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千裕

作者: 深海乃月

初めての作品です。色々と至らない点はあると思いますが、できれば読んで、アドバイスを頂けたらと思います。

 高校受験が終わり、夢である小説家に一歩近づくために出掛けた日の事です。小説の題材を探すため、ただ毎日を生きていたって何も見つからないから、私は空いた日には必ず知らない町や川や山なんかに行きました。

 電車の座席に座ると隣のサラリーマンがペンを持ちながら何やら真剣にノートを見ていました。覗き見なんてしてはいけないと思うけれど、チラチラと目がいってしまうよね。彼は周りの目なんて気にしてないみたいなので、私はじっくり彼のノートを覗き見しちゃいました。



 日本、その中心となる関東のさらに中心の東京に僕は生まれた。同時に、冬の寒空の中で僕は独りになった。僕を見つけてくれたのは警察らしい。そしてその人は最初、自身の手で僕を育てようとしてくれた。しかしすぐに同僚に見つかり、僕は施設に送られることになってしまった。そして当然の如く、同じような境遇の子供達と共に育てられる事になった。

 それから、社会で言う小学生くらいの年までは何があったかよく覚えていないが、たいしたことは無かったと思う。僕は「みどり園」という狭い世界だけで育った。


 13歳か14歳の時に僕は園長先生に呼び出された。


 痛かった。気持ち悪かった。そして何より怖かった。優しく、僕の父親代わりの存在だった人は最低の人間だった。

 その後何度も何度も呼び出され同じような事をされ、させられた。日を重ねるごとにエスカレートする行為に恐怖した。けれど僕はアイツの前では泣かなかった。泣くと「オシオキ」と称したプレイを彼が始めることを体で知っていたので僕は無表情でいた。けれど、表面に変化を出さない分、精神はすぐに崩壊した。その精神を支えるのは、一人じゃ無理だったのだ。――今では、そう冷静に分析できる


 その日がいつだったかは覚えていない。けれどその日から「僕」は「僕達」になり、苦痛を分けた。そう、彼女が生まれた日だ。それから僕達は一日ずつ、交代しながら生きることになった。自分の一日が終わってから彼女の一日が終わるまで、僕は何の記憶も得られないが、彼女と話すことや一人で考え事をすることは出来た。「前」に出ている間、彼女は女なのに、男である僕を演じてくれた。


 一年程経つとアイツは違う子に目をつけたらしく、僕は呼ばれなくなった。アイツに呼び出され続けたおかげで友達がいなく、一人ぼっちだった。けれど、僕達は一人だけれど二人だった。

 「後ろ」にいる間、僕は彼女が何をしているかわからない。けれど彼女は僕に話しかけていてくれたし、僕も彼女と話し続けた。喧嘩なんてしたことがなかった。

 15歳になると、初めて異性というものを意識し出すようになった。そう、彼女は友達でも恋人でもないけれど僕の一番親しい異性だった。けれど僕達はそのことには触れないようにしていた、少なくとも僕はそうだった。

 そうしてモヤモヤとした時が流れ、17歳になった僕は就職活動を始めるということも兼ね、卒園する事になった。

 その日は彼女が「前」にいた


(ねぇ、ヒロ。起きてる?)

その日はチーが「前」にいる日だった。

(うん、仕事見つかったの?)

(違う。私の知らない人がヒロに用があるって)

(わかった。僕が「前」に出るよ)

 寝ている間以外で交代する。この瞬間はどうも好かない。痛いというわけでは無いのだが、心の中に比べて外の世界は安心感がない。その差を感じるのは嫌なものなのだ。

 あれ……誰このお爺さん、僕も知らない人だ。

「えー、大丈夫かね?」

 どうやら僕はあまりにも間の抜けた顔をしていたらしい。

「あっ、はい。えーっと、何の用でしたっけ」

 急いで表情を引き締める僕が言う。

「突然ですまないのう。わしは、君を見つけた者じゃ。引き取って育てようと思っていたんじゃが、未婚の人間では養子を取れないと言われ、君を手放さざるを得なかったんじゃ。」

 お爺さんは早口でまくし立てた。

「えっ、あっ、はい、あ、それは、ありがとうございました」

 突然の出来事に混乱して、何を口走っていたかわからない。

「それで、君さえよければなんじゃが……」

「はい?」

「わしの家で暮らさないかね」

「へっ?」

「すまんの、少し話を急ぎすぎたようじゃ。今、忙しいかね?」

「いえ、暇といえば暇ですが」

「なら、少し時間を頂くよ。ついてきておくれ」

「あ、ちょっと待ってもらえますか?」

 んー……怪しい人なんだが、悪い人では無さそうである。一人では決めかねて、目を瞑って相棒に相談を持ちかけることにした。

(なぁ)

(え?なに?)

