第4話 グラディエーターショー
「これに出て」
「リリーさん、これは?」
「剣闘士と言えばわかるかしら。くわしく言うと、こちらか側がスポンサーとなって、貴方が実戦に出る。勝利したときの配分はこちら側が決めるわ」
「…………中抜きをどっさりと……」
「フフフ、今回はモノとカネは別けて考えましょ。こちら側はカネ、貴方はモノで」
「これ、賞品が出るの? ってか賞金は全部ぶん取るの?」
「賞品は、【賢者の杖】と【パラディンソード】よ。これらは貴方にあげるわ」
「モノで腹は膨れん」
「フフフ、あの娘はいいの?」
「マインか?」
「あの娘、せっかく魔法適正があるのに今のままじゃ魔法を使うことはできないわ」
「………………」
「この賢者の杖があれば魔法が使えるわ」
「そう、なのか」
「それに、賢者の杖とパラディンソードは最高の組み合わせよ。相乗効果もあって更に高まるわ」
「……わかった。出る」
「フフフとそう言って貰えると思ったわ」
リリーさんからまたクエストが来た。今度はアンダーが任務地になる。
前回はノーブルタウンの深部で滅多に人が来ない場所ではあったが、人以外のものが来てしまった。
まぁ、さすがに今回は人外は出ないだろうと思う。
けども命を張る依頼。
今回は俺だけアンダーへやって来た。
「ここが、アンダーコロシアム?」
アンダーの南西部にあるドーム状の建物。見た目は経年劣化で汚く、本当にここであんな豪華な賞品が貰えるのか疑問だった。
「ん?」
一人の男が入り口の前にぼーとつっ立っていた。
俺は邪魔だなぁと思い、ついやってしまった。
「邪魔だっ!」
「うわっ」
俺は男の背中を蹴飛ばした。
ずてんっと男は前向きに倒れ、何事かとパッと俺を見た。
俺の顔を見て恐怖に戦慄いたのか気持ち悪い行動に出た。
「ペロペロ、ペロペロ、地面美味しいぃぃ。地面美味しいよおぉぉ。イーーヒッヒッヒッ」
「うわっ、こいつ地面舐めてやがる。気持ち悪っ!」
俺はすぐさま中に入った。
アンダーコロシアムは吹き抜け二階構造だった。
一階はただっ広い石畳、二階はそれを見下げるようにコの字になっている。
二階にはリリーさんがいた。
「今回、貴方の対戦相手は一人よ」
「えっ、一人倒せば。あの賞品を貰えるっ!?」
「そうよ」
あまりにも都合がいい内容で怪しさも十分にあったが、今は勝つのみ。
やがて、二階に観客たちが集まってくる。自分たちは戦わないから安全な場所で見物してやがる。
俺は一階でブンブンと剣を素振りをしていると、対戦相手か大会の関係者だろうか一階にも人が数人集まった。
その中の一人のハゲが俺に話しかけてきた。
「私が今回の主審をします」
「ああ、どうも」
「何人か副審もいますが、お気になさらず。ではこちらがあなたの対戦相手です」
主審のハゲが俺の対戦相手を呼び出した。その相手は。
「ひっ、あ、あんたは」
「あっ、あーね」
入り口につっ立っていた男だった。
ザコが相手かと思ったとき、主審が自己紹介を促した。
「ケヴィンだ」
「オ、オイラはビルだ」
ビルという男は声を震わしながら言った。最初からびびってやがる。
なので、俺はこのカモに提案した。
「なぁ、お前はいくら貰える」
「ひぇ、えっ、それは……」
「ニギらないか」
「えっそれて、個人間で……」
「ああ、そうだ」
「わ、わかった。い、いくらだせる」
「片手ほどだ」
「500か」
「ゼロが足らねぇな」
「ひぇ、5、5000か」
「それでいいだろう」
「でも、オイラはそんなに出せない。せいぜい1000が限界だ」
「それでいい」
「そ、それでいいのか?」
「あぁ、俺はヒリヒリとした戦いが好きなんでな」
これで、交渉成立。一階正面にステージがあるので、そこに厳重に賞品が置かれている。そこにガードマンもいる。なので俺たちの金もついでに置いてもらった。
マインの家の金なんだが大丈夫。負けないから。
ってかそもそも、リリーさんが賞金を渡さないと言うからだ。こうでもしないと割りが合わねぇ。
「よろしいですか。ルール説明をします。
お二人には剣で戦ってもらいます。その他の武器は無し
フィールドはこの一階、副審たちに囲まれた範囲です。
主審が判断して勝敗を決めます。
何か質問はありますか?」
「あるぜ、これはショーなのか」
「興行なので」
なるほど、観客を沸かせろか。つまらない試合、例えば効率過ぎて無駄のない試合やワンサイドゲーム、それだと主審は満足しない。
この観客たちはチャンバラを好むのかどうかは知らんが、まぁ遊んでやるか。
「では、よろしいですね。
両者、前へ!」
俺とビルが剣を構え向かい合う。
ビルがこっちを真剣な目をして見つめてくるので気持ち悪い。
なので、観客を沸かすためにも一芝居をした。
「フンッ! 俺に勝負を挑むなんて100年早いぜ!
