表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

作者: おまめ

 ぺっと吐き出すと、黒い粒が白い皿の端にぶつかった。隣で姉がもう3個、ぺっぺとやった。

 「やめなさい。捨てるくらいなら食べればいい。」父は口をぼりぼり鳴らしながら言う。

 流しで食器を洗う母も「食べ物で遊ばない」と投げ、「食べないでちゃんと捨てて」ともう一度投げてきた。

 赤の上澄みは透明な皿にたまってきて、目を離せなくなってきていた。その中に座る次のスイカを口に入れるのがちょっと嫌だった。切り刻まれて諦めたスイカがじわっと泣いているとは信じたくない。

 母の手で泡を落とされた重くて古いデザインの皿が次々に、台所に積みあがっていく。包丁だけが、生まれたての赤ちゃんみたいにすぐにふきんで拭かれて、膝下の戸に帰っていった。母の指は太くて、ハリがあって、少し硬かった。

 その濡れたままの指が箱みたいなテレビを指し、「明日もたくさん干すんだから。天気予報に変えて。」

 姉が濡れていない方の小指でボタンをぽんぽん押して応じる。父は扇風機をまた少し自分の首の方にこっそり寄せた。それだけでもひんしゅくなのに、足元に来た犬にスイカの皮のところをかじらせる。

 私は水中に落ちた石を足で拾い、何もなかったように笑顔で担任に渡してきたあとだったから、素麺もすいかも、本当はあまり食べたくなかったのかもしれない。父のことも告げ口しない。同じ校庭にいた姉に、あとから、「プールの石拾いでずるしてるの、あんただけだよ」と言われた。

 日に照らされ、水に濡れ、3時を迎えた夏にスイカがやってくる。

 明日も狭い食卓に全員が収まり、素麺よりも添えられた氷ばかりかじって、がちゃがちゃ箸を洗い、母の包丁をみんなで囲んで、刻まれたすいかをもらって、ぺっぺして、扇風機にあたって、寝るのだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