(この知らないお爺さんが、僕らを引き取りたいって言ってる)

(えーっ!?)

(なんか、ついてきて欲しいって言うんだけどさ)

(いいんじゃない?)

 意外と、彼女の返事は軽かった。僕は園長に裏切られてからどうも人を信じるのが苦手だ。

(うーん、とりあえず行ってみるかぁ……)

「君、大丈夫かい?」

 お爺さんは心配そうに僕の顔を覗き込んでいた。

「んー、大丈夫です。お待たせしました。どこに行くのですか?」

「ワシの家じゃよ」

 その後はさほど会話もなく、みどり園から10分程度だというお爺さんの家に向かった。


 僕を拾った人がいることは知っていた。その人が僕を育てようとしてくれたことも。けれどもう僕の事なんて忘れていると思っていた。けれど彼はずっと僕が施設から出るのを待ってくれていたのだ。

 とても興奮していたこと以外、その後の事はあまり覚えていない。とにかく僕は、彼と暮らす事になった。法律上はただの他人。けれど僕らは家族になった。


(ねぇ、起きて!銭湯に行くって言ってるの)

 こんな風に、僕はチーに呼び出されたことがある。

(んー、寝てたのになんだよもー。行ってくれば良いじゃんか。おやすみ)

(バカ!……もー、私は「後ろ」に下がるからね)

 「前」と「後ろ」が変わるのは、「前」にいる方が変わろうとするか、一日が終わったと自覚する事らしい。「前」にいたチーによって強制的に「前」に出された。

(へ?何で?)


「おい、聞いてるか?早く準備しなさい」

父さんはビニール袋に風呂道具一式を持って僕に言った。

「あーうん、わかったよー」

状況から察するに風呂が壊れたらしかった。ちなみに、チーは男湯に入るのが嫌だったのだと気がつくのは10分後、銭湯に着いた時だった。


 そんな生活を僕ら3人は続けた。


 就職先も父さんが見つけてくれて、それに父さんはあの男のような僕が嫌がることを全くしなかった。そして日を重ねるごとに、父さんへの警戒が解け、信頼に変わって……家族という温かさを知った。それでも、チーの事は僕一人の秘密だった。いや、僕たち二人の秘密だった。そもそも彼女は父さんに馴染めないらしく、僕と父さんが仲良くなっていくことが不快なようでもあった。

 僕は、チーに男の振りをさせているのは嫌だった。けれどもそれ以上に、父さんに気が狂っていると思われたくなかった。父さんに嫌われたくなかった。それだけが怖くて、言い出せずにいた。


 ある時、父さんは僕に通帳を渡した。お金の下ろし方、入れ方を教えてくれた。それからこれはチーが教わったんだけれど、生活用品の買い方から掃除機のかけ方なんてことも教えてくれた。

「わしは、決して金持ちではないがお前を養うくらいたいしたことないわ。だから出て行ったりはしないでくれよ」

と、よく言われた。僕は本当の孤独というものをこのときはまだ知らなかった。きっと父さんはそれまで孤独だったのだ。


 普段は僕は父さんには褒められることはあっても、叱られることは殆ど無かったのだが

「ふざけるな!」

と怒鳴られたことが一回だけあった。僕達の存在が父さんの負担になっていることを知ってこっそりバイトを始めた時だ。それが発覚した時に父さんは一回だけ怒った。本当に怖かった。

