三章 ③人員増加と空気な俺
「というわけで新しい仲間が増えました〜」
「フラウ=ヴィヴィアンです。よろしくお願いします」
みんなの待っている宿屋に帰った俺とヴィヴィはいきさつを話しているしている最中だった
え?なんでヴィヴィって呼び捨てにしているか?
だってフルネームで呼んだらすげぇ怖い笑顔で返してきたし…
全く目が笑ってなかった…、何がダメだったんだろう…?
「それで?ヴィヴィアンさんをエサに魔王討伐を了承しちゃったわけね…」
「いや、ちがうよ!?それだと俺が女性にだらしないダメな男みたいじゃん!話聞いてたの!?」
「ま、間違っていないような…」
「そんな勇者様もステキです〜」
…俺はみんなの中でそんな評価だったのか、解せぬ
「それにしてもヴィヴィアンさんって、あの…その…胸が…はぁ…」
リリが自分の胸とヴィヴィの胸を見比べてため息をついた
ヴィヴィの胸は一般的な視点から見ても大きい。そんなたわわに実った果実とまな板を比べるのは酷というものだろう
「…今、あんたの首を猛烈に締めてやりたくなったんだけど?」
「…まだ何も言ってないぞ?」
「“まだ”?」
「あ、やべっ!口がすべっ…」
ドスゥッ
鋭い殺気を感じベッドから飛び退ると、俺がもともと座っていたところに長剣が深々と突き刺さっていた
「危ねぇな!ベッドが壊れたらどうするんだよ!」
「自分よりもベッドの方を気にするのもどうかと思うのですが…」
多分刺されても死なないしな
まぁ死なないだけで痛みはきっちりとあるからさすがに避けるがな
「…ったく、仮にも国王からもらった国宝を勇者を刺すために使うかね普通」
リリが持っている長剣は特別なものでアダマンタイトを筆頭とした12種類の金属によって構築されており、魔力電導率が極めて高く、よほど変な使い方をしない限り壊れない仕様になっている
「仕方ないじゃない!今使えるものがコレしかなかったんだから!」
まず俺を刺すという選択肢を消していただきたい
「…まぁいいや、で、どうやって魔界に行くかだな。俺は行きたくないから王都に残るとして…」
「行くとしたらウルカル山脈を超えていかなきゃならないわね」
「で、でもウルカル山脈って魔物が多いことで有名じゃ…」
「見つかる前に走り抜ければいいんじゃないですか〜?」
「それが出来るのは貴方だけじゃないんですか?」
うん、せめていない事にするのはやめて、泣くぞ?
さりげなくヴィヴィも俺がいないものとして扱ってるし…
「さ、流石に可哀想になってきました…」
「いいのよ、あいつにはこれぐらいで」
「あ、勇者様がふて寝してます〜」
「こういう扱いでいいんですね?」
俺の扱いがどんどんひどくなっていく…
「で、どうやっていくつもりなの?」
「あ、『位相変更』を使えばいいんじゃないですか〜?」
「あー、あれは一回行ったところじゃないと使えないんだ」
「ど、どうしましょう?」
手詰まりだな〜、これじゃ魔王討伐に行けないなぁ〜、まぁ仕方がないよな〜
「いや、普通に馬車でいけばいいじゃないですか」
「「「「え?」」」」
「そうよ!それがあったじゃない!」
「なんで気がつかなかったんでしょうね〜?」
「も、盲点でした…」
ああ!くそっ!あのまま議論を長引かせておけば、このまま宿屋でのハーレムが達成できたのに!
「い、いや!せっかくの馬車をこんなところで消耗させるのは…」
「馬車ってそういう為にあるんでしょ?」
ぐっ!言い返せない…
「じゃあ準備は整ってるし、すぐに出発しましょう」
おい!ちょっと待て!
「なんでもう出発する準備が整ってるんだよ!?」
「だって元々王都は離れる予定だったし」
え?マジで?俺、もっとダラダラする予定だったから賞味期限考えずに食べ物買いまくっちゃったよ?
「あんた『万物収納』がつかえるでしょ?」
「…あれは魔力消費がでかいんだよ」
『万物収納』は“なんでも”“無制限に”中に入れることができるが、取り出すときに体積に比例して消費魔力量が増えていく
正直使いたくない
「じゃ、私たちは馬車の中で待っとくからね」
「早く来てくださいよ〜」
「い、急いでくださいね」
「早くしてください」
そう言って女性陣は部屋から出て行ってしまった
…これ全部俺一人で詰め込むの?
調子に乗って買いすぎてしまった食べ物の山を前にして俺は一人途方にくれるのだった




