第3話 最初のクエスト
「俺、働くよ」
マインにそう言う。
俺は婚約してから、マインの屋敷に住むこととなったが、ヒモ状態だ。
屋敷の使用人に家のことを任せているので家事をやる必要はない。
お金もマインのご両親の収益があって特に困ってはいない。
だけど、男として居心地が悪い。
男ならば愛する妻や家族を養っていかなければならぬという考えが俺にはある。
「では、ケヴィン様どこで働きますか?」
低学歴、低身長、無貯金、無資格の俺に働ける仕事などほとんどない。
兵役試験に落ちた男は農業ぐらいしか残されていない。
身体に自信がある者は兵士に、頭に自信がある者は学者になる。
マインの家は農地を所有していない。俺が小作人にならないと農業を営めない。だがそれは、農地を所有している貴族と何らかの摩擦が起こる。
マインの家を立てつつ何か働ける仕事といえば……。
「冒険者とかかな」
冒険者を兼業している貴族は少ない。そういうやつは大抵末っ子などの跡継ぎや世間体など考えず自由に出来る者だけだ。つまりは高等遊民。高等な学力は持ち合わせてはないけど。
「まぁ、素晴らしい。冒険者は国のため世界のために平和を愛し世界を開拓していく人たちのことですね」
「え、まぁうん。そうだな」
そうだった。マインは箱入り娘だったんだ。世間ずれしているところがある。
俺が聞いたところによると、命懸けの仕事で亡くなる人も多い。
学も職もないやつはもう命を張るしかない。マインの家に頼るのは男のプライドとして無理だし。
「でしたら、ケヴィン様。私も冒険者になります」
「はっ!? なんでそうなる!?」
「だって、ケヴィン様と一緒になれるのなら、私はどこまでも行きます!」
「ちょっと待て、親父さんが許さないと思うぞ」
「お父様ー」
「何かね?」
「私、ケヴィン様と一緒に冒険者になります!」
「何だって!?」
「ほら見ろ、親父さんも反対……」
「それは強い意志なのか?」
「はいっ!!」
「なら、なりなさい」
お義父様ぁっ!?
「ケヴィン様、これで一緒の冒険者になれますね」
「いや、お袋さん……」
「マイン、ならこれを持っていきなさい。我が家に代々伝わる愛のロケットペンダントよ。表に家門が刻まれているし、幸運のペンダントでもあるのよ」
「かわいい。ハート型です。ここにケヴィン様の写真を入れるんですね」
「いや、貴女とケヴィン君のフレンチキスの写真を入れなさい。唾付けときなさい」
お義母様ぁっ!?
「はぁわぁあ。キっキスをケヴィン様と……写真に撮られるのぉ……」
「恥ずかしかったら、お母さんが撮ってあげる!」
ちょっと、お義父様ぁ、お義母様ぁ、子離れ早すぎない!?
あれ? ほんの数日前まであんなに過保護だったのに。
あれは俺の検討違いかぁ?
