X09:胎動
昨日の一件もあってか、睡眠時間を十分に取れなかった。
朝起床して昨日のことが夢であってくれと願っても、それが叶わないのが現実。
学校に登校しても、未だに大半の生徒が欠席をとり続けている。
今日は仁の姿も見えない。
「まさか……な……」
肩を落とし席に座った。
不意に翔太が視界の隅から現れる。
「なぁなぁ、昨日のキーナイ――――」
退屈な日常から一変、怒涛の人生を歩みかけようというのに、口からはあくびが出る。
緊張感がないのか、翔太の話がつまらないのかそれはわからない。
ただひとつ分かるのは、今日がまた始まるということだけ。
1時間目の数学が始まるが今日は問題集を解いてばかり。
同じ作業の繰り返しに、精神は参りそうだった。
「ねむてぇ……」
***
「あれ……ここは……」
気づくと辺りは闇に包まれていた。
周囲にクラスメイトの姿は無く、先程まで座っていた椅子も、机すら存在をけしていた。
「……見覚えがある――!」
「……ヒョッ!ヒョッ!ヒョッ!ヒョッ!……」
まただ……またあの笑い声がどこからともなく――!!
光の玉が遠くの闇からグッと、一気に顔へと近づく。
「……れし者……らべ…………の道か……生き……を……」
「何言ってんだよ! お前は何だ? 一体俺をどうしたいんだ!!」
思わず感情的に発言してしまう。
現状があまり飲み込めないのだから当然だ。
「……なく……お……の神力………にする力……れを……道……」
「――!! 今、神力がナントカって言ったよな!? 教えてくれよ!! それに道ってなんだ?」
問いかけもむなしく、光の玉は闇に消えた。
ただ信の頭に大きなノイズ音を残し。
「あぁぁあぁあぁあぁぁあ!!!!」
絶え間なく流れるノイズ。
思考することを拒ませる。
ノイズ音がピタリと止まる。
「……時間切れだ……」
聞き覚えのない声と共に意識が吹っ飛んだ。
***
「大丈夫か? 汗だくになるほどこの簡単な問題が解けんのか?」
数学の先生が目の前に立っている。
またあの夢を見ていたようだ。
でも、頭痛が残っているのはあれが現実だから?
考える隙もなく、辺りで笑い声が飛び交う。
クラス中が笑い声に包まれ、頭によく響く。
みんなの視線がこちらに注がれる。
「ヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロ!!!!!!」
自分でも何故こんなことを突然言ったのかは分からない。
ただ、どうにかしてたんだと思う。
皆は俺の言葉に驚いて笑うのをやめた。
……やめた? どうやらそうではないらしい。
皆が笑ったままの姿で硬直している。
不思議に思い外の方を見ると、グラウンドで運動していた生徒も止まっており、雲すら動いていない。
自分以外の時間が全て止まっている。
「まさか……俺がヤメロなんて、言ったから?」
もしかしてこれが、俺の本当の力……?
***
「ねぇミルク……私たちこれからどうなるのかな……?」
萩野とミルクは2人して公園でブランコを漕いでいた。
「本当にアイツを助ける意味があったのかな……?」
信の事を完全には信用出来ていない萩野。
神力使いであるなら普通、出来るはずであろう力の説明が出来ないのが不自然だからである。
「ミルクのお兄ちゃん……どこにいるんだろうね……」
不安を口から吐き出し、心を冷静に保とうとする萩野。
「……萩ねぇ……」
ミルクも声を掛けたいが、上手く言葉を発せられない。
「コラー萩野! 集合だぞ! しゅ・う・ご・う!」
萩野のクラスの担任が萩野を呼ぶ。
今日は萩野たちの住む周辺の学校での共同企画で、年齢関係なく遠足で地域の学校間の親睦を深めようという企画の元、このイベントが近くの運動公園で行われていた。
「うるさいなぁーもう! ……行こう? ミルク」
ミルクはコクンとうなずきブランコから飛び降りる。
萩野も立ち上がると、ミルクと手を繋いで集合場所へと進んだ。
しかし異変が周囲に蔓延する。
「……っえ?」
今まで動いていた人々がまるで停止ボタンを押されたかのように微動だにしない。
空を飛ぶ小鳥さえその場に留まったまま、飛び続けようとも落下しようともしない。
「……何が、起こるの……?」
なんともいえぬ恐怖が2人を襲った。
***
教室の扉が大きな音を立てて閉まる。
それと同時に開けてあった窓もバタン! と音を立てて閉まる。
開けようとするが開かない。
いや、扉自体に触れられない。
完全に閉じ込められた信。
何者かの手によって、意図的に。
再び頭にノイズ音が走り出した。
「あぁっぁぁああ!!」
『やぁ皆さん、始めまして。僕はゼウス。君たちの運命を握る者』
ノイズ音がやんだと思ったら次は頭に語りかける声。
『今から君達神力使いにはゲームに参加してもらいたい』
声は加工してあるようで人間の声ではない。
『参加資格があるのは神力を持つ者。この地球で新たな神力使いが誕生した場合、彼らにはこのゲームに強制的に参加してもらう』
「よく言うぜ、どうせ俺たちも強制参加なんだろ……?」
『どうやら分かっていない輩もいるようだ……君たちだけは強制参加ではない……ただ、このゲームに参加しないと死ぬことになるだけな?』
俺の声が届いた……のか?
