第8話 アンネ再会
「アンネ……お前……そのパラディンソードをどこで手にいれた」
「わかってるくせに」
「へぇ、ということはお前、師団に入ったんだ」
「おっ、それくらいはわかるんだ」
「ああ、俺はいつの間にか旅団に入らされたけどな」
俺とアンネが睨めつけ合う。居心地の悪い空気が流れる。
「返せよ。そのパラディンソードは俺のだろ」
「嫌よ」
「はぁ?」
「どうしてもってなら、実力で奪い返したら」
「わかってて言ってんのか。お前は俺に負けただろ」
「あれは心の動揺があったの、それに今のあたしは変わった。生まれ変わった」
変わったと言われても髪型ぐらいしかわからん。村にいたときは長髪だったが、今はショートカット。別に身長が伸びたわけでもない。
「その性格の悪さは直ってないようたが」
「はぁ? あんたは私の何を知ってて言ってんの」
「…………………………」
「…………………………」
沈黙の空気が流れた。その空気を破ったのはマインだった。
「あ、あの。えっと、助けてくださってありがとうございます」
マインはペコリと頭を下げた。
確かに、あのままでは切断できたかどうかは危うい。
「…………別に、あんたのためじゃないから」
「おい、そんな言い方はないだろ」
俺はマインの厚意を踏みにじるアンネの態度が許せなかった。
「何よ」
アンネは俺をキッと睨む。ゴーレムの件についてはアンネのおかげでもあるので、そのことに強く言えない。
「……とりあえず、ダークコアをゲットしたから帰るぞ。マイン」
「はっはい」
「…………帰れるの……あんたたち」
「あ?」
「ここは迷いの森、日の出と共に変わりに、日の入りと共に変わる。もう、日が暮れた」
周りを見渡すとすでに真っ暗 だ。そういえばゴーレムと出会う直前にはすでに薄暗かった。
「フンッ、お前は知らんがこっちはいざとなれば空を飛べる」
「はぁ? 飛ぶにしたって方向がわかるの?」
「はっ、来た道を帰るだけ……」
俺は後ろを振り返った。来る途中、あの男たちが草木を刈っていたが……。
「…………どういうことだ」
「言ったでしょ、ここは迷いの森って。おそらく夜行性の植物が生い茂ったんじゃないの」
「そんなバカな」
切り開いた道がない。周りは草木だらけ。目印もつけずに来たのでここからじゃ方角もわからない。
「上に飛べば」
「こんな真っ暗なのに夜間飛行するの? バカじゃないの。月の光だけでいけるの?」
これには言い返せない。確かにこの暗さで飛ぶのは危険だ。灯り代りにサラマンダーをするのも危険。
「で、あんたたちどうするの?」
「お前こそどうするんだ」
「あたしはこんなところ薙ぎいてまで帰れる」
信用ならん。本当にこの女がそこまでの度胸があるやつとは思えん。
「ケヴィン様、リリーさんからもらったテントがございます」
「えっ、ここで野宿するのか!?」
「日の出と共にシルフを使いますので。そうしませんか」
一応、テントはある。食料も2、3日は持つ物だ。野宿も可能といえば可能だが。
ちらっと、アンネを見る。
格好からしてやや軽装。胸とか腰ぐらいに鎧を着ていて、基本的に黒いローブで覆っている。だが、関係ない。
「わかった。マイン、テントを張ろう」
「はいっ。えっと…………アンネさんもどうですか」
「な、なに言ってるんだ。マイン!」
「えっでも、このテントは3人まで入れると」
「それはキツキツで3人。普通は二人用だ」
俺の強い反論にマインは目を丸くする。今まであまり怒らなかったからか。