「ケヴィン様、一緒に冒険者ギルドに行きましょう」
「お、おう」
そんなこんなで、俺たちはヴェネスシティの冒険者ギルドに行くこととなった。
ヴェネスシティの冒険者ギルドは市民区にある。
ヴェネスシティは北に貴族区通称ノーブルタウン、南に市民区通称アンダーが位置する。
冒険者ギルドの応募はほとんどが労働者階級の人々なのでアンダーに設置してある。
冒険者ギルド左隣に傭兵団の詰所がある。トラブルがあったのならここに。その左隣には花屋がある。
ここらがアンダーの南に位置し、右側からは橋が架かっており、俺はここから田舎を出た。
冒険者ギルドの対面、入りの橋から見て左に歓楽街通称ボトムがある。まさかこんなところでマインのような貴族と会うとは思わなかったな。
「ギルドの登録二人分、よろしく頼む」
俺は真っ先に受付嬢に言った。すると、受付嬢は目を丸くして言う。
「えええと、お二人様がギルドの登録ですか?」
「そうだ」
「いや、あああの、奥の貴賓室へどうぞ」
受付嬢が慌てふためいて、俺たちを奥の部屋へやった。
「担当の者が来ます。しばらくお待ちください」
「あの、担当の者って?」
「いや、あの、お二人様は貴族ですよね?」
「ええ。どうして?」
「お連れ様のペンダントを拝見しましてわかりました」
「へぇー、貴族が来るとこんな部屋に行かせるのか」
「はい、ここに来るのは労働者階級の人々がほとんどです。なので何かあってはいけませんので、貴賓室に呼ぶようにされています」
「そっそうか。わかった」
「はい、失礼します」
そう言って受付嬢は去っていった。
そりゃそうか、不労生活できる貴族様がこんなところに何のようだって、血気盛んなやつなら突っかかりに来るだろう。
しばらくしてコンコンコンとドアをノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
「はぁい、貴方たちがギルド登録をしたいのねぇ」
やったらエッッロい女性がやって来た。
真っ赤な服に真っ赤なルージュに真っ赤なハイヒールを履いた、プラチナブロンドのゴージャスパーマ、ボンッキュッボボンッ!
「ええ、そう……だけど」
「あら? 貴女のペンダント……もしかして、カルヴァート伯爵家の?」
「はい、そうです。マイン・カルヴァート、伯爵の娘です」
「ふぅん、なるほどね……」
エッッロい女性は俺たちに着席を促し、テーブルに水晶と紙を置いた。
「私はリリー。この冒険者ギルドでは貴族を担当してるわ。他にもしてるけどぉ、まずはこっちをやりましょう」
「えっと、これは?」
「これは、貴方たちのステータスをみるのよ。恥ずかしいかも知れないけど、ぜぇんぶ見せてねっ」
なんだか、エロい穴を見せてしまいそうな気分だ。
リリーさんは水晶に手を乗せてみてと言い、俺は手を乗せてみると。
「おお」
水晶が光り、まるで太陽光が水晶に集まり紙を焦がすような光線が、用紙に俺のステータスが刻まれていく。
「あらぁ?」
「えっなにか?」
「貴方のステータス言うわね。
レベル1.0G
HP31
MP0
攻撃37
防御20
俊敏30
ID ロードオブドラコン」
「え? それって……もしかして、俺弱い?」
「レベルが1.0Gということは第一世代。かなり低いわねぇ」
「うっ」
「大丈夫です。ケヴィン様。私はケヴィン様がとても伸びしろのあるお方だと知っています」
「あ、ありがとう。マイン」
「じゃあ、次は貴女ねぇ」
「はい、どうぞ」
「ふふ、すごいわねぇ。貴女のステータスは、
レベル5.0G
HP209
MP226
攻撃126
防御100
俊敏150
IDホーリーメシア」
「…………さすがマイン。……マインがいて俺は幸せだよ」
「はぁぅ、ケヴィン様。私も幸せです」
「ふふ、仲が良いのね。レベルが5.0Gということは第五世代。これ以上は見たことないわねぇ。現時点で最高レベルじゃあないかしら」
「私とケヴィン様を合わせて、レベル6.0G! 第六世代ですね」