目の前に2つの扉が出現した。
死神の模様が描かれた扉と、天使の模様が描かれた扉。
『ゲームはすでに始まっている! さぁ、1歩を踏み出せ!! 僕を楽しませろ!!!』
ゼウスの音声が途絶えた。
数秒間の間が空く。
途絶えたかと思ったゼウスの声が再び頭の中に響く。
『進め!!!』
「ったく、いちいち命令すんじゃねぇよ!」
とにかく事実上の強制参加だから、今は扉を選ぶしかない。
この2つの扉をくぐり抜けた先に何が待ち望んでいるのか、想像はできない。
ただ、選ぶべき道は決まっている。
「今からはじめればいいんだ……」
ひとつの扉を選択し、その扉を開いた。
俺は何も知らない。
あの闇の世界で出会う光の玉。
そして、正夢のような夢。
昔は毎晩のように見ていた悪夢。
不思議で異様で神憑り的な力、神力。
いろんなことを知らないまま、生きていくのは嫌だ。
だから、今から知ることをはじめればいい。
解き明かしていけばいい。
神力使いが集まるこのゲームに参加すれば、きっと。
「答えを見つけ出せる気がする――!」
ゼウスの策略にはまるのも尺だが、一歩を踏み出さなければ何も始まらないんだ!
信は扉の奥に消えていった。
***
数日前――
それはどこかの雑居ビルの一角。
「”蒼天”、”紅”、”漆黒”のメンバーは集まったか?」
白衣の男が3人の男に問う。
「蒼天はバッチC-!!」
やんちゃなこの男、チーム蒼天のリーダ、浜枝 鶏鳴。
「あぁ、決まってるよ……」
続いてクールなこの男はチーム漆黒のリーダ、飯井 舞。
「大体はな」
そして最後に、左目に眼帯を付けし男、チーム紅のリーダ、大山 気彌。
その答えに満足したのか白衣の男、アラガミと名乗る男は話を続けた。
「先日、”最初の”選択の儀式が行われた。私はそれに選ばれし者と接触した」
それぞれのチームリーダはアラガミの話を適当に聴いた。
「その彼に手を貸す事により私は彼と約束を結んだ。計画がうまくいくように……」
アラガミはフードをはずした。
「計画通り、明日ゲームが始まる。選ばれし者が我々を裏切るような真似があれば、我らアラガミが奴に手を下そう」
アラガミの後方の闇から同じように、白衣の者々が現れた。
「なぁに、お前らだけに仕事はさせないさ。神にかけて、な」
***
その夜。
チーム紅は集会を開いていた。
「さっきも言ったが、明日から計画が動き始める。仲間集めのノルマも大体終わってるが、この人数で動くのもリスクがある」
気彌が壇上に立ち、メンバーに語る。
「俺はいつものように、蛾裡と日向と動くことになるだろう。ほかのみんなもいつもと同じメンバーで動いてくれてかまわないが、センとメンバーを組んでいたのは……」
先日ターゲットの一人、神力使いに殺されたセンとチームを組んでいたメンバーを探す気彌。
「私らよ」
2人の女が手を上げて前に出る。
気彌は頷き、2人の顔を確認した。
「そうか、お前らは後で来い……他の仕事を任す。ついでに拓も来てくれ。では明日に備えて、解散!」
***
時はたち、翌日。
気彌、蛾裡、日向の目の前には天使と死神の扉が。
「気彌……センのメンバー、油井と御世にはどんな仕事を?」
気彌は日向の顔を見て笑った。
「あぁ、あいつらには復讐させてやるんだよ」
その発言に日向が気彌に飛び掛る。
「センがやられるほどだぞ!? そんなの無茶だ!!」
「あぁこれは無謀な賭け。あいつらアラガミを潰す為、その道を作る為の作戦」
蛾裡が日向を掴み、気彌の上から降ろす。
「どういうことだ? それになぜアラガミが関係する?」
「お前は知らなくていい」
そういい残すと、気彌は死神の扉の奥に消えていった。
***
『何もかもが思い通り…』
ゼウスは巨大な椅子に腰掛けていた。
『アラガミ達はいいとして、彼はどう動くかな……? ねぇ僕の……フフッ』
不敵な笑みが、部屋中に溢れかえった。
全ての神力使いは動き始めた。
ゲームに参加する者、参加しない者。
それぞれが己自信が選ぶ扉を開いていく。
ここから始まる。
神の中の神の名を語るゼウスの手によって。
星の運命をかけたゲームが……
ゼウス :不明
神力 :不明
発動条件:不明
補足 :神の中の神。
浜枝 鶏鳴:(男)不明
神力 :不明
発動条件 :不明
補足 :チーム蒼天のリーダ。やんちゃな性格。
飯井 舞:(男)不明
神力 :不明
発動条件:不明
補足 :チーム漆黒のリーダ。クールな性格。
アラガミ:集団
補足 :蒼天、紅、漆黒を統括する謎の組織。
皆、白衣を身に纏っている。
忌塚 拓:(男)不明
神力 :不明
発動条件:不明
補足 :情報収集が主な仕事。
紅では気彌の代わりに皆に指令を出すこともしばしば。
油井と御世:(女)不明
神力 :不明
発動条件 :不明
補足 :センと同じメンバーの2人。センの復讐の任を受けた。