「…………どうやら、あたしはお邪魔みたいだな」
「い、いえそんなことありません」
マインがアンネに気を使う姿なんて見たくなかった。
というより、アンネ自身を見たくなかった。
「はぁああ、わかった。お前も入っていい」
「なんだぁ、嫌そうな顔して言うじゃん」
「この小さなテントにでっかいお前が入れるかどうか心配でな」
「…………あんたってその娘に尻に敷かれてんのか」
「はっ?」
「……まぁ、いいさ」
アンネはこそっと言って、マインに振り返る。
「…………あんたは」
「はい、マインです」
「…………もしかして……貴族か」
「え、ええそうですけど」
「ふんっ、そうか」
アンネはそれだけを言うと、野営のための準備をする。
アンネの背嚢からパンなどすぐに食べられるものを出す。
「……火……だせるの?」
「えっと、小さくですか?」
「…………スープでも作りたいから」
「わかりました。小さく『サラマンダー』」
マインがぼそっと言うと、賢者の杖から小さな火が出て焚き木に火をつける。
「私も手伝います」
マインはアンネから調理器具をもらい二人でこしらえる。パンにつけるスープを。どこから野菜など出したんだ。
二人が作る料理はなんだか気まずい。胃がキリキリする。俺も手伝うかと言っても邪魔そうだ。これ以上は必要ない。
「…………作れるようになったのか」
「…………むかついたけど…………お母さんに教えてもらった。…………まだ簡単なもの…………だけど」
その会話にマインは、んっ?と自分が蚊帳の外の話をしていることを感じる。
「…………………………」
「…………………………」
「…………………………」
無言で着々と料理が作られる。アンネだけが作った料理なら絶対に嫌だが、マインも手伝っているのでまぁ、食べれなくもないものになるのだろう。
「出来ました」
マインがその空気を打ち破る。
「いただきます」
その言葉をするのはマインだけだった。俺とアンネは無言。
「……………………」
不味くはない。が空気が不味くしている。
「ごちそうさまでした」
腹一杯とは言えないが、飯を食い終えた。
「食ったから寝る」
「はい、ケヴィン様」
俺がテントに入り、こんな狭いところで川の字になるのは嫌だなぁと思っていたその時。
「ねえ、あんたさ」
「はい、なんでしょうか。アンネさん」
二人が男の俺抜きで話を始めた。
「どこまで知ってんの」
「何がです?」
「ほら……」
「ケヴィン様ですか?」
「ああ」
「私とケヴィン様は……その……ふふ……婚約を誓った仲でして」
「…………幸せそうだな」
「はい。…………幸せです」
「…………不幸……だがな」
「えっ?」
「不幸なの。知ってる?」
「えっ、えーと」
「あいつはねぇ、親がいないの!」
「!?」
「親がいなくて捨てられたの。それをあたしの家が引き取ったの。あたしが育てたの!」
「アンネッ!!」
俺は飛び起き、すぐさまテントを出た。
「お前、なに言ってんだよ!」
「何? 本当のことでしょ!」
「や、やめてください。ケヴィン様」
「それとも何? まだ言ってないわけ? はぁ? それで結婚するとか言っちゃってんの?」
「アンネッ!! お前なぁッ!!」
「や、やめてくださいッ!!」
マインが俺を強く押さえつける。
「剣術はあたしが教えたの! あたしが一から教えたの!」
「黙れ」
「子どもの時からあたしが一緒だったの!
幼馴染はあたし! あたし一人だけ!
