門出からの始まり
◇◇◇2100年3月1日 月曜日12:00◇◇◇
「・・・今日で中学も卒業か」
俺の名は【天御門 アガト】。
ごく普通・・・かどうかは分からないが、普通の男子中学生・・・おっと、卒業したらかもう中学生じゃないか。まあ、普通の日本男子だ。
今日は俺の中学の卒業式であり、俺自身が卒業生だったりする。
式自体は既に終了し、皆思い思いに別れを惜しんでいる真っ最中だ。
かくいう俺も一人で3年間慣れ親しんだ校舎との別れを惜しんでいる所だ。
・・・ボッチなのかって? ほっとけ!
「会長!!」
「先輩!!」
そんな一人たそがれている俺に声をかけてくる奴らがいた。
「おいおい、俺はもう生徒会長じゃないぞ。元会長な」
そこにいたのは生徒会で苦楽を共にした後輩達にして後継の生徒会メンバーだった。そう、実は俺、生徒会長だったりしたのだ。
「先輩もいよいよ卒業ですか。寂しくなりますね」
そう言ったのは俺の元片腕であり、現在の生徒会長の後輩だった。
「そうか、俺もだよ。ま、これから大変だと思うけど頑張れよ」
「そうですね。ほんとーーーに大変そうです。誰かさんが校則を弄りまくったせいで、ね」
別れを惜しみにきたのかと思ったらチクリといやみを残す生意気な後輩である。言ってることは間違いではないが。
実は俺が生徒会の任期中、この学校の気に入らない校則を結構好き勝手に変えまくっていたのだ。
勿論理由があって、実はこの学校、時代遅れの校則とかが結構残ってたりして生徒たちは苦労していたのだ。かくいう俺もその一人。
実は俺、父は日本人だが、母が外国人のハーフだったりする。顔や身長、体格はそのまんま日本人の物だったのだが、髪には金髪のメッシュが入り、瞳の色も金色だったりする。
そのおかげで、まあ時代遅れの先生だのからあーだこーだ言われまくった。髪は黒、染色は禁止だのなんだの、地毛だって言っても全然信じてくれねぇーの。
あまりにもうぜぇから中学一年の時から生徒会長に立候補し、当選。校則をひたすら改善しまくってやった。おかげで今では髪の染色も自由になり、俺に文句を言う奴は居なくなった。・・・あの時の先生や校長の苦虫を噛み潰したような顔は今でも忘れられないぜ。クックック。
そんな校長たちも俺たちの卒業式では涙を流して喜んでくれていた。きっと校長たちにも俺たちの熱い想いが伝わっていたんだろう。喜ばしいことだ。
「いえ、多分問題児が卒業してくれて嬉しくて泣いていたんだと思いますよ?」
・・・後輩君、勝手に人の心の中を読まないでくれるか?