必ず勝ってやる!」
俺は顔を二階に向け叫ぶ。
「リリーさん! この勝負に勝ったら、
『その真っ赤なハイヒールで僕を踏みつけてくれーー』」
うおーーーとバカな観客たちが盛り上がる。ここにいる観客たちのほとんどが男だ。変なことに共感するなぁ。
「フフフ、いいわよ♥️」
するとリリーさんは、んんばっ! と投げキッスをしてくれた。
それに観客たちが再びうおーーーうおーーーと叫ぶ。
「それでは、始めっ!」
主審の合図と共に俺は、ビルの剣を薙ぎ払うべく、懐に入り逆袈裟斬りをした。
すると、キンッと金属のぶつかる音がする。
ビルの剣を薙ぎ払えず、つばぜり合いにはなった。
ぐぐぐとお互い力を入れいるので押し合いになる。
その様子を観客たちは最初からかっこいいと言わんばかりで雄叫びを上げている。
「本気で俺に勝てると思っているのか?」
「ぐっぐぐぐ」
ビルはしゃべれる余裕はない。
こんなんで盛り上げる試合をしろというのも難しい。
「はあああっ」
俺はおもいっきり力を入れた。すると、キンッと今度は金属が離れていく音がした。
「わぁあ」
ビルは剣が手から離れたことに驚いている。
「取りなっ」
俺はビルに落ちた剣を拾いに行かせる。
ルールは剣で戦うこと。素手の相手に武器を使うのは、興行の場では相応しくない。
「うわあぁ」
ビルが剣を拾い、俺に突進してくる。
「フッ」
それをかわす、と同時に足をかけてやる。するとずてーんとビルは派手に転んだ。
ふはははと観客たちが笑う。
「く、くそ」
今度は突進せずに、剣を構えて迎い打ちを狙う。
ビルの思惑通りになるものかと、ここで俺が剣を構え睨み合いなどをしたら、観客たちはどう思うか。
緊張感が伝わるで、息を飲んでくれたらいいが、ここの観客たちはバカそうだ。
「はぁ、チッ」
仕方ない、やるしかないか。
「思い知らせてやる、レベルの違いを!」
スパッスパッスパパパパ。
石畳の隙間から火を吹くかのごとく斬撃の衝撃波が立ち登り、ビルへと向かう。
「くっ……」
空気を斬るその衝撃波にビルは顔をしかめる。
その瞬間を俺は逃さなかった。
「はあああっ」
ビルの剣をはたき落とす。
「ぐぁっ」
衝撃が手首に伝わり腕が痙攣する。
ビルは膝をつく。
瞬間、俺は脳天をたたく……。
「はあああああああ」
剣を振り下ろすその刹那。
「うっ」
ズキズキっと、頭痛がし、キィィィンと耳鳴りがした。
視界もぼやけ、俺はビルを仕留めそこなった。
なんだこれは。
とっさに俺は何者のかが邪魔をしたのだ察した。
「ぐぐ、卑怯だぞ」
呟くが、ビルは目を丸くして防御をとっている。
なら、別の誰かが?
ぼやけた視界から周りを見渡すといるのは審判たちのみで敵が見受けられない。
ならば、二階かと思ったがこの視界じゃ目視はできない。
「……状態異常だ」
ビルが呟く。
何だってっ!? 状態異常!?
よくわからないことをビルが言う。だが、何とかその意味をくみ取る。
うまく行動ができないってことか。
ちくしょうっ!
そんな急に体調不良にさせることができるのか!?
