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異形、珍生物ときどきイロモノ


大変お待たせしました。

語部さんは響き合う、続編です。

 

「ネコ……ウサギみたいでキツネみたいなネコ……」


 そこからの総一郎はというと、美鈴と名乗った少女の言葉をうんうんと悩ましげにつぶやきながら帰路についていた。

 ウサギのような耳、キツネのようなしっぽ、けれど鳴き声はネコそのもの。

 そんなスフィンクスが問題に出してきそうな珍生物、普通だったら信じないどころか、からかっているのかと疑いさえしそうなものだが、


 ーでっ、でも! ほんとにウサギみたいでキツネみたいなんだ!ー


 その姿は小さなころの自分に、本当にそっくりだった。

 不器用なりにそれを伝えようとする必死さと、また否定されてしまうことの恐怖心がないまぜになったその姿は、妖怪のことを必死に周りの人に訴えていたころの自分そのままで。


「よし、やってみるか!」


 だからそんな美鈴に手を貸してやることに、半ば使命染みたものを感じているのかも知れない。

 家へ連絡がつながらなくなってしまった時から、手持無沙汰な手を埋めるだけだった携帯電話のカバーを開き、総一郎はとりあえず美鈴から聞けた単語を片っ端から検索して珍生物のことを調べ始めた。


 そうして総一郎の、ウサギみたいなキツネみたいな猫さがしが幕を開けたのである。

 だが。


「だっめだー……」


 しばらくすれば案の定。昨日響と出会ったあの川のほとりで、苦々しい声を出しながらうなだれる総一郎の姿があった。

 ウサギみたいなキツネみたいなネコ、0件。

 迷いネコ、ウサギ、キツネのしっぽ、0件。

 ネコ、ウサギ、キツネ、ひんやりしたところ、0件。

 検索を始めてから正味20分、やはりというかなんというか。美鈴が言うような生き物に関する情報は付近の目撃はおろか、そもそもどんな種類の猫であるかまで何一つとして存在しなかった。

 だれかが珍しがって写真の一つでも撮っていてもおかしくないと思っていたが、美鈴の言う通り相当警戒心が強いのか、もしくは。


「まさか……」


 妖怪。

 そんな単語が頭の中を駆け出し、人づてに聞いた言葉を次々に塗りつぶしていく。

 それは自分が知りうる中でそんな存在に最も近いものどもの総称。姿形はどれも千差万別かつ、奇々怪界。

 たしかにアレの内の一種ならばいくら検索を掛けようとも引っかかるはずはないし、当事者の美鈴以外に確かな目撃情報が存在しないのも合点がつく。


「いやいやいやいや、ありえないだろ……なんであの子が普通に見えてるんだよ」


 けれどそれはありえない事だ。

 ふと頭をよぎったそれを振り払うように、総一郎は首を横に振った。

 もしくだんのネコが妖怪だとするなら、自分のような見鬼でないとまともに見ることさえ叶わないはず。

 だのに美鈴ははっきりと特徴を言って見せた。ひどくたどたどしく、話した内容から姿を想像するのはかなり苦しいものがあるけれど、それでも毛並みや怪我など細かなところに至るまで言い切っていた。


「もしかしてあの子も、俺と同じ見鬼なのか? ……けど、そうだとしたら」


 それこそいなくなったことに、あんなにうろたえるだろうか。なまじそうであったとしても、誰かにそのことを伝えようと思えるだろうか。

 妖怪なんて、たとえ姿かたちを見たまま正確に誰かへ伝えられたとしても、ほとんどの場合で聞くだけ無駄になることくらいわかるだろうに。


「やっぱりありえないよなあ、こんな異常体質ほいほいといてたまるかって」


 聞いたことなかった生き物だから妖怪だと決めつけてしまうのはさすがに毒され過ぎだ。

 そうだ、きっとあの子が保護したのはとんでもなく珍しい種類の動物で、実際にはネコでもウサギでも何でもないけどみゃあと鳴くもんだから名義上ネコであると表現した。これだってかなり無理のある話だけれど、妖怪だなんだと世迷言を口にするよりよっぽど真っ当な筋書き足り得るだろう。

 とどのつまりどういう理由があるにしろ。


「情報が少なすぎるよなぁ……」


 美鈴から聞かされた話だけでは、この珍生物を探し出すのはとてもじゃないが無理だ。やっぱりもう少し詳しい話を誰かから聞き出して、協力してもらう必要がある。

 彼女はいい顔をしないかもだが、こうも手詰まりだとまともに調べることさえままならない。

 となればまずは――と思考の海からようやく上がった総一郎が一番最初に聞いた外界の音は、


「ういーーーーーっすう!! そーいちろーくーん!」


 という、ともすれば爆音にも思えるような、少女のけたたましい声だった。

 真横から急に飛び入ってきた音響兵器ばりの大音声(だいおんじょう)に気おされ、頭を上げた総一郎の意識は一気に現実へ引き戻される――どころか、勢い余って精神やら魂やらがどこかへぶっ飛ばされそうになり、体から押し出されそうなそれらを急いでひっこめる。


「花のDKが、こーんなとこでうなだれて悩み事かい? にひひー!」


 何事かと思って振り返れば、そこには酔っ払ったような口調で笑う、知り合いの姿。

 金色のボブカット、くりくりとした深い青色の目をした制服の娘を認めた瞬間、総一郎は苦々しいような顔つきで彼女の名を口にする。


「何やってるんですか、真由先輩」


 そんな顔で返された娘、打都宮(ウツノミヤ) 真由(マユ)は失礼千万とも思われる総一郎の態度に気にもとめず、また恥ずかしげな態度さえこれっぽっちも見せずに


「ふっふっふー!正義の味方の、ちょーっとしたヤボ用さ!」


 ただただ明るくはつらつと、そうのたまったのだった。

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