「何言ってんだ。問題児っつったらあの二人だろ?」
「その二人も先輩の連れなんでしょう? この学校の三大問題児なんて他にいませんよ」
え? 俺たちってそんな風に言われてたの? 卒業して初めて知る衝撃の事実だ。
「と、とにかく校長たちは校則を戻そうとするかもしれないから頑張って戦えよ?」
「禍根を残しっぱなしで行かないでくださいよ・・・それよりも先輩、本当に冒険者になるんですか?」
冒険者・・・それが俺の卒業後の進路である。
正確には高校には行くが、その傍ら冒険者としても活動していくつもりだ。むしろ冒険者の傍ら高校に通うと言うべきかもしれない。
「勿論だ。進路に関しては皆にも話してあっただろ?」
「それはそうですが・・・命懸けの職業ですよ? そんな危険な事をわざわざ・・・」
なるほど。後輩君は俺を心配してくれているんだな。その気持ちは素直に嬉しいが・・・
「悪いな。それでも俺にはやらなきゃいけないことがある」
これは俺がずっと前から選んだ道だ。今更変える気も捻じ曲げる気も微塵も無い。
「・・・先輩ならそう言うでしょうね。これまでも一度言ったら聞きませんでしたから。ではこれで最後・・・なんて思ってはいませんが、これだけは言わせてください。・・・ありがとうございました!!」
「「「「ありがとうございました!!」」」」
うんうん。頼もしい後輩に見送られて俺は嬉しいよ。
「あ、生徒会室に置きっぱなしになってる先輩の漫画、ちゃんと持って帰ってくださいね」
・・・後輩君、余計なオチをつけないでくれるかな。
* * *
生徒会室から漫画を回収し、帰宅の戸につく。
何気に鞄が酷く重く、予め持って帰っておけばよかったと後悔しながら校門まで来ると、そこには先客がいた。
「よう、お待たせ」
俺はその先客二人・・・今日知ったばかりの三大問題児のうちの二人に話しかけた。
「やあ、もう良いのかい?」
その内の一人の名は知蔵院 蓮魔。
体は細身だが身長は高く、青髪に整った顔でメガネをかけたクールイケメンだ。
運動は苦手らしいが、成績は良く常に学年トップ。ついでに全国テストでも常に5位以内をキープしている、まさに秀才と言った所だ。
そんな優秀な奴が何故問題児扱いされているかと言うと・・・まあ、有体に言えば口が過ぎるんだな。
相手が同級生だろうが教師だろうが大人だろうが容赦なく論破し、妥協しない。コイツも生まれながらに青髪で、その事で教師からいちゃもんを付けられたのだが、ことごとく論破して相手を黙らせていた。
そんな奴だから、特に大人連中からは煙たがられているんだが、なまじ成績が良いだけに迂闊な事は誰も言えないんだろうだ。
黙っていればイケメンだからか、女子からの人気は相当高かった。まあ、本人は誰とも付き合う気は無いらしく、玉砕した女生徒の数は3桁に及ぶとは。
卒業式が終わった後も複数の女生徒から呼び出されいたらしく、こんな時間まで残っていたんだそうだ。
「女生徒だけじゃなく女教師からも呼び出されたけどね」
・・・イケメン、爆ぜるべし。
「ハッ、そっちはお別れは済んだのかよ?」
このいかにも偉そうな男は龍三谷 竜鬼。
日本人にしてはガタイが良く目つきが悪い。筋肉質のワイルドイケメンといった所か。
見た目と同じく性格も喧嘩っ早いんだが、本人から喧嘩を仕掛けることはほとんど無い。とはいえ、いつも誰かしらに喧嘩をふっかけられているから、不良と言う意味であまり大差ないが。
喧嘩だけではなく空手や柔道なんかもやっていて、全国大会まで行ったこともあるようだが、本人はただ強くなれれば良いというだけの理由で格闘技をやっているのでプロ選手になるつもりは無いそうだ。
あとコイツも卒業式後に呼び出されていた。
主に不良と呼ばれる男子生徒たちに。本人には怪我した様子も無いから全て返り討ちにしたんだろう。
「先公も混じってたから一緒に殴ってやったんだが、卒業したんだし大丈夫だよな?」
・・・俺はもう生徒会長じゃないからそんな事は知らん。
以上、我が学校の三大問題児の内、二名である。
・・・なんで俺、この二人と同枠で数えられてんだろう? 不名誉である。
「用件も終わったし、帰るか。レンマ、タツキ」
