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ミサンガ  作者: 空と雲
10/10

カードゲーム

バスの中で雨と会話できたオレ。

別に、こういうの予定されてなかったから、奇跡みたいで嬉しいとかそんな気分じゃないけど。

 宿舎に着いた。

 ここで1日目の予定をさらっと確認しておく。

【宿舎へ移動→設備確認→対戦校に顔合わせ→練習】


「それでは、今から今回お世話になる宿泊所の皆さんに挨拶に行きます。よそ見して歩かないように!」

『はーい』


 古い木造の建物だった。この鬱蒼うっそうとした森の中に存在することで、深い趣をかもし出している。

 なんというか、そうだな。森の一部みたいな。そんなイメージだ。


「今日から約3日の間お世話になります。よろしくおねがいします」

『よろしくお願いします!』


 一通り中の設備を見てまわった後、オレ達は部屋のあるフロアに案内された。


「ここからあそこまでが女子部屋。その先がずっと男子部屋」

 先生が指し示す。

「でもね」

 立ち止まって振り向く。

「事前に決めてもらってた班があるじゃない? その部屋割だと、一部屋足りなくなっちゃうのよ。だからね、その辺は適当に考えて仲良くやってちょうだいな」


 「ええっ、そんな」という声が聞こえてくるかとも思われたが、そんなことは全くなかった。

「顔合わせの時間まで自由」と解散がかけられた時にはもう既に、みんなは自分の組みたい奴と一緒に部屋のカギを取りに行っていた。


「ちょい待てよ」

 ふいに、二年の先輩が女子の先輩を呼びとめた。

「なによ」

「お前らさ、まさか拓実&由里花ペアと一緒にダブルカップルで一部屋占領すんのか」

「ええ、そのつもりだけど。悪い?」

「悪いに決まってんだろ。もとはといえば、7人で構成されてたんだから」

「他のどこかで埋め合わせしてくれればいいじゃない」

「どこで埋めるんだ。最後まで責任もって決めろ!」


 先輩二人の口論がアツくなっていくのをオレら後輩はじっと見ていることしかできない。後輩ってのは時に酷なものだ。

 そうしているうちに先輩がふてくされたように言った。


「アタシには関係ないわ。……行きましょ」

「おい!! 逃げるな!」


 先輩は他の3人と共に部屋に入り、内側からカギをかけてしまったようだ。ついていった3人も3人だと思う。

 後に残されたオレ達のことはお構いなく、重苦しい空気を後に残して。


「まあ、あれだ。そう。もうこうなってしまった以上、部屋は適当に決めてくれ」


 副部長の先輩が投げやりな口調で言い放った。オレもそれでいいと思う。



 結局5人部屋となった。室員全てが一年生ということもあり、時間が経つほどに大体のメンバーとは仲良くなった。

 が、「みんな仲良く楽しく」というわけにはどうしてもいかないらしい。 どうしても引っかかる奴が1人いた。

 そう、恐らくあなたのご想像の通りだろう。


「わたしトランプ苦手なの」

「えーっ。いいじゃん、やろうよ」

「嫌よ」

「だって、桃沙がカードゲームしてるところ見たこと無いんだもん」

「そりゃあ無いでしょうね。学校生活にUNOだのトランプだのは必要がないもの」

「遠足のバスの中で呼びかけてもさ、全く興味なさそうだったしねー」

「でもさ、桃沙。だからって会話してる今、スマホやる意味って何?」

「ただの連絡よ。気にしないでゲームを続けて」

「気にするわよ。私達は今、ゲームを中断して貴女と話をしているのよ」

「わたしと話をして、何が楽しいの? ゲームの時間が減ってしまうから、わたしなんか放っておいて」

「私達との話を無視してまで確認したい連絡って何よ」

「あなた達には関係ないわ。本当に放っておいてよ」

「答えて」

「聞いても何も面白くないと思うわ。本当に……」

「いいから!」


 怒気のこもった声に気押されて、桃沙はとうとう吐いた。


「わたしの彼氏との連絡よ。悪い?」


 ……ああ、身体が痺れたみたいに熱くなってくる。

 もう言い訳はできない。


「へえーそうなの。貴女のカレって確か東方ひがしかた君だったっけ」

「そうよ。だから何なの?」

「いや、なんでもないわ。さ、ゲームを続きから始めましょ」


 そう、そうだ。そうなんだよ。結局そうなんだって。

 はは……馬鹿みたいだな。わかっていたはずなのに。

 抑えきれなくて、強がりたくて、それをうまく表現できずに動揺して。


「ハァ、オレは何をやってんだ」

「え? ちょ、水仙手札丸見え! ジョーカー持ってんじゃん!」

「あ、ああ。うん。アイツはジョーカーなんだよ。だってオレの……」


 オレのメンタルを強く揺さぶる。右に左に、振り回されて。


「アイツって誰よ。てかジョーカーって例えなんなの?」

「知らない。オレはもう抜ける」

「え――――! 水仙がいないと面白くないじゃない」

「そうなのか? ならもう少しやろうか」

「やったー!」


 手札に加えたハートのエース。すぐに引かれて消えてしまった。トランプの移動みたいに、オレの気持ちも一過性のものだったらすごくいいのに。

 すぐに消えてしまった大事なものよりも、いつまでも手札に残って誘い続けるもののほうが性質タチが悪い。


 オレの手札には、未だ二つのハートが並んでいる。

 どうしよう、このままだと。このままじゃ!


「ああ――もう!」

「水仙ー? さっきからどうしたのよ(笑)」


 難しく考えるのをやめて、オレはその二つのカードをつかむ手に、力を込めた。

 片方だけ? いいや、両方をいっぺんにだ。


「諦めんなよ。まだまだゲームはこれからだ!」

つづくよ。

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