24. ケン君にはわかって欲しいな、と思うんですよ。
エルフィンローズを後にして。
カラン、ガチャン
ドアの閉まる音を聴いて、私は振り返りました。
Closeと下げられた扉。
「そんなに見つめたって、"ケン君"の顔は見えないわよ?」
ゾワリとして、跳び跳ねてしまいました。
「辞めてくださいよ、耳元で話すのは…ルカさん」
振り替える私に、
「えへへ、でも、図星でしょ?」
悪びれた様子のないルカさん。
幅広のベルトで腰元をキュッと閉めているところ。
微かに漂う香水の香り。
フワリとした服の翻りが、どうしても目を誘う。
「もう一回、見てくる?」
「結構です!!」
こういう、からかいが私は苦手なんです。
ルカさんに手を引かれて町中を歩く。
私、子どもじゃないのに。
そう思いますが、知らないところなので黙って手を繋ぎます。
交差点に差し掛かりました。
青は進め、赤は止まれ。
大丈夫です。
ゲルトルートにも有りましたから。
アンペールマンというマスコットすらありました。
アンペールフラウなるものもあるんですよ?
こちらは三つ編みをした女の子ですが。
「ねぇ、アリスちゃん。」
ふと、ルカさんから声がかけられました。
「…なんですか?」
「彼とはさ、その、どこまでいったの?」
バシッ
私、咄嗟にルカさんの頭をひっぱたいていました。
「っ!いっつ、酷いや、アリスちゃん…」
「町中で聞く人がありますか?」
「うーん、でもお姉さん、気になっちゃってね…」
そんな事をのたまうルカさん。
「私なんて…マスター、意外と奥手でね…、こっちから手を出さないとさ…」
…云々。
明けっぴらなのはいいですけど…。
回りに人もいて…。
ここ外ですよ?
そう思いました。
慎みが足りないわ!
そう思えてなりませんでした。
「お姉さんに、任せて。ケン君をゾッコンにしてみせるから!」
前言撤回。
えっ!?何ですかそれは?
凄く…物凄く…気になるんですけど!
■■■
「はぁー」
漏れ出るのはため息。
今朝の空気からしてため息しかでない。
アリスちゃんの機嫌。
同居人となった俺には重要な案件だ。
出ていった扉を見ること幾回。
俺は何をしたいんだ?
アリスちゃんが帰ってくるわけでもないし…
「若き"ケン君"の悩み、ってか」
マスターがなんか言ってきた。
「…ゲーテか…。"あの姿がどこに行ってもつきまとう。"てか。…そんな質じゃないよ。」
マスターはオレンジジュースを出してくれた。
「でもよ…、目を閉じると、内なる視力からあの子の瞳が見えちまうんだろう?」
俺は無視した。
グラスを手に取る。
できればルカさんの絞ったやつを飲みたかったな、と思ってしまった。
味は…、悪くなかった。
「何を考えてるか、全然わからない。」
「だな。」
「経験の少しでも豊富そうなマスターに聞きたいんだけど…」
「お前さん、それは買い被りすぎだ。人形に手を出した程の結婚できない男だったわけだからね。」
うん。そうでしたね。
前にルカさんから、そんな話を聞いたよ。
さてと。
ケーキか、何か。
スイーツの一つでも欲しいもんだね。
こういう時は。
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