「どうして、バイトなんか始めたんだ」

「あの、えっと……」

「早く答えんか!」

「僕、大学に行きたくって、それで……」

 必死に考えた言い訳だった。工場勤めに不満もなければ、勉強したいなんて思ってもいなかった。けれどそれを聞いた父さんは涙を流した。僕はどうすれば良いかわからなくって、オロオロしていた。1分、いや10分だったかもしれない、1時間かもしれない。時間が経ったあと、寝るように言われ僕は布団に入った。嘘を吐いたこと、初めて父さんが怒ったり、涙したりした事が気になり、眠れなかった。

「もう寝たかな。私が不甲斐無いせいで、すまない。」

 僕が寝たと思っていたのか、それともまだ寝ていない僕に言ったのかは定かではなかったが。父さんの嘆きを聞いてしまった。言葉に込められた父さんの思いを感じた。それなのに僕は……


 翌日の夜、布団の上に何冊かの参考書が置いてあった。さらに次の日から小遣いをもらった。

「本でも、遊ぶものでも、何でもいい。自分の好きなものに使いなさい。」

 ……ごめんなさい父さん。僕は遊ぶという事を覚えてしまいました。工場で友達が出来て、その友達から違う人との付き合いも始まって……


 友達が出来て、居場所が増えた。ゲーセンで、ファミレスで、公園で、色々な場所で友達と過ごした。その代わりに父さんのお金を浪費しているという事なんて、考えもしなかった。小遣いを増やしてもらいたいとか、家に居たくないとか、もっと派手に遊びたいとか思っていて、父さんに貰った本は一冊も読んでいなかった。

 丁度その頃から僕はチーと疎遠になり始めた。お互いを嫌う訳でもなければ、他の誰かに恋をしたって訳でもなかったが、それまでに比べて僕はチーに依存しなくなった。そんな中、悲劇が起こった。


 冬の寒い朝、父さんに起こされる前に目覚めたのは久しぶりだった。自分から起きる朝というのは気分の良いものだなぁと感じながら、パンをトースターに入れて顔を洗い、父さんに声を掛けた。正確には「掛けようとした」。

 父さんはいなかった。僕は確か1ヶ月ぶりにチーに話しかけることにした。

(チー、父さんがいないんだけれど何か知らないか?)

(ううん、昨日は私が寝るまで居間にいたよ。)

(んー、どっか出かけたのかなぁ?)


 だが、秒針が何周しても、分針すら何周かしても、それでも父さんは帰ってこなかった。あと一分経つまでに帰ってくる。あと一分……あと一分……そうして、一時間ほど経った時だった、僕が事実を把握したのは。


(チー、どうしよう。父さんがまだ帰ってこない。何かあったのかもしれない)

 もっと支離滅裂な事も言った気がするが、よく覚えていない。

(ヒロ、落ち着いて。まず父さんの知り合いに連絡するのよ。)

(う、うん。わかったよ)


 彼女は僕にほぼ完璧な指示を出し、僕はそれに従った。久しぶりに彼女を頼った気がした。

 気付くと夜になっていた。寒そうな僕を心配して父さんの知り合いの警察官の一人が

「千裕君、あとはもう私に任せて家で待っていなさい。私が必ず父さんを探し出す」

と言った。


 家の中でふと、「チーは冷静だったな」と思った。それを、チーの凄さだと思った。


 翌日、報告を受けた。

「残念だがこれだけ探してもいない上に、寒空の中一日経ったとなると、絶望的です。」

 僕は前日に無責任な「必ず」なんて発言をしたその人に殴りかかった。そしてすぐに泣き崩れた。ずっと、ずっとずっと泣いた。

 一週間、二週間、三週間と、ずっと僕はチーに「前」に出てもらっていた。何もする気が起きなかった。一ヶ月経っても、半年経っても僕はその悲しみから抜け出せなかった。けれど僕には、チーにすら秘密のやるべき事が一つあった。そのために、僕は悲しみから抜け出したフリをした。


 父さんがいなくなって一年が経過し、僕は少しずつ父さんの事を忘れ始めている自分に気がついた。同時に、またチーに依存しはじめたという事にも気付いた。僕らはまた心の中で会話しながら毎日を過ごす事になった。そして僕等は父さんの知り合いの警官に頼んで、警察になることを決めた。僕の中では遥か昔に決まっていたのだけれども。