なぜ俺たちが校門に集まっているのかと言うと・・・帰る所が同じだからである。
俺たちは・・・孤児だ。
今日この時まで俺たちは同じ孤児院で生活を共にしてきた。
しかし、それも今日まで。
中学を卒業すると同時に俺たちは孤児院からも出る事になる。
その最後の挨拶をするために、俺たちは孤児院へ向かわなきゃいけない。
* * *
「お前たち・・・マジで本気で冒険者になるつもりなのか」
そう俺たちに問いかけるのはここ、吉ヶ峰孤児院の院長である吉ヶ峰 善蔵先生である。・・・あとどうでも良いが、マジと本気で意味がダブってるぞ。
「勿論ですよ、院長先生。中学を卒業したら冒険者になるって前々から言っていたでしょう」
もう既に決まっていることを今更ほじくり返そうとする院長先生には本当に困った物だ。
冒険者資格を持てるのは満15歳を過ぎてから。つまり、俺たちは年齢上は問題は無いのだが・・・いまだ子供である俺たちに冒険者という死と隣り合わせの職業に就く事を院長先生は心配しているのだ。
院長先生自身、昔は冒険者だった事もあってその危険性には人一倍理解がある。
しかし、だからと言って俺たちもはいそうですかと諦めるわけには行かない。
「レンマ、お前は成績優秀で偏差値の高い高校からの推薦もあったんだろ? それを蹴って冒険者になるのか?」
「僕が必死に勉強してきたのは冒険者になる為です。良い高校に行く為ではありません」
レンマ曰く、中学を卒業したら冒険者になる事は決めていたので、中学在学の間に大学までの勉強を一気に済ませることにしたそうだ。優秀な成績はただの付随なんだと。
・・・勉強嫌いな全国の生徒たちを代表してコイツを殴っておいた方が良いかな?
「タツキ、お前の腕があればどこの学校にだってスポーツ入学できただろ? 急いで冒険者にならなくても・・・」
「あー? そんなもんに興味ねぇよ。俺は最初から強くなることしか頭にねぇ。むしろ我慢して中学に通ってたんだ。これからは好き勝手やらせてもらうぜ」
・・・タツキよ。中学は義務教育だ。お前がどう頑張っても中学はスルーできんぞ。
まあ、タツキも冒険者になる為に・・・否、冒険者になって目的を叶えるために己を鍛えてきたんだ。今更、院長先生がどうこう言ってもコイツはテコでも動かないだろう。
「アガト・・・お前は生徒会長まで経験したんだろ? その経験を高校で活かそうとは思わんのか?」
「俺が生徒会長になったのも冒険者になる為ですから」
「・・・冒険者と生徒会長ってなにか関係あるのか?」
・・・生徒会長になったのはぶっちゃけ、ノリと勢いと反骨心だから。ほら、冒険者にはそういうのも必要でしょう? ・・・すいません、適当ぶっこきました(笑)。
「・・・院長先生。我々には我々の理由と目的があって冒険者の道を選んだんです」
としつこい院長先生に堂々と言い放つレンマ。
「だいだい、そんなこと前々から分かってただろうに。今更ガタガタ抜かすなよ」
院長先生に対して偉そうに文句を言うタツキ。
「そうそう。大体、院長先生に言われた通りに冒険者向け高校に通う事にしたんだから、これ以上は言いっこなしで頼みますよ」
これは俺。
そう俺たちは中学を卒業し、冒険者向けの高校に通う事が決まっていた。ちなみに勘違いしないで欲しいのは、この高校というのが「冒険者をしながら通える高校」であって「冒険者になる為の高校」ではないということ。仕事をしながら通える定時制高校に近い高校だと言えるだろう。
本来、俺たち三人は中学を卒業したら冒険者1本でやっていくつもりだった。しかし、この院長先生をはじめ孤児院の皆や学校の先生たちがどうしても高校に通えと言ってきたのだ。
苛烈なバトルの末、冒険者向け高校に通う事で決着したという経緯があったりする。
「この期に及んでまだ文句を抜かすのなら・・・また、アレを食らわせますよ?」
「アレだな・・・」
「アレだね・・・」
アレとは俺が用意した最終兵器。その威力は院長先生をはじめ全ての大人たちを黙らせるほどのもの。アレをまた・・・クックック。
「わ、わかった。これ以上はもう言わないから・・・アレは勘弁してくれ」
クックック、さしもの院長先生もアレを食らうのは怖いようだ。
・・・アレって何かって? それは俺たちだけの秘密さ。