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X08:瞬きの乙女と祝福の乙女

夏夜に凍てつくような風が吹き荒れる今日。

自然が何かを恐れるかのように暴れている。


そんな環境下、住宅街を散歩する2人の影。

「力有る者を見つけろ……」

右目に眼帯をつけた男はそうつぶやく。

「探すのに苦労すんのにな?」

何も答えようとしない男に向かって話し続けている眼帯の男。

その時、眼帯の男のポケットの中で何かが振動し始める。

ポケットに手を突っ込み、手にしたのは赤色の携帯。

「あい、俺だ」

知り合いからの電話らしく、相手は要件を簡潔に告げた。

「……本当なのか? 拓」

『まぁな、住所は今から言うぞ――』

年に似合わぬ会話をする眼帯の男と電話の向こうの拓という者。

「分かった、分かった。ノルマァ? 今から一人目だよ!」

眼帯の男は他愛のない会話を楽しんでいた。

「はいはい、すぐ現場を確認してくるわ」

携帯を閉じ再びポケットに戻す。

「今日は何人この世界から消えるんだろうな……?」

不適な笑い声を上げ、闇夜に2人は消えていった。



***



時同じく、九州のとある場所にて――


ここにもまた、夏夜の夜道を散歩する2人組み。

この地方は生暖かい風が吹いており、うっとおしいほどに湿気を感じる。

「今日はどこに行こうか?」

彼女は萩野ハギノ 由美。

県内の公立高校に通う16歳。

「……遠く……涼しい所?」

この子は花咲ハナサキ ミルク。

県内の小学校に通う12歳。

2人は姉妹のように仲良く時を過ごしていた。

「分かった、行くよ!!」

萩野はそう言うとミルクの肩を持ち、意識を集中させる。

「……涼しくて……遠い所――!!」

目をギュッと閉じ、そして開く。

その瞬間、目の前の光景は先ほどとは全く異なるものとなる。

凍てつく風が吹き荒れ、体に突き刺さる。

「ココ、どこだろうね……? ちょっと移動しようか」

そう言うと萩野は再び力を使う。

目を閉じ、先程のように意識を集中させる。


飛べ!


