寝覚めは最悪でした…
ここは…どこかな?目が覚めた、どうやら眠っていたようです。全身がとても、重たい。なんだろうこれは、まるで汚泥の中で身体が溶けていくような、とてつもない不快感、そして虚脱感。
しんどすぎる、ありえない。やだな、起きたくないなぁ〜、いま何時だろ?そんなことをぼんやり考えながら、うっすらと目を開けました。
視界に入ってきたのは、眩しい光。朝日…?いや違う、いくらなんでも眩しすぎる。空は真っ黒、どうやら今は夜中みたいです。
「大丈夫か!?おい、生きてるのか!?よかった、本当に…もう少しの辛抱だ!!必ず俺が、助けてやるからな!!俺の全てを捧げてでも、君を助けるから!!」
誰かが耳元で叫んでいます。何をそんなに焦っているんだろう、悲痛と安堵が混じったよくわからないような叫び。誰に言っているんだろ、うるさいですね…。
わたしは身をよじろうと身体を動かそうとする。が、どういうわけかさっぱり力が入りません。
「え…と…」
目だけを動かし、そしてそこで理解しました。どうやらその声は自分に向けられたもののようです。わたしはアスファルトの路上で倒れており、車のライトに照らされ、その声の主に仰向けで抱きかかえられている…目が覚めたはずなのだけど、そんな不可思議な状況みたいです。その声の主は、わたしとおでこがくっつきそうなぐらいの至近距離で必死に語りかけてきていて、なぜか涙を流していました。
どうしてこんな状況なのか、彼は何者なのか、ここはどこなのか…そんな疑問も、彼にそんな顔で間近で見つめられると、なんだかくすぐったいような落ち着かないような気持ちになってしまい、些細なことのように思えました。純粋で、綺麗な雫。わたしのために、そんなものを流してくれているのが素直に嬉しく思えます。
「大丈夫だよ…泣かないで」
腕はなんとか、動かせる。持てる力を振り絞り、そっと、彼の目尻を拭いました。突然のわたしの行動に、彼は目を丸くしてこちらを覗き込んでいます。
——しかし。そこでわたしは、気付きます。自分の手が、真っ赤に汚れていました。これは…血?わたしの?よく見ると、手だけでなくわたしの全身がベッタリと。血に塗れ、地面に張り付いているようでした。
ま、そんなことどうでもいいです。それよりも…。
「お腹が、減りました…」
ポツリと、呟いた。そう、わたしはお腹が減って仕方ないのです。減って減って仕方ないのです。減って減って減って減って減って減って減って減って減って仕方がないのです。どうしてかな?
そのとき、耳障りなピーポーという音を出しながら、白い車が近くにやってきた。そこから、雪崩れ込むように人がとぴだしてくる。なるほど、彼の言うわたしを助けてくれるって、そういうことですか。
「救急隊員の人が来てくれた、もう大丈夫だからな!君は助かる、だから頼む、気を強く持って…!」
「通報されたのはあなたですね、至急最寄りの病院へ搬送します。あとはお任せください」
「これはひどい、内臓が露出している…まずは応急手当だ、急げ!」
そんな会話が聞こえたと同時に、わたしの身体に男たちの腕が伸びてきます。ん〜、なんだかよくわからないですけど。わたしの顔の前にも腕があるってことは、そういうことですよね?せっかく彼が用意してくれた食事、いただかなきゃもったいないですよね。
「いただきます」
わたしは親切な彼のお言葉に甘えることにして、そのたくましくおいしそうな男の腕へと顔を寄せ、優しく歯を立てたのでした。