夏
ぺっと吐き出すと、黒い粒が白い皿の端にぶつかった。隣で姉がもう3個、ぺっぺとやった。
「やめなさい。捨てるくらいなら食べればいい。」父は口をぼりぼり鳴らしながら言う。
流しで食器を洗う母も「食べ物で遊ばない」と投げ、「食べないでちゃんと捨てて」ともう一度投げてきた。
赤の上澄みは透明な皿にたまってきて、目を離せなくなってきていた。その中に座る次のスイカを口に入れるのがちょっと嫌だった。切り刻まれて諦めたスイカがじわっと泣いているとは信じたくない。
母の手で泡を落とされた重くて古いデザインの皿が次々に、台所に積みあがっていく。包丁だけが、生まれたての赤ちゃんみたいにすぐにふきんで拭かれて、膝下の戸に帰っていった。母の指は太くて、ハリがあって、少し硬かった。
その濡れたままの指が箱みたいなテレビを指し、「明日もたくさん干すんだから。天気予報に変えて。」
姉が濡れていない方の小指でボタンをぽんぽん押して応じる。父は扇風機をまた少し自分の首の方にこっそり寄せた。それだけでもひんしゅくなのに、足元に来た犬にスイカの皮のところをかじらせる。
私は水中に落ちた石を足で拾い、何もなかったように笑顔で担任に渡してきたあとだったから、素麺もすいかも、本当はあまり食べたくなかったのかもしれない。父のことも告げ口しない。同じ校庭にいた姉に、あとから、「プールの石拾いでずるしてるの、あんただけだよ」と言われた。
日に照らされ、水に濡れ、3時を迎えた夏にスイカがやってくる。
明日も狭い食卓に全員が収まり、素麺よりも添えられた氷ばかりかじって、がちゃがちゃ箸を洗い、母の包丁をみんなで囲んで、刻まれたすいかをもらって、ぺっぺして、扇風機にあたって、寝るのだ。