そう心に言い放った瞬間。

何か別の力に引っ張られるように思い描いた場所ではないところに辿り着く。


無残な姿の家が1軒。

「何、これ――!? 一体何が起こったら……えぇ!?」

風に煙が流され、横方向に移動していく。

「まさか……誰か神力使いに狙われてるのかな? でも、私たちには関係ないよね……?」

ミルクは萩野から離れ、爆破された家の壁面に手を当てる。

「――ケア――」

ミルクの発した言葉に呼応するが如く、爆破されていた家が緑色の光に包まれ、本来あるべき姿に戻った。

「助けよ……狙われている人を……」

決心したミルクの表情を見た萩野は肩を落とした。

「えぇー危険だよ? こんな攻撃的な力を持ってる奴に関わらない方がいいって!」

「……助ける……」

萩野はミルクに敵わない。

強さとかそういう意味ではなく、母性本能と彼女を傷つけたくないという思いから逆らえないのだ。

「分かったわよ……でも私って方向音痴だからな……」

文句をブツブツいいつつ力を使う。


目を開けると、そこには白い化け物と刀を持った青年が戦っていた。

「さっさと助けて帰る! ウン!! でもどっちを助ければいいんだろう……?」

「……アッチ……」

ミルクの肩を掴みつつ、指差す方向に上手く飛べるよう願い力を使う。

今日はついてるのか一発で行きたい所に飛べ、青年をおもむろに掴む。

同時に何か巨大な黒い球体が肩をかすめかけた。

しかし間一髪、先ほどミルクが修復した家の前に降り立つ。

「ねぇ、もしかして私たち……死ぬ所じゃなかった……?」

顔を青ざめているとミルクが萩野を抱きしめた。

「……生きてる……」

「そうよね、生きてたんだからそんなの気にしたってしょうがないよね!」

ミルクの頭を撫でてありがとうと言う萩野。


重たい青年を目の前の家の中にいれ、2階の彼のベットと思われる場所に寝かせる。

「悪い奴じゃない……よね?」

「あの人…………いい人」

「ミルクが言うならそうだよね」

そういいながら冷たいタオルを持って2人で彼を寝かした部屋に入ったときだった。

「――誰だ?」

突然起き上がった青年が2人を見つめて言い放った。

この時、萩野は猛烈にむかついた。



***



その町は活気に満ち溢れていた。

そびえたつビル。

人の声が絶えない通り。

子供たちが通う学校。

その町を抜けた所にある山の上に、大きな城が城下町を見下ろしていた。

その城の中心にあたる部屋に、1人の男がいる。

白衣に包まれた男は手に鍵を有している。

「鍵はそろった……とうとう……”ゼノス計画”が実行される……」

鍵を握り締めると光を放ち、手を開くと杖型の鍵となった。

「我等が待ちわびた歴史の、常識の、生命の崩壊!!」

鍵型の杖を地面に突き刺し90度回転させた。

すると突き刺した場所から黒煙が溢れんばかりに噴出し始める。

白衣の男は不適な笑い声を上げ、声だけを残し姿を消した。



***



見慣れた天井を見つめる。

記憶の混乱が収まらない。

呼吸が荒れる。

今のはなんだったんだ?

夢?

でも、あの町、あの城……どこか懐かしく感じた……

……! そうだ、昔見ていた悪夢!

あれはその悪夢の一部……

何でいまさら……


呼吸を整える為、目をつぶり深呼吸をする。

そして冷静さを取り戻すと現状を整理する為に重たいまぶたを持ち上げる。

「俺の部屋……」

何もなかったように元通りの家。

最初から夢だったのか……?

ドアの開く音に導かれ、そちら側を向く信。

しかしそこには見慣れぬ2人。

「――誰だ?」

布団を蹴り上げ身構えた。


同時に2人の内、背の高い方がこちらにパンチを1発顔面に浴びせてくれた。

反動で後ろの壁に頭をぶつける。

「ッブ!!! 何すんだよ!?」

「ムカついたから」

信の質問に即答する女。

「って、あれ? 俺……生きてる?」

後頭部をさすりながら、生きてることを実感した。


「そんなことより、お前ら……泥棒か!?」

背の高い方が再びパンチを浴びせようとしたが、小さな女の子が仲裁に入り、その場は何とか落ち着いた。


そして警戒心を解いた一同は床に座ると、女らが信に経緯を語りはじめた。



***



背の高い方が、萩野。

背の低い可愛い子がミルクちゃん。

そしてこの2人はあの戦闘から俺を救い出してくれて、この家も直したと……うんうん、そういうことだったのか。

「―――なるほどなるほど……って、お前らみたいな奴がどうやってあの場面から助けたんだよ! 俺を!!」

萩野は目をカッと見開く。

「どうやって? 決まってるじゃない! 神力よ、ジ・ン・リ・キ!!」

顔に何を言ってるのですかと表示させていると萩野は言葉をつけ足した。

「私の神力が、瞬間移動テレポートだから助けれたの! わかる!? このバカ!」

ここでも神力かよ……

それにしてもよくべらべらと人様の家で喋る女だな、この萩野って奴は。

「ちなみにミルクの神力は再生ケア。アンタの家が直ってるのもミルクのおかげなんだから感謝しなさいよね!」

「だからってお前が偉そうにすることはないだろ!」

再び萩野の拳が飛んでくる。

「……やめて……」

その言葉を聞いた途端、萩野は腕を降ろす。

「今のは水に流してあげる。それで、アンタの神力はなんなの? それと名前」

しぶしぶ答えることに。

本当はこんな得体の知れない2人に個人情報は言いたくないが、住所もばれてる訳だし雰囲気的にしょうがなく。

「名前は漸芽 信。神力は多分――斬鉄剣……かな?」

今までの経緯上、俺の神力ってのはこれなんだろう。

「かなぁ? かなぁあ!?」

コイツは俺をコケにしたいのか?

