三章 ➃え?悪いのって俺?
「お〜、やっとウルカル山脈が見えてきましたよ〜」
部屋に積み上げられた大量の食べ物をやっとの事で全てしまい終えて、俺たちはもうすぐウルカル山脈に差し掛かるというところまで来ていた
「やっと魔界の入り口まで来たわね」
「あ、足がしびれてしまいました」
「正座なんかしてるからですよ〜」
「でもお前は全然しびれてないよな?」
「私はやり慣れてますからね〜」
「皆さん少しは緊張感を持ったらどうですか?」
いつも通りのたわいない会話に、慣れてないヴィヴィがツッコミを入れてくる
でも緊張感って言われてもなぁ?
「俺がいれば何とかなるだろ?」
「コイツがいれば何とかなるでしょ?」
「勇者様がいれば何とかなりますよ〜」
「ケンイチさんがいれば何とかなります」
「……あなた達は何で戦力がそんなに集中しているんですか?」
ヴィヴィが俺たちの発言に呆れたようにため息をついた
「もう少し、みんなで協力して戦うとか出来ないんですか?」
「いや、できないことはないけど…」
「でも正直、勇者様一人で敵を殲滅できますし…」
「け、ケンイチさんの魔法の範囲が広すぎて巻き添えをくらいかねないと言いますか…」
「まぁ、個人で戦った方が強いわよね?」
チームプレイというのは、もともとお互いの足りないところを補い合うためのものである、一人で全てできる場合は他のことを意識しなければならない分注意が他に逸れ、結果的に弱体化に繋がる
俺の場合はみんなに魔法が当たらないように魔法の位置を調節していたら、魔物に囲まれてタコ殴りといったところである
「というわけだ、俺たちは完全個人プレーってことで」
「……もう何も言いません」
ヴィヴィはこめかみを押さえ、呆れの混じった口調でそう呟いた
……だってそうだしなぁ?
ヒヒィン!ヒヒィン!
突然、馬が止まりその場から動こうとしなくなってしまった
「どうしたんだ!?」
「う、馬が怯えちゃって動こうとしないんです」
「じゃあここから歩くしかないわね」
えー!歩くのぉ!?絶対に歩きたくないんですけど!
それにしてもこの馬ともここでお別れか、このまま放置しておくのも勿体無いなぁ……、そうだ!
「この子はどうするんですか〜?」
「魔界には連れて行けないし…」
「いいことを思いついた!」
「ど、どんなことですか?」
「コイツを馬刺しにして食べようぜ!」
みんなの目線が『コイツ正気かよ』的な目線に変わった
え?なんで?だってこのままだったら魔物に食べられちゃうじゃん。それだったら俺たちが食べたほうがよくない?
「麓に馬車を預けられる場所がありますので、そこに預けましょう」
「えー、食べようぜー」
「そうね、そうしましょう」
「おーい、俺を無視するなー、泣いちゃうぞー」
「早く預けてさっさとこの山を登っちゃいましょ〜」
「……本当になくぞ?」
数分後…
女性陣が馬車を預けてきたらしく山脈へと続く道を歩き始めた
……俺を置いて
……俺が悪かったのかなぁ?
女性陣が完全に俺を無視しているこの状況の中、話しかけることもできず、4人の背中をとぼとぼと追いかけていった
またまた数時間後…
「…これではさすがに通れませんね」
「ど、どうしましょう」
山脈を歩き出して数時間が経過した頃、俺達の行き先を阻むようにして、大きな岩が立ちふさがっていた
「こんな時こそこいつがいるんでしょ?」
「ああ、うん、ソウダネ…」
「も〜、勇者様もそんなにいじけてないで早く進みましょうよ〜」
はいはい、わかりましたよ…どうせこれが終わったら無視されるんだ…
さっさと終わらせて後ろをついていけばいいんでしょ?
岩を壊すために必要な魔力を練り上げていく
「あ、もしかしてこれって…」
「俺の鬱憤と共にふっ飛べ!『万物破壊』!」
「ち、ちょっとま…」
ギィィィィィィィィィン!
岩を砕くと共に、甲高い耳障りな音と強烈な光が辺りに降り注ぎ、周りから地震と勘違いするほどの足音が聞こえ、魔物の大群がやってきた
「ちょっ!?どういうこと!?」
「あ、あれは鐘響石と言って魔物をおびき寄せるトラップに使われるようなものなんです!」
「なんでそんなものがこんなところに!?」
「勇者様〜!何やってるんですか!?」
「これは俺が悪いのか!?」
「ああ、もう!いいから逃げるわよ!」
こうして俺たちは魔物達の地響きを背に、全速力で山道を駆け上がった