「怯んでる隙に」
ビルが再び剣を取る。この絶好のチャンスを逃すまいと意気込んでやがる。
「お、おい。……いいのか」
「え?」
「……そん……なので、勝って……いいのか」
「でも……」
「……みんなが……くっ…………盛り上がっているのに……水を差す……空気が読めない……ノリが悪い……そんなの……誰が許すか……よ」
「あっ」
ビルは剣を持ったまま硬直する。
幸いコミュニケーションできる人間でよかった。これが獣なら問答無用で食われていた。
「……勝つなら……主審が認める……勝ちをしな」
「……そうだ」
「…………へっ………………うっ!」
ビルが何か決心をしたのか、俺が安堵をしたと思ったら、胸にひじ打ちを入れてきて後ろ向きに倒れる。
こいつ、どうしても勝ちにきやがる。
「くらえっ!」
ビルは俺の胸を目がけて刺突しにくる。
「ぐっ」
胸を貫いた……と思ったが。
「あれっ?」
切っ先は俺の左胸に引っ付いたまま動かない。
「……ラッキーだぜ」
すっかり忘れていた。胸ポケットにドラゴンのウロコを入れっぱなしだったんだ。
ウロコが硬くてよかったぜ。
「おい」
「ひっ」
「……てめぇごときが、ナメるなッ!!」
ビルの剣を、おもいっきり横薙ぎで弾いた。
キィィィンと音を立て、放物線を描きながらフィールドの端へ追いやった。
すると、うがぁと声を上げた。
「あっ」
副審の一人に当たったらしい。やっちまったと思ったその時、すうっと頭痛が治った。
視界も良好になり、俺は二階へと見上げる。
観客たちがうおーーーと拳を上げていた。
そうか、ピンチをはね除けたのか俺は。
自らの演出ではないが、予期せぬ事態に何とか幸運を背に自力で脱した。
何も知らぬ観客たちはその画だけで興奮しているのか。
「主審、拳はその他の武器になるか」
「武器は、戦いに用いる兵器や武具で取り外しが可能。身体は選ぶことができず、戦闘のみを特化したとは言い切れません」
「そうか、わかった。チッ、ザコが。本当なら剣で勝負を着けたかったのによぉ」
「ひい」
俺はビルの胸ぐらを掴み、剣を首もとに当てた。
「動くなよ」
「っ!」
俺はビルを持ち上げ、抵抗することの愚かさをしっかり身体に覚えさせたことで、剣を捨て右腕を引く。
観客たちは興奮して叫んでいる。
こういうときもっと興奮するやり方がある。
「アイアンフィストーーー!!」
「ぶごぉ」
必殺技の名前を叫びながら、ぶん殴る。
バッコーンとビルのアゴを砕かせ頭を揺らす。
ビルは後ろ向きに、ばたんっと倒れた。
うおーーーと観客たちが興奮冷めやらぬ声を上げる。
ビルは白眼を剥いている。
チラッと主審を見た。
それを察したのか主審は手を上げる。
「そこまでーー。勝者ケヴィン!!」
うおーーーうおーーーうおーーーと観客たちが叫びまくる。
「口ほどにもねぇなぁ。ぺっ!」
俺はビルの額に唾を吐いた。
「それでは、ケヴィンに賞品の【賢者の杖】と【パラディンソード】を授ける」
うおーーーとまたしても観客たちが叫ぶ。
俺は賢者の杖とパラディンソードを受け取り、ニギっていた1000₯も取る。
「フフフ、おめでとう」
「リリーさん、どうも」
「ちょっと危なかったところもあったけど貴方ならやれると思っていたわ」
その事について、リリーさんに話した。
「……ふうん。……それは……もしかして……あの副審が」
「どういう事だ?」
「……私たちと敵対する勢力がいるっていうことね」
「敵対する勢力?」
「……兵役試験に合格した者は王国軍団に、騎士試験に合格した者は騎士団に、傭兵試験に合格した者は傭兵団に、ならそれらから外れた者はどこに行くのかしら?」
「………………」
「ならず者と言われようとも、それでも生きていくしかないのよ」
リリーさんはそれ以上詳しくは話してくれなかった。
「今日みたいな興行は、主催者と私たちスポンサーでお金を出しあっているの。観客たちからお金を巻き上げてね
ちょっと、非合法な興行なの」
「藪をつついて蛇を出すか」
「フフフ」
リリーさんは蠱惑な表情をしてごまかす。
「……さて、帰るか」
「ええ、そうしましょう」
帰りは公共渡船で帰ることとなった。その前に、観客たちにサービスでもするか。
「おーい! 野郎ども、これが賢者の杖とパラディンソードだぜー」
「ウエーーイ」
「今日は見てくれてありがとな」
「イェーーイ」
「俺が今日勝てたのも、お前らのおかげだーー」
「うおーーー! しっかりと姉ちゃんのヒールに踏まれろよ」
男たちのばか騒ぎに包まれていた。だからか、俺は聞こえなかった。
「……………………バカじゃないの」