はぁ〜、長い!それになんだか陰鬱な感じで疲れてしまいました。私はちょっとノートから目を離して、ボーっとしていました。

 気がつくと隣の彼のノートのページがだいぶ進んでいたので焦って覗き見を再開しました。



 まず「日付がおかしい」と気付く。2月3日に僕は寝たから、次に起きるのは5日のはずだ。けれども、今は4日である。それにチーからの声も途絶えている。目を瞑り、意識を集中しチーを探る。けれど見つからない。でも、実はこんなことはこれまでにもあった。チーが寝続けていて、俺と交代せず、僕が二日連続で「前」にいることになってしまう。しかもチーは寝ているので応答はない。今日もそんな事だろうと見切りをつけることにする。

 目を開けて時計を見ると、遅刻確定まであと五分である。俺はとりあえず警察庁に向かうことにした。電車に乗ると優先席が空いていて、少し迷った後、眠かったので胸に入れたケータイの電源を落とし、そこに座った。少し疲れているなと思いつつ、そのまま寝る。

 起きた瞬間に電車のドアが開く、ドアの外を見ると見慣れた風景が広がっている。霞ヶ関駅って看板なんかもある。

「ドアが閉まります、ご注意下さい」

 ハッ、と慌てて外に飛び出す。危うく寝過ごすところだったが、ギリギリまで寝られた事はラッキーなのかもしれない。そんな事を考えながら乱れた衣類を整え、駅から出る。駅から1分もかからない職場というのは中々良いものである。

 人事課の退屈さは異常だ。隣の奴は携帯をいじっている。……携帯。そういえば電車の中で電源を落としたままだった。慌てて電源を入れ、新着メールを問い合わせる。

「新着メール 1/3件 受信中」

 この短時間で三件も来ているとは、モテるなぁ俺。一件目、はいメールマガジン。二件目、メールマガジン……三件目は自分から?あー、システム異常か何かだろうな。

 三件目のメールは、システム異常でもなんでもない。過去の俺の携帯から未来の俺の携帯へのメールだ。


 そういえば、過去から未来へ送るサービスとやらに、登録したっけ。あの時はまだ、チーとの関係も温かかった。過去から未来へのメール、即ち僕とチーの間でやり取り出来るメールを僕らはいつから、使わなくなったのだろうかな。


件名『チーより、ヒロへ』

「私はヒロに一つ、隠し事をしてた。きっとそれを知ったらヒロは私の事を大嫌いになると思うの。だから、私を憎むヒロを見たくないから、私はいなくなることにした。きっとこれを読んでいるときには私はもういないと思う。前にお守りを渡したよね?あれに全部書いてあるから、読んでね。本当に、ごめんね。」


 隠し事?なんだろうか。けど今……そのお守りは、持っていない。


 チーは俺でもある。そう、すぐに気付いただろう。お守りを貰ったその日にどこかにやってしまった事を。俺の中での無意識の優先順位を。それでもこんなメールをするという事は…

「すみません、母が危篤らしいので、今日は帰っても良いですか?」

「ん?あー本当かは知らんがいいよ、どうせ人事課なんて暇なだけだ」

先輩に嘘を吐くのはどうか、なんて気にしていられない。

「有難う御座いま」

 言い切るより先に走り出す。会社の最寄り駅「田町駅」に着き改札を通ると、丁度電車が来ている。周囲の目も気にせず乗り込む。この電車は急行だから30分程で〜に着くはずだ。

 電車の窓から外を見ていると、疾走感がある。自分の人生も疾走と呼べるものならいいのに、と思っていると自分と平行して走る黄緑の電車がいることに気付く。その列車は俺の少し後をついてくる様に走っていた。俺の乗る電車が駅に止まれば、その列車も止まる。なんだかそれが少し滑稽である。けれど「田端駅」を出発した俺の電車の隣には何も無かった。あの電車は別の方向に分かれてしまい、見えないくらい小さくなっていた。なんとなく、その出来事がとても虚しく感じる。さらにしばらく経つとまた別の線路達が集まりだして、「まもなく、池袋、池袋」と車内アナウンスが流れる。俺は、集まりだした線路の中に、さっき分かれてしまった線路があればいいのにと思う。