いや、マインそれは違うと思う。
「貴女は魔法適正があるわねぇ。水魔法のウンディーネ、炎魔法のサラマンダー、風魔法のシルフ、土魔法のノームが使えるわねぇ」
「えっ? でも私魔法とか使ったことないんですけど」
「なら、魔法のアイテムが必要になるわねぇ。うん、ならちょうどいいわ」
俺たちが疑問に思っているとリリーさんは答えた。
「貴方たちに最初のクエストをしてもらうわ。もちろん報酬も出る」
報酬っ!? なら俺はこれでマインを養え……るのはまだ先だと思うが、男としてのメンツは少し保たれる。
「まず、このヴェネスシティの成りたちについて、説明するわね」
リリーさんはこの水の都ヴェネスシティの伝説について語った。
ヴェネスシティは元々砂漠の中のオアシスだったらしい。
ある時、オアシスに水神ことドラゴンが飛び込んで来た。
すると、砂漠地帯にも関わらず大雨が降った。
もはや洪水と言わんばかりの大水が流れ、島ができ、丘もできた。
ドラゴンが飛び込んだオアシスは無限に水が湧きだし、川が生まれた。
周りを囲むように流れる川の中に大きく隆起した丘にドラゴンは降りたった。
その時、ドラゴンの牙が抜け落ちた。
そのドラゴンの牙はみるみる形を変え、伝説の剣となった。
その後、人々はこの地に渡り王国を作った。
伝説の剣を保管するようにこの丘に宮殿を建てた。
やがて、ドラゴンが飛び込んだオアシスを無限水源の地として貴族の領地とした。
「それで、この無限水源の地の領主は代々カルヴァート家なの。一般人は入れない」
「まぁ、マインと婚約者の俺なら簡単に入れそうだな」
「その無限水源の地に高値で売れる薬草がいっぱいあるから、それを摘んできて欲しいの」
なんと、簡単なクエストだ。これで報酬も貰えるなんてラッキーだぜ。
「マイン、無限水源にある薬草を根こそぎぶん採るぞ」
「はいっ。ケヴィン様」
「あー、それはダメよ。野生絶滅しちゃうわ。ほどほどに、ねっ」
リリーさんから手さげかごを渡された。持ち帰れる量を摘むことを約束に俺たちはすぐさま無限水源の地へと向かった。
ヴェネスシティの北部ノーブルタウン。マインの家が持つ無限水源の地はノーブルタウンの深部と言われる場所にある。
貴族たちにとっては聖域とされる場所。マインは親父さんに頼み込んで特別に俺たちを入れてくれた。
「うぉお、すっげー」
「綺麗ですね」
静寂と静謐がよく似合う。
心地よい柔らかな風が草茎を揺らす。
リリーさんは薬草の図を俺たちに渡してくれた。
この絵柄通りの薬草を探す。
「あっ、ケヴィン様。あれじゃないですか」
「おー、そうだな」
マインは早速薬草を摘み取る。
女の子がこう、お花摘みみたいな姿勢だとなんか変なのがよぎるね。
「ケヴィン様も早く早く」
「わかったよ」
ぽいぽいと薬草を摘み取っていく。案外根っこが強くないみたいだ。
薬草摘みに夢中になっていくこと小一時間、自分の分のかごはいっぱいになった。
これぐらいでいいだろうと思いふと、マインの方を見やると。
「……すぅ……すぅ……すぅ」
あー、お昼寝してしまった。
この眠り姫め、ゴンドラの時もお昼寝してたしな。
まあ、この場所は聖域みたいだし、不特定の誰かが入ることはないから、それほどは汚くはないんだろうけど……。
「でも気持ちいいよな、俺も寝よっかなぁ」
俺は仰向けに寝転んだ。
目に映るのは青空。
穏やかだ。
今までこんな気持ちになれなかった。
だが、今は違う。
「幸せだなぁ」
そんなことを呟きながら、ぼーと耽ると辺りに霧が籠めてきた。
ちょっと、天候が悪くなってきたか。だったらさっさと帰るか、と思いマインの方を見ると……霧で見えない。
「っ!? マイン! マインどこだ!!」
俺がマインの名を叫ぶが、返事はない。
急に不安がこみ上げたその時空から一陣の風が吹いた。
俺は何事かと上を見上げると。
「…………ドラゴン」
霧掛かってよく見えないが影はドラゴンだ。
