X14:共存する2つの力
『鎌鼬!』
シックル・オブ・ザッ・ゴッド・デスの刃から放たれる風の刃が乱舞する。
「かまカマ鎌々……駄洒落しか言えないのかよ、死神は!」
信は火の弾を連射し応戦する。
『赤炎など、生温い……』
ネルガルの周囲に信の放った赤い炎が浮遊し動きを止められた。
さらに炎のコントロールが奪われたのか、ネルガルの腕の動きに呼応するが如く、周囲に規則的に並ぶ。
『蒼炎!』
赤い炎が青い炎へと変化し、ネルガルの周囲を旋回しだす。
『まだまだ……無炎!』
青い炎が一瞬にして消え去った。
消された火を気にしていてはしょうがない。
信は斬鉄剣に火を灯してネルガルに立ち向かった。
『無知は罪、罪には罰を!!』
ネルガルの不気味な笑い声が悪寒を誘う。
突然腕に強烈な痛みが走る。
これ以上近づくとさらに痛みが増すため一度距離を保つが左腕が酷く火傷を負っていた。
『地獄の業火に比べればまだまだマシだと言うのに……貧弱な人間よ……!』
「――――ッ!」
死神の掌で踊り続ける信。
刻一刻と死へのカウントダウンが刻まれていく。
***
走る走るどこまでも。
魔の手が届かぬどこまでも。
萩野とミルクは手を繋ぎ未知の世界を走り続けていた。
風壬からいったん離れ、ミルクのケアの神力により全快と言わずとも体力を取り戻した二人は、とにかく走り続けていた。
「ミルク大丈夫――?」
「……」
ミルクはコクンと頷き必死で萩野の後を追っていた。
ミルクがふと立ち止まる。
「――! ミルク……?」
萩野も走るのを止め、ミルクの元へと歩み寄る。
「もう走れない……?」
そう問う萩野にミルクはある方向を指差す。
「……アソコ……」
ミルクの指差す方向には泉が。
「あいつが来る気配もまだないし、一旦休憩にしようか」
泉で水分補給を済ませ、顔を洗う。
気持ちを一度リセットする為だ。
緊張というストレスが少し和らいだ為なのか、ミルクはトイレと言い残し草陰に潜っていった。
萩野はいつでも動けるように、周囲を警戒しながらミルクを待つ。
力は、なんとか使えそう……
けどやっぱり私の弱点は致命的……
意図した場所に飛べればミルクを危険な目に合わせずに済むのに――!
戦闘経験が浅い彼女らが今生きていることが奇跡。
だからこそ、そんな彼女に動く暇など与えず風壬が萩野に襲い掛かり動きを封じる。
なんせこの戦いは……生きるか死ぬかの生死を分けた戦いなのだから。
「そう易々と逃げられると思ったか? 俺と相性がいいこのジャングルの中でよ!?」
風壬は最初のときと同じように木の枝で萩野を縛り上げ、急速に体力を奪い取った。
しかし、急速に吸い取りすぎた為か、今まで走ってきた為なのか、風壬は心臓を押さえて息を整えようとする。
「もう一人の……ガキはどこに行った!?」
「教えないわよ……この、ゲス野郎!!」
この男が来たってことは信はやられたって事?
こんな体じゃミルクを守れることさえ出来ない……
せめて、あたしを捨ててミルクは遠くに逃げて!
ガサガサと草が揺れ動く。
「……やめて……」
「ミル……ク……!!」
頼むから逃げてほしいという眼差しを送るが、少女はそれを受け入れない。
「わざわざやってくるとは、待っていたよお嬢ちゃん……さぁ、続きを始めようか?」
少女は無視して風壬に迫る。
風壬は当然の如く体力奪いの神力、そして木を操る神力でか弱い少女を捕獲しようとした。
っが、おかしなことに少女は体力が減る様子が見えなければ、木を操ることが上手く出来ない。
それに先程から少女の背後には薄っすらと半透明な黒い何かが見える。
「逃げ……て……」
少女に対して攻撃が効かないのならばと、萩野に攻撃を仕掛ける。
「逃げ……て……!」
少女は頭に血が上り怒り狂う手前まで達していた。
しかし突然少女はその場に倒れこんでしまった。
「やっと体力奪いが効いたか? まだまだ未知の力だな、これは……」
萩野は震えていた。
絶望の表情を浮かべ。
「そんなに期待するなよ……痛くなくしてやるからよ……?」
風壬は萩野の拘束を四肢のみにし、己の下へ近づけさせた。
「お願い……」
「なんだ? 助けてってか?」
風壬は腹を抱えて笑った。
「お前にはもう人としての権利は無い。お前はもう俺のもの……あの子もお前をやったあ――――あぁ?」
少女が倒れている背後にそびえ立つ黒棺。
厳重に封印がされているらしく、鎖で縛り上げられ、幾つもの南京錠で鍵を持たぬ者を拒んでいる。
その中の一つの南京錠が解除され地面に転がり落ちた。
