連載になるかもしれない、ネタ。10
何がどうしてこうなった。
ないわ~。
ホントないわ~。
目の前に現れた優しげな風貌の青年を見たとき、一気に記憶が溢れた。
キラキラと輝く虹色の髪と瞳の、美しい少女。
ルビーのような真紅の髪と瞳の、双子の少年。
そして、エメラルドのような緑色の髪と瞳の、青年。
あぁ、ココは私の愛する乙ゲーの世界だわ、と。
人気の絵師と豪華声優陣によるフルボイス。
攻略対象者はライバルキャラの側仕え。
ライバルキャラとの好感度がMAXの状態から攻略していくという鬼仕様。
そんな、一風変わった設定が人気だったこのゲーム『jewel box ~貴女だけの貴石~』は、私がこよなく愛した女性向け恋愛シュミレーションゲームである。
そんな世界に生きている、と気づいたのは一年ほど前の事。
隠しキャラである隣国の王太子が、外遊と言う名の外交で挨拶に訪れた時だ。
ライバルキャラの姉、第一王女と共に受けた挨拶に、私の記憶は溢れた。
自分がどこの誰だかはまったく思い出せないが、このゲームの内容だけは鮮やかに蘇った。
もちろん、攻略者たちの攻略方法も。
ハイスペックな第一王女を蹴落として、王位に就くのがこのゲームの最終目標。
王位に就く為には、第一王女の側仕えたちを味方に引き入れる必要がある。
攻略者は七人、内二人が隠しキャラ。
家令と、侍従と、双子騎士と、宰相補佐、後は公爵と隣国の王太子。
主人公の成人の儀終了からゲーム開始で、期間は約一年。
第一王女と王位を競って、あらゆる試練をクリアしつつ攻略者たちを魅了していく。
エンドは四種類。
王位に就くためには、最低三人を攻略しなくてはいけない。
その中で一番好感度の高かったキャラとハッピーエンドを迎える、恋愛エンド。
恋愛エンドには入らず、ただの臣下で止まる通常エンド。
攻略に失敗すれば、王女の身分を剥奪されて平民に落とされるバッドエンド。
そして、全員を魅了する逆ハーエンド。
そう、このゲームには逆ハーが存在するのだ。
一気に溢れた記憶で、私は高熱を出した。
二日間続いた高熱のせいで、今までの第二王女としての記憶は無くなったけど、何の問題も無かった。
だって、ココは私が主人公の世界。
イケメンたちを魅了して、王位に就くことは決定している。
なら、今までの記憶は無くてもいいわ。
せっかくゲーム開始よりも早く思い出したんだから、今から少しでも攻略者たちと仲良くなろう、と行動を起こした。
もちろん、狙うのは逆ハーエンド!!
イケメンたちに愛されて私は女王になるわ!!
まずは、挨拶の途中で気を失ってしまった隣国の王太子に挨拶、と部屋に向かえば、そこには公爵と第一王女が三人でお茶をしていた。
そこに混ざって、しっかりアピール!
訓練中の双子騎士には、差し入れを持って行ってアピール!
多忙な宰相補佐には、身体を気遣ってアピール!
第一王女の部屋に遊びに行きつつ、家令や侍従にアピール!
姿を見かければ声をかけて、私の可愛さを印象付ける!
国王や王妃にもしっかりと可愛い私を売り込んで、ゲーム開始を首を長くして待っているの。
「あ、おとうさまぁ~」
ゲーム開始の10日前。
オープニングスチル回収の大切な日。
中庭でお茶話をしている第一王女を横目に、花と戯れる可愛い私。
そこに通りかかった国王へと駆けだして、思いっきり抱き着く!
可愛い娘に抱き着かれて、嬉しそうに微笑む国王のスチルが手に入ったはず!
「ごきげんよう、陛下」
な・の・に!
わたしの邪魔をする第一王女。
おかしいわ、こんなスチルはなかったのに。
「そなたは真に美しくも賢い。そなたが王位に就けば、皆安泰。さすがは我が自慢の姫」
そのうえ、本来なら王位を巡って対決するハズなのに、次期は既に相一王女に決まっているらしいし。
3年前、第一王女の成人の儀終了と同時に、正式に肯綮に指名されたって!
ソレを知った時には怒り狂ったわ。
でも、よくよく考えれば、ゲーム開始は私の成人の儀終了。
きっと、ソコで主人公補正がかかるのよね、と納得。
それまでは可愛い妹で居てあげるわ。
しょせん、第一王女に勝ち目はないんだから!
国王が第一王女の髪にキスをして、去っていく。
スチルではアップにしていたから髪を上げてきたけど、こんなことなら私も下ろしておけばよかったわ。
国王だって、私の髪にキスしたかったはずだもの!
「おねぇさま、わたし、お部屋に戻ります」
国王とのスチルは回収できたから、次は第一王女とお茶を飲むスチルの回収。
たしか、こう言えば引き留めてお茶を一緒に飲むはずよね。
「えぇ、しっかりお勉強なさいませ」
な・の・に!!
どーして引き留めないの!!
これじゃぁスチルが回収出来ないじゃない!!
別に第一王女とのスチルなんて必要ないけど、ソコには攻略者全員が揃ってるのよ。
外交官として隣国の王太子も居るのよ。
何で、第一王女がソコに座ってるの!!
そこは主人公である私の席よ!!
でも、まぁいいわ。
どうせ後10日もすれば主人公補正がかかるもの。
それまで楽しむといいわ。
部屋に戻って、成人の儀後のお披露目用のドレスを注文。
第一王女よりも豪華に! と言ったら、侍女に顔を顰められたわ。
いくら私のお披露目でも、地位も身分も第一王女の方が上だから、私が遠慮しなくちゃいけないんですって。
失礼しちゃう、私が主人公なのに!
ならば宝石は煌びやかにしたかったのだけど、ソレも付けるのが決まってるって。
私はピンクの珊瑚?
嫌よ、そんな地味なモノ!!
第一王女はオパールですって?!
七色に煌めく美しい宝石じゃないの。
何なのよ、間違ってるわ!!
どうしてすべてが上手くいかないのかしら。
でも、全部あと10日間の辛抱よね。
見てなさい、第一王女!!
私がアナタを隣国のヒヒジジイの所に送ってあげるわ!!!