俺がドラゴンを認識したと同時に、静寂のこの場を切り裂くように咆哮を上げた。
「ぐっ…………」
凄まじい迫力に気圧されながらも、じっと耐えた。
「もしかして、薬草をいっぱい採ったことを怒っているのか? それとも聖域を踏みにじったことに怒っているのか?」
だけど、ドラゴンは答えない。上空から影を見せるだけ。
「……………………」
ドラゴンとの睨み合いが続く。
どれほど続いたのだろうか。
もしかしたら、ほんの数秒かもしれない。だが、長く感じた。
すると、ドラゴンの方がしびれを切らしたのか、ゴオッと風を切りながら逃げて行く。
ドラゴンが逃げ去った跡が台風の目のようにぽっかりと空いた。
しゅるるると音がして、目を凝らすと。
「あ、痛て」
何か硬い物が頭に当たった。
「……これはウロコ?」
ドラゴンのウロコをゲットしたようだ。もしかしたら、あごにあるウロコかも。
そんなことを思うと、すうっと霧が晴れた。
「マイン! マイン!!」
霧が晴れたと同時にマインを見つけた。マインはすやすやと眠っている。
悪いけどもう起きてもらう。
「……んっ……みゃ…………ケヴィン様?」
「はぁあ、良かった。無事か」
「ケヴィン様、私また寝ちゃってましたか」
「……ああ。マインはどこでも昼寝するなぁ」
「すみません。なんだか、急に睡魔が襲ってきまして」
「まぁ、マインが無事だとわかったからいいよ」
俺たちはかごいっぱいの薬草を引っ提げて無限水源の地を出ることにした。
しかし、あのドラゴンは一体何だったのだろうか。
去るときに落としていったこのウロコはなんだ。
再び冒険者ギルドに戻ってきてリリーさんに薬草を渡した。
これにてクエストクリアとなり、俺たちは報酬として6000ドラクマを貰った。
後にわかったことだが、あの薬草を量り売りしたら今回の報酬は4%ほどであった。
そうとは知らず、6000₯を二時間程度で貰ったので俺は喜んだ。その様子を見たマインも喜んでくれた。
一応、報連相としてリリーさんにドラゴンと会ったことやウロコを拾ったことを話したら、目をぱちくりとした後フフフと含み笑いをしてウロコは大事に持っときなさいとのこと。
「3000で山分けするか」
「いいんですか? 私、途中で寝てしまいましたけど」
「無限水源の地に入れたのはマインのおかげだからな」
そう言って、山分けする。マインは3000₯あれば救える人々がいると言って、ノーブルタウンにある銀行で寄付をする予定だ。
俺はそこまでお人好しではない。今は目の前の人を喜ばせるので精一杯だ。
「ちょっと、寄ってくる」
「お供します」
冒険者ギルドの左の左にある花屋に入った。
花屋の主人にこの子似合う花をくれと頼むと髪飾りが出てきた。
それほど高くはないがちゃんとしたいいものだ。これを買い他の花に目移りすると花屋の主人が話しかけてきた。
「花が好きなのかい?」
「ええ、詳しくなっちゃいましてね」
「そうかい。これとかどうだい? 綺麗だろ。この村はよく綺麗な花を売りに来る」
「ええ、そうなんです。花が綺麗な村なんです」
俺が長い目をしていると、主人はん? となってしまって話しかけなくなった。
俺たちは花屋を出た。
そしてノーブルタウンにまた戻る。今日で何回漕いだだろうか。水流によって助けられた部分もあるが疲れた。
マインが銀行で寄付をしたあと俺は今日のご褒美として花の髪飾りをあげた。
「わあ、綺麗。ケヴィン様、ありがとうございます」
「屋敷に帰ったら、これつけて写真撮ろっか」
「まあ、いいですね」
「それじゃ、キスもしてもらおうかな」
「ふぇっ、キ、キスですか?」
「それともフレンチキスの方がいい?」
「あ、あぅ、それはまだ……恥ずかしいです」
「じゃあキスの方だね」
「やっぱり……キスしないと……ダメですか?」
「もちろんだよ。約束でしょ。キスしてもらわないと」
「あぅ」
「嫌だったら、俺がマインにキスしようか?」
「ふぇっ!?」
「優しくするから」