それに続き他の南京錠も解除されていく。
「一体いつの間に……誰の神力だ!?」
萩野に問うが涙声で同じ言葉を続けるのみ。
「お願いだから……逃げて……」
黒棺の錠が全て剥がれ落ち、棺の蓋が機械で制御されているかのように2つに別れ横方向に倒れた。
それと同時に上空から萩野の元へ光柱が降り注ぐ。
「――――! シーーーーーーーーン!!」
光に包まれた萩野は出しうる限りの声で叫んだ後、意識を無くした。
***
ネルガルは赤熱の地獄の業火を周囲に撒き散らした。
『逃げ場は無い……神を冒涜した罪を死で償え――!』
周囲を完全に炎に囲まれ正面からの戦闘を余儀なくされる。
「……ッ!」
体が燃え盛りそうになるぐらい熱い。
汗をかく暇など無い、発汗した瞬間に蒸発するからだ。
ネルガルが円を描きながら炎の内を旋回し、高度を上げ炎の幅を狭めていく。
『カッカ! 炎会・飲ミノ太刀!!』
旋回していた際に口の中に吸い込んでいた炎を一気に吐き出し、さらにシックル・オブ・ザッ・ゴッド・デスを投げつけ狭い戦いの舞台で乱舞させる。
『炎会・欲望ノ幻影!!』
信の視界から炎が消えた。
ネルガルの姿さえも。
「一体……」
辺りを見回すが何事も無かったかのような静寂。
だけどなんだろう、この胸のざわめきは……
敵がいなければここにいる必要はない。
萩野達を追うために歩みはじめた3歩目、遠くから萩野の声が。
「――――ッ!」
ふと視界に赤く染まった霧が広がる。
「――――っな!!」
信は轟々と燃え盛る地獄の業火に身を投じていた。
素早く戦いの舞台に舞い戻るが下半身は既に使い物にならず、それを意識した途端に信は崩れ落ちた。
『ホウホウ……どうやって現実に戻ったか分からぬが、しぶといな人間……』
どうやらネルガルが先程言っていた炎会・欲望ノ幻影とは幻を見せる技だったようだ。
あのまま進んでいたら知らないうちに前進を燃えカスにさせられていた。
ネルガルは鎌を高らかに上げ目を輝かせた。
『ここまで耐え忍んだ褒美だ……終炎・二日ノ宵――』
2つの鎌を叩き合わせ周囲に空気の波動を立たせる。
『雷神炎来!!』
天空から慟哭を轟かせ振り落ちる雷の塊。
瞬時にネルガルが上空に移動したかと思うと手を掲げた。
力の差が歴然過ぎる!
悲鳴をあげ、涙を流す猶予さえ与えてくれない。
行き場の無い怒りを拳に込め、やりきれない思いを地面を叩きつける。
力が足らない。
知識もない。
戦闘においての応用力も無い。
最初から運命は決まっていたんだ。
ただ、せめて……
せめて、あいつらだけは助けたかった……
思い入れなんてそんなにないし、何の感情も無いけど。
俺たちは仲間だったんだ。
期間が短くたって俺たちが仲間だったことに代わりは無いんだ。
俺たちは同じ道を同じ目標を同じ世界を同じ景色を同じリズムで同じ様にほんの少しでも過ごしていた……
だから同じ時を生きたあいつらには、ここで死ぬ俺の分まで生きて欲しいんだよ!!
血まみれになる手を地面に叩きつけると同時に、ネルガルも手を振り下ろした。
雷の塊は神速で地獄の業火に一閃を放った。
続けて雷が地獄の業火をランダム的に移動し攻撃対象者を狙い打とうとする。
さらに次の雷が続々と放たれさらに弾数が増える。
信は感覚さえなくなった手を尚も地面に叩きつけていた。
するとどういうことだろうか。
叩いていた地面が光だし、そこから一直線にネルガルの位置する上空と垂直に当たる地面に光が伸びた。
『まだ足掻くか?』
雷の弾が炎の中から飛び出し、信を襲う。
『――――ッヌオ!?』
刹那、地面から光が漏れ出し認知する前にネルガルを突き刺した。
それと同時に雷の弾は突如方向を変え、ネルガルを貫きだす。
『ヌゥオオオオォッォオオオオ!!!!』
まるで光が十字架のようになると、ネルガルは悲鳴を上げなくなった。
「生き残った……のか?」
ネルガルの目に再び光が宿る。
『人間よ――我をここまで侮辱するとは思わなんだ』
信は使えない足を引きずりながら後ずさった。
『そんなお前に敬意を表し、悠久の刻を生きた我の力を少しの間だけ貸してやろう……』
ネルガルの骨の体が十字架から剥がれ落ち、信の体に装着されていく。
するとどういうことか、火傷で使えなくなったはずの足が羽のように軽く、空を飛ぶように動くことが出来る。
「これなら――!」
何が起こっているのか理解する前に信は疾風の如くジャングルを駆けた。
仲間を守るため、仲間を失わない為、仲間を傷つけない為に。




