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いつもとは違う、朝のこと

 

 その日の総一郎の寝起きは最悪の一言だった。

 冬特有の寒さもさることながら、せっかく持ち上がってきた瞼も天井を見たとたんにずるずるとずり落ちてきてしまう始末。彼自身寝起きは悪い方ではないが、どうにも不調の感はぬぐえない。

 とはいえこのままではいけない。何せ今日も今日とて学校がある。

 無理にでもこの気分を変えなければと思い、素足で触れる冷え切った床の感触にぶるりと体を震わせながら、


「次模様替えしたらベッドあっちに置こうかな……」


 うん、そうしよう。

 などと一人ごちた総一郎は、ひょっこひょっことなるたけ床に触れぬように窓に近づき、カーテンを開いた。

 そうして窓から顔を出せば、ここぞとばかりに冷たい風が頬を撫でてくる。

 目覚ましがてら見回すのは代わり映えのない東京の一角だ。

 遠くを見ようとすればお隣さんの家が視界を阻み、右を見やれば宴会でもやったのか、酔いつぶれた雑鬼どもが何体か倒れ伏しているのが見て取れる。

 そして逆の方を見れば――――。


「おや」


 窓から大きく体を乗り出している居候の姿があって。

 ……ん?


「おはようございます、総一郎」


「響さん?」


 ちょっとまて。

 突如として視界に入って来た彼女が響なのは間違いない。いくら寝ぼけていても昨日血まみれで倒れたところを運び込んで、介抱したことくらい鮮明に覚えてられる。

 だけれどなんでほぼ全身窓から飛び出しているのか。

 なんで刀を腰にさしているのか。

 自分と同じく外の空気を吸いかったのだとして、なんで飛び出そうとしてるのか。 風になっちゃうよ?

 そうこう考えているうちに響の足は窓のさんから離れていき、


「な、なにやってんのぉーーーー!?」


 響は窓から飛び出したのである。

 一瞬でよぎった百万語の言葉共をうまく組み合わせられず、総一郎が発せたのは単語一つのみ。

 しかし響はそんな総一郎の様子に動じず、母のおさがりであるロングスカートとも相まった重量を感じさせない動きでふんわりと着地すると、


「素振りで体を少しほぐしておこうかと思いまして」


 毎日の日課なんです。

 その凛としたまなざしを崩すことなく、明らかに今やった事とかみ合っていない台詞をさも当然のようにのたまったのである。

 そもそも外に出たいなら階段を下りて一階から普通に出ればよいものを、なぜわざわざそんなまだるっこしいことを。


「しかし、ギヤマンと金属で作られた引き戸(・・・)とは珍しいですね。 それも、こんなところに……不便ではないのですか?」


 そうして続けざまに出てきたその言葉に総一郎は一瞬、自分の耳が壊れてしまったかと思った。


「え、ええっと……言っている意味がよく」


「む? 外に出るのにわざわざ階段を上がって二階から出なければならない、というのはいささか危険ではないですか? 考えようによっては鍛錬にもなりますが」


「――え、まさか」


 しかし、総一郎の言葉に小首をかしげるその顔を見ていると、とてもじゃあないがからかっているとも思えない。

 つまりこれは、まさか。


「引き戸以外の扉を見たことがないのか?」


「何を言うのですか総一郎――」


 まさか、から続く言葉に、響は少しむくれて返してきた。

 そりゃあそうだろう。年上の人間に今のは失礼というもの。


「ご、ごめん響さん、そうだよな、幾ら何でもーー」


「そうですよ、引き戸以外の物で、どうやって出入りしろというのですか?」


 総一郎の言葉に被さる形で続けられたそのセリフはその場の空気を見事に凍らせたのである。



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