なそうに私の名前を呼んで、私を抱きしめているのだろうか。
本当に、どうして… どうして…!
「アイリーン、君が好きだ。ずっと、ずっと好きだったんだ」
「っ!?うそ!そんな言葉信じられません!だって、だってグリファン様はずっと私のこと…!」
「すまない、本当にすまないことをした!
だがわかってほしい、私がどれだけアイリーンのことを好きなのか!愛しているのか!」
「……!」
力強く抱きしめられた彼の腕の中は、思った通りとても居心地のいい場所だった。
だけど、少し私が落ち着くと彼がわずかに震えているのがわかる。
(信じても、……いいのだろうか…)
私は彼に好かれていたのだと、妹ではなく、私のことを好いてくれていたのだと。
そう思っていいのだろうか。
「おっほん!」
「「!」」
あれほど私を離さなかったグリファン様はバッと私を離して距離を取る。
私としても、いきなり現れたお父様に恥ずかしい場面を見られたのだと思うと、あのまま抱きしめられるよりは離してくれてよかったと思った。
そして「外は寒いから中に入って話しなさい」というお父様の言葉で、グリファン様を家に招き入れて、今応接室には私とグリファン様の2人がソファに向かい合って座っている。
「あ、あの……グリファン様」
「な、なんだろうか?アイリーンの問いには全て答えたい。なんでも聞いてくれ」
何故かめらめらとした炎が深緑な瞳に見えると錯覚してしまうほどに、グリファン様は前のめりでそう答えた。
「わ、私はグリファン様は妹のことが好きなのだと思っていたのですが…違うのでしょうか?」
「断じて違う!……が、アイリーンがそう思った理由を聞いてもいいか?」
私は話してもいいのだろうかと迷ったが、この際正直にすべてを話そうと思いコクリと頷く。
「グリファン様は……、その…私に対しては表情を変えられず、私はそれが普通なのだと思っていたのですが…、ある日妹に微笑まれていたところを見たんです。
あんなにも優しく妹に微笑みを向けられるのを見て、私グリファン様は妹が好きなのだと【ゴン!!!】…?思いました…、あの?」
「いや、気にしないでくれ」
気にしないでと言われても、思いっきりテーブルに頭を打ち付けられた場面を見たら心配するのは普通だと思うのだが、グリファン様は本当に気にして欲しくなかった様子でいた為に、私はそっとしておくことにした。
「くそ…じいの言うとおりだったか……」
「?」
「いや、何でもない。
…と、アイリーンの妹に笑みを向けた理由だな、あれはアイリーンのことを教えて貰っていたのだ。
今でもぬいぐるみを抱いて寝ているとか、夜中寝ぼけてトイレにまでぬいぐるみを持っていくとか…。
そんなことを話されたら愛おしくなってしまったんだ」
「なっ!!!!」
(エリスったらなんてことを!!!!!)
しかもぬいぐるみはグリファン様から頂いた誕生日プレゼントである。
さすがにそれは知らないはずだと、顔が沸騰しそうなほどに熱いがコホンと咳払いをしてごまかした。
「で、では何故私には無表情だったのですか?」
「それは、…アイリーンには常にかっこいいと思われたいと思っていたのだ。
だから顔が崩れないように常に気を引き締めていた」
「え…」
「だがじいに言われたよ、女性は自分にだけ向けられる表情に弱いと、先ほどのアイリーンの言葉を聞く限り、その通りだったのだと。
私が今迄してきたことが間違いだったとわかった」
すまないともう一度頭を下げるグリファン様に私はあわてて駆け寄った。
「頭を上げてください!」
彼の肩に手をあわせて、そのまま上体を上げさせるように力を籠める。
(そういえば、まだグリファン様が私に触れようとしなかったことを聞いてないわ)
そう思いながら、ゆっくりと顔を上げたグリファン様を見て私は驚いた。
グリファン様の顔が真っ赤だったのだ。
グリファン様の肩に乗せたままの私の手に、グリファン様の大きな手が触れる。
「……君に、…アイリーンに触れると、君に必死にカッコいいと思われたいと思っていた自分が途端に崩れるんだ」
「グリファン様…」
じっと見つめられて、私もドキドキと胸が激しく高鳴る。
(かっこいいままでいたいだなんて思わなくてもいいのに…)
(グリファン様はそのままで十分____
「カッコいいのに…」
たらり
「!グリファン様!?い、今ちり紙を!」
「す、すまない…、アイリーンの体温を感じたら…収まらなくなってしまった…」
鼻から流れる血を撒き散らさないように手で押さえるグリファン様に、私はあわててちり紙を持ってグリファン様にお渡しする。
止まらない血に慌てる私だったが、でも彼が決して私に触れなかった理由がわかって、嬉しさと安堵から涙が出た。
「アイリーン…?何故泣いている?まだ不安があったら話してほしい」
「いえ、いえ…、もう全部解決しました。
グリファン様好きです。私もグリファン様が好きです」
「アイリーン…!」
「だから
これから沢山私に触れてくださいね」
END
恋愛ベタでヘタレが好きです。
誤字の指摘教えていただきありがとうございます。