X10:再結合
最初は上手に理解できなかった。
この力の意味。
なんでこんな力を宿しているのか……
それは今も理解できていない。
そして今の現状。
先程2つの内一つの扉を選んで扉の奥へと進んだはずなのだ。
それなのに、何故俺は地上から遠く離れた場所にいるのだろうか。
眼下には緑が広がっており、どうやら何処かの森林地かジャングルであることが分かる。
体全体で風を感じ、空気を切り裂きながら停止もせず速度を上げて進む。
そう今まさにジャングルに向かって落下しているのだ。
「そうか……俺……死ぬのか……」
一応弱音を吐いてみる。
落ち込んで、走馬灯をみながら涙を流す。
だがそんな場合ではないのだ。
歯を食いしばって覚悟を決めた。
「まだ死ねるかっての!!」
腕を顔の前でクロスさせ、体全体を丸めて木々の枝から身を守る態勢に入る。
バキバキと枝の音が連鎖していき最後に鈍い音が付け加えられる。
「……助かった……?」
震える声でいい、笑いがこみ上げてきた。
木々がうっそうと生えていてくれていたお陰でそれがクッションとなり、落下の衝撃をやわらげてくれていた。
「それにしても、ここはどこだ……?」
立ち上がり、服についた枝葉を振り落としながら周囲を確認する。
上空では気づかなかったがどうやら普通のジャングルではないことが観察できる。
木よりも巨大なキノコ。
見たこともない形の木や花。
観察を進めていくと一つのある現実に辿り着く。
「地球じゃない……」
どこか別の世界……仮定でしかないが、ここは……地球じゃない。
「でもこんなの何処かで――!?」
信の言葉を遮るように脳に直接語りける声。
『勇気を持って扉の奥へと進んだ諸君、敬意に値するよ。そしてよくこのゲームに参加してくれた。』
パチパチと寂しいゼウスの拍手が聞こえてくる。
『まずはこのファーストゲームのルール説明だ』
寂しい拍手が止むと、ゼウスの声の口調が変わった。
『今君達の服のどこかに金か銀……どちらかの鍵を忍び込ませてある』
体中を探ると、ズボンの右ポケットから銀の鍵が出てきた。
『それは重要なキーアイテムだ、無くさないように。さて、皆さんはお気づきの通り、ここは地球ではない』
やっぱり……
『ここでは本来あるべき常識が通用しない! 逸脱した非常識な弱肉強食のジャングル!!』
「――――!?」
弱肉強食のジャングル!?
凶暴な生き物がいるってことか!?
『ただ、このファーストステージがクリアされるまでは、このジャングルに住む凶暴な生き物達は手出しができないようにしてある』
つまり、どういう意味だ――?
『このゲームにはクリアできる人数が決められている。定員に入れなかったものは……一生ここで過ごすことになる……』
そういうことか……地球での死を選んどけばよかったか?
『そして、重要なクリアの条件。それは……』
息を飲んでゼウスの言葉を一句一語聞き逃さないよう耳を立てる。
頭に直接語りかけているのだから、正確には妙な事を考えず頭にすんなり言葉が入ってくるようにしているというべきか。
『金と銀の鍵を揃え、その鍵でこのジャングルのどこかに設置してある、扉の向こう側に行くこと』
「やばい……」
今の手持ちは銀の鍵。
このゲームを勝ち進むためには残りの金の鍵と、扉を見つけ出すことが必要不可欠。
金の鍵を手に入れるためには、他の参加者から奪うしかない。
ただ奪う、奪われるなら優しいものだろ。
ただ、このゲームの参加者は神力使いのみ。
軽い怪我で済めばいいんだけどな……
『尚、扉には有効回数が設定してある。1つの扉で1人しか入れないものや、複数は入れる扉。そしてその肝心の扉の数は全員分はない!」
全員分なし!?
確実に誰かが死んでいくゲームだと!
『時間制限はなし! さぁ、地球に帰りたい者は戦え!! 俺をもっと楽しませろ!!!』
大体のルールは分かった。
とにかく、まずは金の鍵を手に入れること。
それからだ。
金の鍵を探すべく、1歩を歩み始めたその時、空から降ってきた何かに押しつぶされた。
敵か――――!!
そう思い、後ろの敵を投げ払おうとすると足をつかまれ身動きが取れなくなった。
バッと後ろを振り返ると、そこには昨日お世話になった2人。
神力使いの萩野とミルクちゃん。
「絶対わざとだよな……? わざと……」
「それよりも今、私たちに攻撃しようとした……?」
暴れる右手の気持ちを押し殺し、今の気持ちを涙に変えた。
「先行き不安だぁ~」
***
涙を拭き、なぜ俺の上に2人が落ちてきたのか経緯を聞いた。
どうやら俺を探していたらしいが……!!
こいつら、鍵目当てか!?