「自分の力も知らないで戦ってたの?」

「あぁそうだよ! そもそも神力って何だよ!!」

呆れられたのか一つため息をつかれた。

「無謀、あんたって本当に無謀で無能ね。神力ってのは書いて字のごとく神の力――つまり私達人間が通常使えるはずのない力のこと、かな?」

丁寧に紙の上にサラサラと書いて説明してくれる。

だがそれは俺が今日済ませなくてはいけない宿題のプリントの裏……

「この力は通常覚醒しなければ使えないの。最近のニュースでも理解しがたい事件が起こってるでしょ? それも神力使いの仕業」

あぁ、炎の柱とかビルが氷付けにされた奴ね。

納得。


「今全世界で神力使いが増えているらしいの……聞いた話では」

一体誰に聞いたんだよ。

しかし、話の最中の質問は却下らしいので質問することができない。

「今までにはこの地球上に神力使いは30人にも満たなかった。それが今じゃ1万に昇る異変状態で――」

話は長くなりそうだ……



***



段々話がマニアックに……

「結局神力ってのはなんなの?」

可哀想な子と思われているかのような眼差しが注がれた。

そんな俺の後ろでネットサーフィンをするミルクちゃんが恐ろしく見えた気がした。

なんて恐ろしい子なの! そう言いたくなったが、心の中で自分にツッコミして止めた。

けど勝手にネットサーフィンするのは良いが、ゴミ箱の中のフォルダだけはのぞくなよ……?


「まぁ、簡単な例を挙げてみれば……マジシャンの頂点に立つゼロとかかな?」

やっぱあいつそんな力持ってたのか……どうりで人間離れした技が使えるわけだ。


簡単に萩野の説明をまとめるとこういうことらしい。

まず第一に神力は誰でも持っているものだが、覚醒しないと使えない。

次に神力が使えるようになると、人間離れしたスキル等が使えるようになるらしい。


「ココまで何も知らないとはね。まさか……自分の神力の発動条件ぐらいは知ってるわよね?」

「んにゃ、全然知らない」

いやいやいやいや、どうやって知るっつーねん!

萩野さんもどうやってそこまで調べられたんですか!?

「普通覚醒の時とか、力を初めて使った時とかに頭の中に流れて来るんだよ!?」

「斬鉄剣の名前と、簡単な使い方ぐらいしか……」

その後イロイロ話してお開きとなった。


後々で分かったんだけど、神力の発動条件にはいろいろとあるらしい。

萩野の場合、永続的に方向音痴になる代わりに瞬間移動が使用可能らしく、ミルクちゃんの場合にいたっては、言葉の3分の2を永続的になくさなければいけないらしい。

つまり話せる言葉が少なく、言葉を選んで話さないといけない訳で、あんまり話すことが得意ではないらしい。

そして現状で俺の力の発動条件はまだ分からない。


そういえば萩野の奴に『助けたんだから、私達が危険な時は助けなさいよ!』って、無理矢理約束させられた。

まぁそりゃそうだろうな……あいつらが不利になる自分たちの力の説明まで丁寧にしてくれたんだから……

しかし今後のこともあるからまた会えるのはラッキーなんだけど、アンラッキーの割合が高そうだな……

なんでこんなことに巻き込まれちゃったのかな……


でも俺は生きていた。

あそこで死ぬはずだった俺が女子2人に助けられた……

どうなるんだよ、俺のプライド!

どうなるんだよ、俺の今後の人生!?

萩野 由美:(女)高校2年生

神力   :瞬間移動テレポート

      思い浮かべた場所に瞬間的に移動が可能。

発動条件 :永続的な方向音痴

補足   :ミルクの姉的存在。


花咲 ミルク:(女)小学6年生

神力    :ケア(再生)

       あらゆるものを再生することができる。

発動条件  :言葉の3分の2の永続的放棄。

補足    :萩野の妹的存在。過去、歴史に刻む事件の中心的人物であった。

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