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第6話 キスと決意と


「うーん、師団のヤツか。敵対する勢力なら納得だが、俺のことを旅団って知っているヤツだよな」



 俺はパラディンソードを盗んだヤツの似顔絵とにらめっこしていた。

 ずうと似顔絵を見ているとなんだか会ったことあるような気もする、そんな気分に陥った。



「ケヴィン様、気分が優れませんか」


「あぁ、いや、ちょっと……二日酔い……」


「まぁ、大変! すぐにお水を用意します」


「あ、ああ、すまんな」



 昨夜の出来事はマインには言えん。別に浮気じゃないが、大人のお店ってなんだか後ろ髪を引かれる思いだったからな。

 水をグビグビを飲むとマインの親父さんが話しかけた。



「ケヴィン君、体調は大丈夫かね」


「ええ、大丈夫です」


「そうか、それでどうだね冒険者は?」


「ええ、まだ新人ですけどそれなりには」


「ふぅむ、そうか」



 あっ、しまった。二日酔いで頭ずきずきしていたから、つい注意を怠った。

 おそらく、マインのことを聞きたいんだ。

 一人娘を危険な冒険者にさせてしまったことに原因は俺にある。

 ここはどーんと構えた答えをすればよかった。



「いや、あの……」


「これは、貴族の間に広まっている話なんだがね……」


「は、はい」


「国王直々から、御触れを出すという噂が広まっているんだ」


「……? 何か勅令が下るんですか?」


「いや、そんな厳しいものではないけど。近々、冒険者向けに通達をすると」


「何をですか?」


「それは本当に幹部しか知らないけども。おそらく、王都の外のことだと思う」


「…………」



 つまり、冒険者の数減らし、もしくわ危険な仕事を冒険者に肩代わりする。

 俺の受けたクエストは、薬草摘みと剣闘士。剣闘士は相手がザコだったからもあって楽な仕事ばかりだ。

 でも、本当は冒険者は危険な仕事を任される。

 モンスター退治や開拓、本来なら冒険者の仕事だが、腕利きの者は王国軍団に入らされる。

 その中に調査兵団という部隊がある。何十人と塊になって未開の地を開拓していき、領土を人の住める地を増やしていく。



「あの、調査兵団のことは聞いたことがありますか?」


「ああ、調査兵団か、色々と言われているね。成果が上がれば領土拡大と謳われれ、上げなければ税金のムダと蔑まれ。かわいそうな部隊だよ。戦死者も高い確率で出ているというのに」


「本当、立派な仕事をしているのに……」


「遺族は遺族年金じゃ心は埋まらないのにね」



 親父さんのその言葉でハッとなった。

 調査兵団が戦死したらその補償として遺族に遺族年金が出される。

 おそらく、その出費は少なくない。

 それに対し、冒険者が戦死しても自己責任だ。カネは出ない。

 なんとなく見え隠れしてきた。正規軍としての調査兵団。非正規軍としての冒険者。その使い分けを。



「……死にませんよ。俺とマインは…………」





 二日後、ノーブルタウンに俺とマインは出掛けた。

 ここ三日間、俺一人で人探しをしていた。収穫は芳しくはないが、マインに心配がられるのも忍びない。



「ふふ、ケヴィン様、今日はどこに行かれるんですか」



 マインが気分よく言う。ここ最近、俺一人で仕事をしてたりしたからな。二人で出かけるのは薬草摘み以来か。



「ご飯でも食べよっか」


「はいっ」



 ノーブルタウンの一区画にレンストラン街がある。そのレンストラン街のさらに一区画に異世界通りと言われる通りがあり、そこのレンストランが絶品に旨い!