あたしだけなのおおおお!!!」
アンネの叫び声が森にこだまする。
「…………ちょっと、マインと二人で話させてくれ」
「……わかった」
アンネはテントに入った。
この場には俺とマインの二人だけ。
「ケヴィン様…………」
「…………話さなければいけないことがある」
「お辛いようでしたら……」
「いや、いい」
「……はい」
俺は今までのことをマインに話した。
「俺はひっそりとした村出身なんだ。花畑がきれいなね。
物心がついた時にはすでにアンネの家で育てられた。
俺には両親の記憶はない。死んだのかもわからない。
だからアンネの両親が育ての親になった。
俺が成人するまでそこにいた。
……ごめん。マイン。マインの義理の親になるかもしれない話を今までしなくて」
「……いいえ、ケヴィン様。私はどんなことがあってもケヴィン様についていきます」
「マイン…………」
「ケヴィン様…………」
俺はマインを優しく抱き締めた。
その後、マインはテントに入った。俺はしばらくの間真っ暗な空を見上げていた。
その時、あの女は来た。
「あの娘……涙を流しながら寝ている…………」
「お前が泣かしたんだろ」
「…………入らないの?」
「お前とくっついてまで入りたくない」
俺はこれ以上アンネと話したくないので暗闇の森を歩く。迷わない程度に。
「ねぇ」
「うるさい」
「待って」
「ついてくるな」
「…………ケイちゃん」
「っ! その名で呼ぶなッ!!」
「何よ……あたしたち『幼馴染』でしょ」
「もう、違う」
「幼馴染って事実は変えられない」
「いい加減にしろ」
「……何よ…………そんなにあの娘が大事なの?」
「……婚約者だ」
「どうせあんたには無理な話よ。庶民と貴族の令嬢よ。合わない」
「…………だからなんだよ。お前には関係ないだろ」
「……らめ……ない」
「はっ? 小さい声でボソボソしゃべんな」
「…………なんでもない」
「チッ」
「……本当にテントで寝ないの」
「お前が横にいるとむかつくんだよ」
「…………そう、わかった」
「マインには手を出すなよ」
「は?」
「俺はテントの外から寝ずにお前を見張る。今度、マインを泣かしてみろ。ただじゃおかねぇから」
「……………………」
アンネはプイッと頭を振り反ってテントへと寝た。
俺は一晩中モンスターが襲って来ないか、アンネが何かしないか、見張った。
朝日が目に染みる。徹夜はしんどい。精神的にもつらい。
「はぁ、なんでああなったんだ」
すべてはアンネのせいだ。アンネが俺のパラディンソードを盗んだから。すべてはこうなった。
「おはようございます。ケヴィン様」
「おはよう、マイン」
「もしかして寝ていないんですか」
「まぁ、モンスターからマイン……たちを守るためにね」
「……ケヴィン様」
「……マイン」
「ケヴィン様、すこし私からのお話をさせていいですか」
「なんだい、言っていいよ」
「家族というのは、生まれてきた子どもである私たちにとって、一番最初のコミュニティなんだと思います。しかし、コミュニティは家族だけじゃないと思います」
「…………血の繋がらない人と一緒にいるということでも、同じくらい素晴らしいコミュニティならば、同意義……か」
「……はい」
「それが仲間だったらよかっただろうに。いや、たらればはよそう」
「ケヴィン様、話したくないことまで話さないと、仲間や家族に入れてもらえないのは、それは違います。
人にはきっと、話したくないことはいっぱいあります。話したくないことは話さなくていいんです。
それに私はケヴィン様が話したくなるまで待ちます」
「マイン………………ありがとう」
やっぱり、朝日は目に染みる。
「おはよう」
「おはようございます。アンネさん」
「………………」
「何?」
「昨日のことをあや…………いやなんでもない」
「…………ばかっ」
「それで、お前はどうするんだ。俺たちは飛ぶが」
「どうせ、また生えてくるからこうするのよ」
アンネはパラディンソードを高く構える。
「ソニックブーム!!」
アンネがそう叫ぶと、斬撃が風を斬り衝撃波が発生し次々と草木を薙ぎ倒していく。ひとつの道が出来ていた。
「……歩いて帰る。あんたたちはぶっ飛んで行けばいい」
「あっ待って、アンネさん」
「やめて、…………近づかないで」
「あっ、…………すみません」
「……アンネ、言葉遣いを柔らかくしろ」
「…………うるさい」
そう言い残して、アンネは本当に歩いて帰った。
「行ってしまいました」
「仕方ないよ。一人で帰りたかったんだろ」
あの女は一体何しに来たんだ。勝手にストーカーしてきたと思ったら、逆ギレして、わめき散らして。
「帰ろ、マイン」
「はい」
俺はマインを抱き締め、マインは風の魔法を行う。
「私たちに翼を下さい『シルフ』」
すると、マインの背中から大きな翼が生えた。
バサッバサッと翼をはためかせながら王都ヴェネスシティへと戻る。
「うわーきれいです」
「上から見る森もいいもんだよな」
俺たちは空へあの女は地を這う。だから、あの女の声は聞こえない。
「…………絶対に……負けない」




