ハロウィン様御一行
飴玉ひとつ、ふたつ
口の中で転がして
あまい あまい 夢を見た
少女は一人、道端に佇んでいた。
夜色のひらひらとしたマントを肩に羽織って、頭には小さなとんがりぼうし、つんとすました靴先には銀の星。
「君、どうしてこんなところにいるんだ?」
珍妙な服を着て、薄暗くなった道の端、街灯の光が届かない場所に立っている女の子。
「お化けを待っているのよ、黒猫さん」
お化け?黒猫? …黒猫というのは俺のことだろうか。
「Trick or Treat.
ねぇ、黒猫さん?」
ああ、そうか。今日はハロウィンだ。鞄の中を漁って、いつも持ち歩いているキャンディを取り出す。
「はい、どうぞ」
「ありがと!」
飴を受け取った少女は俺の頭の上に手を伸ばす。ゴミでもついているのだろうか。
「いい子、いい子」
頭を撫でられた。
小さな魔女はころころと笑う。何がそんなに楽しいのだろうか。
俺は段々腹が立ってきた。俺はプライドが高いのだ。どうして人間の、それも子供なんかにおとなしくなでられているのか。
「あらあら」
フーッと俺がうなると、彼女は何かを取り出した。
赤い革ひもに、金のすず。
「じゃあ、一緒に行きましょうか」
黒猫さん、と彼女は甘く囁く。
そうだ、僕は黒猫なのだ。
「早く行こう」
空には月が出ていた。
「お化けさんが来てからね」
そうだった。あれを待たないといけないんだった。
「もうすぐよ」
彼女が言うのなら、仕方ない。
僕は魔女の足もとで丸くなった。
「やぁやぁコンバンハ」
「こんばんは」
やってきたのはジャック。陽気なカボチャ男だ。
「ついてるぞ」
彼のオレンジ頭に白いふわふわがくっついていた。
「おや、失敬」
白いふわふわはそこら中に漂いだしていた。
「そおれ!」
白いふわふわを爪でひっかける。それを魔女が袋に詰めていく。
おいうるさいぞジャック。逃げるだろうが。
袋が一杯になるころには、白いふわふわは前も見えないほどに増えていた。
「それじゃあ、帰りましょう」
魔女の箒に乗って、月まで飛びあがる。
ここから先は、長い長い旅だ。
「さあ、次はどこへ行こうかしら?」
「にゃあ」
どこへでも。
月の輝く夜には
魔女の歌が聞こえるよ
飴玉ひとつ、ふたつ
あなたもいかが?