「ここにしよう」 


「レンストラントーキョー ですか」


「食べたことある?」


「いえ、ありません。ほとんどお屋敷で食事をとっていますので」


「そうか、ここはおいしいよ」


「はいっ! ぜひ食べてみたいです」



 店内に入ると、エプロンドレスを着た店員が俺たちをソファのボックス席へと案内する。

 さっそくメニューをとり、どれを食べようか品定めする。



「はぁ、どれも美味しそうです」


「好きなものを選んでいいよ」


「うー、選びきれません」


「じゃあ、俺はこれにしよっ、『和風ハンバーグ定食』だ」


「わふぅ\(>ω<)? ハンバーグ? 一体、どういうものなんでしょうか」


「ええと、メニューには【大根おろし】と書いてあるな」


「だいこん! それをおろすとわふぅになるんですか」


「まぁ、俺はいいとして、マインは?」


「えーと、えーと、じゃあ、これにします。『からあげ定食』!」


「わかった。すいませーん、和風ハンバーグ定食とからあげ定食で」


「はい、かしこまりました。和風ハンバーグにはタレがついております。

 それと、からあげにはレモンをかけますか? かけませんか?」


「マインどうする?」


「いえ、最初はかけないでいきましょう」


「かしこまりました。お二つ同時に出しますね」



 そう言って、店員さんは厨房に消えていった。



「マインって、からあげにレモンかけない派なの?」


「いえ、そういうわけではありませんけど。お父様から言われているんです。『勝手にからあげにレモンをかけるな』っと」


「すばらしいお義父様だ」



 大皿とかに置いてあるからあげたちに勝手にレモンをかけるヤツは万死に値する。

 あいつらがかけているのはレモンじゃない、おしっこだ。

 勝手にマーキングするなよ、駄犬どもがッ!

 それとあと、健康にいいからとかけるバカもいるが、こっちは『健康の話をしてるんじゃない! 好みの話をしてるんだーー!!』



「お待ちどうさま。こちらが、和風ハンバーグ定食になります。そしてこちらがからあげ定食になります」


「わぁ、美味しそう」


「ハンバーグが大きくてよい。これにタレをかけて、よしっ」


「「いただきます」」



 はふっ、ふむっ、旨い!

 ハンバーグと白飯の組み合わせは旨いぞー!

 そして、ずずっとみそ汁も飲む。口を流して一旦リセットすると今度は、香のもの。

 バリバリ、ポリポリ、たくわんを食べ、さらに白飯と組み合わせる! くぅー、旨い!



「バリッ、はぁむ、んー、美味しいです」



 マインはからあげのサクサクした衣を味わい、すかさず白飯を食う。

 その後、ずずっとみそ汁をすすり口の中を空にして、たくわんをポリポリと食べる、またすかさず白飯を食う。

 俺と同じような順番で食う。

 何だっけこういうの、ミラーリングだっけ、似たようなものを受ける。



「はぁ、腹一杯食った」


「そうですね」


「俺が出すよ」


「そんな、私も出します」


「なら、また今度出してくれ。俺たち、婚約者なんだからさ」


「はぅ、そうですね。婚約者ですものね。えへへ」



 奢るからとて驕り高ぶらない。結婚を誓う二人だから。

 俺たちが店を出るともう昼すぎになった。屋敷へ帰る道中、ノーブルタウンの広場に着いた。

 商業地区の中心は広場となっている。プラザと呼ばれ人々の往来が激しい。

 その広場に大きな時計塔がある。時刻を示す他に一時間ごとに鐘をならす。

 午後二時の鐘がゴーンゴーンとなったその時である。



「王宮からの御触れがでたぞー!」



 どこからともなく騎士団たちがやって来て、御触れを立てる。

 なんだなんだと人々が集まる。おかげで御触れの内容がよく見えない。



「ケヴィン様、一体なんでしょうか」


「…………もしかして」



 俺は思い出す。親父さんが貴族の間で広まっている噂のことを。



「おい、やばいぞこれは」


「まるで戦争前夜だ」


「王国の国庫が尽きたのか!?」


「これは時の国王の愚策だ」


「重税になると、また使用人がメイドだらけになる」


「それより、ついに反応を示したのではないか」


「喜ばしいのは、庶民や冒険者でしょう」


「だが、これは慶事だ。いやはやご同慶の至りだ」



 集まった人々が口々に言う。俺はあの噂が本当かどうか確かめるべく人々をかき分ける。

 その御触れに書いていたのは。



『冒険者諸君


 我が国の国宝、伝説の剣を授ける時が来た。


 伝説の剣が認める者のみに授ける。


 条件はモンスターがドロップするダークコアを集めよ


      エーギル国王』

 