 駅に着く。ドアが開き、電車を降りた瞬間に地面を蹴る。電車に乗っていた誰よりも早く階段を駆け上がり、改札を抜ける。

 家まで5分で着いた。息を切らしてお守りを探し出し、開ける。中身を取り出すと、小さく折り畳まれた紙なので、それを広げる。片面は小さい文字で文章が書かれており、もう片面にはかなり大きな、けれど震えた文字で驚くべき事が書いてあった。


「父さんを殺したのは、私です」


 ドクン、と誰かの心音が聞こえた気がする。急いで裏面の文を読み始める。聞こえる心音が、大きくなっていく。


「私が父さんを殺したのは、ヒロを父さんにとられてしまうと思ったから。今では後悔してるし、反省してる。けれどきっとヒロは私を許せない。私は知っているんだ、ヒロが復讐のために警察になって、今でもあの日のことを密かに調べてるってこと。本当にごめんなさい」

 およそ半分まで読んで、自分の手を見つめる。何だって。そんなこと、あるはずがない。この手紙が嘘でないならこの手が、僕の身体が父さんを殺したのか。この手が……いや、知っていた。薄々知っていたかもしれない。もう、よくわからない。

「私は言い出そうと思っていた。けれど、ヒロに嫌われる事が怖かった。そしてそれよりも、ヒロに追い出されるのが怖かった」

「もしこのことを知ってヒロが私を憎んで、私を追い出そうとすれば、私はいなくなると思う。でも、それはとても怖いことだよ。当たり前のように来ていた『明日』が急に来なくなってしまう。私はそのことに気付くことすら出来ず消えてしまう。それはとっても怖い事だよ」

「私は、私がヒロから離れる方法を探したの。消えないで、なおかつヒロから離れる方法を。これをヒロが読んでる時には、私はもうヒロの中にはいない。けれど、また会えます。そう、私を許せなければ、私にもう一度会って復讐しても良い。許せるならば、その時はまた一緒に過ごしたいの。今から十五年間、少し落ち着いて考えて欲しいの。今から新しい命として生きて、十五年後にはそこで貴方と出会えるはずだから」


そして最後に小さな文字で一文が付け加えられていた。


「十五年後、私の生まれた場所に来てください。私は、あなたが好きです。大好きです。次に会える私は、あなたの事がわからないだろうけれど、」


 俺は、チーのおかげでこの人生を歩めたと思っている。それに関してとても感謝している。それにチーのことは、異性としても好きだ。チーは俺に不可欠な存在だし、チーも俺を必要としてくれているらしい。

「なんだよ急に、訳わかんねえよ」

 けれど、この感情は何なんだろうか。俺はチーに会いたいのだろうか。問いただしたいのか。抱きしめたいのか。復讐したいのか。愛したいのか。もう自分が何をしたいのかすら分からないけど、たった一つだけはっきり言える。俺は大切な何かをまた失った。



 彼は私よりも読むのが遅いらしく、ページをめくるのを待つ羽目になりましたが、中々上手な文章。彼の作った物語でしょうか。でもちょっと現実味が足りないかなー。

 私が読み終わって10秒ほど経ってから彼はパタンとノートを閉じて立ち上がり、窓の外を眺め始めました。出かけた直後から面白いものを読めて、ラッキーだったなぁなんて考えていると、彼がまた隣に座りました。今度は何か書き込んでいる様子。


「2月4日:今から丁度15年前に見かけたあの2つの線路のように、いつからか僕ら二人の心は分かれてしまっていたのかもしれない」


 その文を読んだ私は、いえ、私の心は何故だかわからないけれど凄く悲しい気持ちになってしまい、フラフラと次の駅で降りました。そのまま歩いていると、そこに着いたのです。その存在を知った私は急にめまいを覚えて意識を失い、その日は通りすがりのおばさんに助けてもらって帰宅しました。



 後で調べたんですけど、この男の人のノートに出てくる電車は山手線と京浜東北線という二つの電車の事みたいです。

 その二つの電車は分かれてしまったあと、山手線っていう電車はグルグル回る電車なので、1周してまた同じ所に来るんです。でもね、その時はもうかつての京浜東北線の電車はずっとずっと先に行ってしまっているんですって。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 最後の段落の文が切なくていいですね。 二人はもう逢えないのでしょうか。
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