元完璧超人、神獣に出会う
(そう言えば、こっちってどっちですか?)
『お主、我の気配が分からぬのか?』
気配?そう言えば、この聖水の湖の奥から強い気配を感じるんだっけ。
(この湖の向こう側ですか?)
『そうじゃ。湖を渡って早う来い。』
えぇ。無茶言うなよ。前世なら未だしも、この体で泳げと言うのか。無茶にも程がある。
(でも俺、泳げないですよ?)
『それでも来るのじゃ。さもないと…』
(スライムに無茶言わないでください!)
『スライムじゃと?かはははは!傑作じゃ!傑作!長いこと生きておったが、この様なネタを聞いたのは初めてじゃぞ!ますます会いたくなった!早う来い!』
(えぇー。)
この体で泳げるのか?
と言うか、スライムって水に溶けないのか?
ええい!男は度胸!
思い切って湖に飛び込む。
あぁ、やっべ。
どんどん沈んで行ってる。
そうだ!
(『ウォータージェット』!)
壁を壊している間に水魔法のレベルが上がり覚えた魔法を試す。
周りの聖水を凝縮してそれをジェットの勢いで噴射する。
すると、体が押される感覚と共に、浮上して行く。
そして、逆側の岸に近づいて行く。
ペシッ!と言う音と共に逆の岸に着く。
何の音かって?スライムボディが壁にぶつかった音だよ。痛かったよ。痛覚は無いけど。
『よし、湖は渡りきったか。ならば、右側にある道を進むのじゃ。』
右側に空洞があるのが空間把握で分かる。
純也はそこに入って進んで行く。
だんだんと強い気配に近づいて行く。
そして、奥に居たのは、3、4m程の巨体。正確な姿は見えないが、大きさだけなら分かる。かなりの巨体だ。
『ようやく来たか。ふむ、本当にスライムじゃったんだな。』
(だから、そう言ったじゃないですか。)
『しかしのう、スライムなど、念話で話しかけても反応せんわ、魔法も使えぬわで、雑魚の象徴と言っても良いくらいの生物なのじゃぞ?』
(うっ、酷い言われ様だなスライム。)
だが、俺は違うぞ!だって、リンカネーションスライムだからな!
『ふむ、お主はただのスライムではないのじゃな。人間よりも強い魔力を感じるぞ。まぁ、我よりは弱いがな!』
(神獣と比べられてもなぁ。)
『なんじゃ?不満か?』
(いや、そう言うわけでは無いのです。長きを生きる神獣と最近生まれたスライムと比べられてもと言ったんです。)
『む?お主、生まれたてなのか?』
(えぇ、そうですよ。鑑定が出来るなら見てください。)
『ほう、わかったのじゃ。『鑑定』』
ん?何か、変な感じだな。なんて言うんだろう。こう、体が舐め回される感じ?そんな感じが今する。
『む?お主、既に魔力と体力は並みの人間を超えておるぞ。それなのにレベル1か。ふむ、やはりお主は面白いのう。それに、空間把握能力がMAXとは。空間魔法を使えぬのに、どうやって上げたんじゃ?』
(目が見えないので、壁に反響する音や風で大体の空間を感じたりました。本来の使い方ではありませんが。)
『お主、それがどれ程難しいか分かっておるのか?それな、極め付けは転生者か。お主、前世では何をして居たのじゃ?』
(普通の人間ですよ?ただ、他人より少し目立つと言うだけで。)
『それで、次の人生はスライムか!わははははは!お主と話しておると、飽きないのう。そうじゃ、お主、今も目は見えぬのか?』
(見えませんよ。)
『そうか。ならば、魔力操作で周りを感じ取ってみろ。そうすれば、色まで分かるようになるぞ。』
(周りを感じ取るってどうすれば良いのですか?)
『魔力を体内から少しずつ流し出す感じじゃ。』
体内から少しずつ流し出す感じで。
おっ、徐々に周りが見えてきた。
『うむ、そうじゃそうじゃ。お主は物分かりが良いのう。』
だんだんと視界が広がって行く。
そして、完全に広がりそこで見たのは。
狼。その一言に尽きない。だって、大きさが4mくらいの銀色の毛の狼だもん。それが目の前で寝転んでいる。
『ふむ、出来たか。我が姿を見て感想はあるか?』
感想?感想か…そうだな、綺麗な毛並みだ。
(綺麗です。)
『ふむ、そう言われると照れるのう。』
そう言って純也を一振りで消し飛ばせそうな前脚で顔を撫でた。
『良し、気に入った。最後に』
そう言って神獣が言ったことは、
『我を、喰らってはくれぬか?』