「こ、これは!?」


「ケヴィン様?」


「マイン、すぐさま冒険者ギルドに行くぞッ!」


「はっ、はい!」



 俺たちはすぐさま冒険者ギルドに向かった。すると案の定ギルドは冒険者でいっぱいだった。御触れはアンダーにも出されたらしい。



「うおーー! 俺だ俺だ俺だ」


「どけっ、邪魔だ!」


「一匹残らず狩ってやる!」


「受付の姉ちゃん! まだか!」


「こっちはパーティーでやるぞ!」



 半狂乱と人々はなっていた。あちこちでぎゅうぎゅう詰めになっており危険だ。その時。



「こっちよ」


「リリーさん!」



 俺たちはリリーさんに呼び寄せられ冒険者ギルドから離れ、ボトムにある旅団のアジトへと入った。



「なんなんだ、あれは」


「みんな、熱狂に沸いているわ。御触れを見て、自分が伝説の剣を手に入れると自負をしているわ」 


「みんな、そんなに伝説の剣が欲しいのかよ」


「当たり前よ、伝説の剣を手に入れた者は伝説の勇者となって、王室とほぼ同等の扱いを受けるんだから」


「でも、命を散らす危険なんだろ。そこまでのことか?」


「市民権を持たない人たちだから、そこまでのことをしないと革命は起きない。成功すれば富や名誉はもちろん家族や子孫代々まで手厚く扱われる」


「そういうのって、今の貴族だろ。国の成り立ちの時に主人公は王室になり、仲間たちは貴族になった。それが今脈々と続いている」


「そうだけど、……残酷だけど時の政治によってかわるのよ」


「愚かな政権で国を滅ぼす気か」


「あの、…………少しいいですか」


「なんだマイン?」


「新しく伝説の勇者になった方はどこに住まわれるのでしょうか?」


「…………おそらく、ノーブルタウンかもしれないわね。王宮は王室でないと入れないし」


「今のノーブルタウンに余っている土地はありますか?」


「……ない。…………ただ、リストラ候補はあるかもしれないわね」


「…………そう……ですか」



 マインが暗い顔になった。



「ちょっと待て、どういうことだ。俺にも説明してくれ!」


「わかったわ。貴方にもわかりやすく説明すると、ノーブルタウンには余っている土地がもうないの」


「ええ」


「なのに、新たに貴族の家を迎えると国王が言うとなれば、それは合併か立ち退きよ」


「伝説の勇者が既にいる貴族の家に入るまたは勇者の家に貴族が入る。それか今いる貴族が立ち退く……」


「立ち退くというなのはね、つまり没落するということなの」


「没落ッ!? いいのか勝手に王様がそんな簡単に貴族を裏切るようなことをするなんて」


「仕方ないけど……おそらくそうなる」


「そんな没落となった貴族はたまったもんじゃないぜ……」



 俺はハッと気づいた。まさか…………。



「おそらく、私の家が没落候補だと思います」


「そ、そんなッ! なんでッ!」


「はい、カルヴァート家には子供が私しかいません。女子では家を継ぐことはできません。なので限界貴族とも言われています」


「そんな、男子がいないからってそんなこと」


「通常でしたら、娘は嫁がせて別の貴族と契りを結ぶのですが。女子しかいない家庭は婿をとります。それならば女系ではありますが継ぐことはできます」


「……………………」


「以前お母様から聞いたことがあります。『結局、私がお世継を生まなかったために…………』と」


「……そう言えば、お袋さんは肉体関係に言及をしていたな」


「おそらく、私にもお世継を生まなければなりません。ですが…………」



 俺とマインは今は婚約者だ。マインが16歳になったと同時に結婚するつもりだ。

 結婚したあと、初夜を迎えてその後子供が生まれるのはいつか。仮に男子ではなかったら。

 そう思うと、伝説の勇者が生まれる方が早いと思う。



「リリーさんは、この伝説の勇者が誕生するのはいつぐらいと見てる?」


「それはいつとは言えないわ。でもある程度の見当を言うと……季節が変わる前だと思うわ」


「……早い」



 くっ、それじゃマインと結婚式を挙げる前に決まってしまう。

 どうする? どうする? どうする?





「ケヴィン様」


「っ?」


「私が、没落しても……好きで……いてくれますか」





 マインはそう言うと、つーと頬を濡らした。





「…………当たり前だッ!!」


「はっう!?」





 俺はマインを強く抱き締めた。




「俺が一生涯愛する女性はマインだけだッ!!」


「っく…………ケ…………ケヴィン様ぁ」



 俺はマインを離さない。絶対に離すもんかッ!!



「リリーさん、このクエスト受けさせてください!」


「…………今までより危険よ」


「かまいません!」


「そう、わかったわ。すぐにギルドに通しておくわ」



 誰かに伝説の勇者になってしまわないように。

 誰かに奪われぬように。

 先に俺が伝説の勇者になってやる。



「マイン」


「はいっ、ケヴィン様」


「ついて来てくれるか?」


「はいっ! どこまでも」



 俺はマインに熱いキスをした。人目も憚らずに。



「んっ、ぷはっ…………ケヴィン様…………こ、こんにゃの…………は、初めてでひゅ…………」


「愛する人にしかしないキスだよ……」

 

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