そう考えていると2人とも鍵を見せてくれた。
どちらとも銀色の鍵……ヨカッタ。
どうやら2人とも攻撃系の神力ではないから、俺に守ってもらうために探していたらしい。
断ることができない。
だって昨日この2人を守るって強制的に約束させられたからだ。
苦労は増えるのみ……か。
再びゼウスの声が頭に響く。
『言い忘れていることがあった。このゲームには全てのゲームにおいて共通のルールが制定されてある』
3人で顔を見合わせ、話に聞き入る。
『神力使いを戦闘において気絶、死亡させた場合、相手が持つ本来の神力を強制的に得ることができる。もちろん気絶、死亡させられた神力使いはその力を失うことになるが』
このルールでは、嫌がおうにも同じ銀の鍵を持ってる同士でも狙われかねないって事になるのかよ。
『つまり多くの神力使いを倒した者ほど、生き残る可能性が高くなる! そのことを忘れず、ゲームを楽しんでくれ』
ゼウスの音声が途切れたと同時に、遠くの方で爆発が起こった。
「早速おっぱじめやがったか……」
このままでは俺達も危険だ。
あの爆発が起こった方とは反対の方に進むよう2人に提案した。
しかし、萩野は断固として反対した。
体中震えているというのに。
「手がかりが無い、力も無い私たちにあの煙は重要な情報よ」
萩野は生き残るために己に言い聞かせていた。
絶対にミルクを守らなきゃ、と。
しぶしぶ了承した。
どちらにせよ、あの爆発の起こった方向に行けば、金か銀の鍵を持つ者がいるのは変わりないからだ。
3人は恐怖を振り払い。
歩み始めた。
***
爆発現場に近づくにつれ、胸に痛みが走る。
この先に待つものに……本当に近づいていいのか……不安ながらも一歩一歩近づいていく。
やっとのことで現場に着くと、そこには黒焦げの人間が一人。
立ったまま、息絶えていた。
萩野がその光景を目の当たりにし、目をそらしてうっすらと涙を流す。
俺だって黒焦げの死体をまじまじと見て楽しい訳ではないのだから目をそらすために、顔を動かそうとしたときだった。
「……?」
この死体、どこかで見覚えのある顔。
じっと見つめると体に刻まれた記憶が甦りだす。
「コイツ……蛾裡だ……」
「知り合い……?」
萩野が質問するが、答える気にはなれない。
「……!?」
ミルクちゃんが何かハッとしたような表情を見せる。
その直後、再び爆発が起こった。
次はそう遠くない。
急いで駆けつけてみると、今度は知らないリュックを背負った子供が一人、その場に倒れこんでいた。
「こんな子供にまで……」
萩野は怯えていた。
ミルクちゃんには死体を見せないよう萩野は彼女を正面から抱いた。
ふと、近くに誰かの気配を感じる。
「――――まさか!」
後ろを振り返るとそこには奴が。
「俺は幽霊でもみてるのか? なぜお前がここにいる?」
「気彌……」
一生懸命、斬鉄剣を出すよう意識を集中する。
「まぁいい。ここでお前をやっちまえば、お前の力は俺のもの」
中々でない斬鉄剣を諦め、萩野たちがいた方向に視線を移す。
しかしそこには誰もいない。
きっと萩野の瞬間移動で安全な場所に逃げてくれたのだろう。
それでいい。
これで俺一人の心配だけで負担が済む。
目の前に立ちはだかる気彌は、躊躇する事なく腕を前に突き出した。
「力を出せよ? 来ないならこっちから行くぜ?!」
挑発しながら独特の構えを見せる。
あの構え……蛾裡の神力、バクの力を使う時の構えと同じ。
「――――縛」
見えない紐のようなものが、信の体を一瞬で縛り上げた。
「お前ぇ!」
気彌を睨む。
「仲間を殺したのか?」
「何が言いたい?」
気彌は不敵な笑みを浮かべたままだ。
「何のために……仲間を裏切った!?」
グイグイと縛の力が強まる。
「特別に教えてやろうか? 簡単なことだ。今の俺には鍵が必要。力が必要。だからだ!」
そういって、信の頭を掴む気彌。
「よかったな? 死ぬ前に疑問がなくなってよぉ!」
気彌は信を掴む反対の手を彼に向けた。
爆と何十回、何百回も呟き、右手に圧縮した力の塊が出来ていく。
死への時間が1秒1秒縮まっていくのを感じた。
「何を……する気だ?」
冷めた目でこちらを見下ろす気彌。
「分かりきったことを聞くなよ……―――強爆裂!!」
信は生にしがみつき、雄叫びを上げる。
その雄叫びに呼応されるがごとく。
縛の呪縛から一気に解き放たれた。
「まさか! 縛から逃れただと?」
驚きのあまり気彌の手が止まっていた。
自分でも驚いていた。
どこにそんな力があったのかはわからない。
唯一つ今分かることがあるとすれば、この右手にいつの間にかに握られている斬鉄剣で、この気彌を倒せと俺の心が言っている。
気彌は攻撃途中だった強爆裂を再び信に打ち込もうとしたが、信がそれを斬鉄剣で野球のように、青空の彼方に打ち飛ばした。
上空で力が暴走した強爆裂は勢いよく爆発する。
爆風で飛ばされそうになる。
気彌は現状が理解できずに動けないでいた。
その本人の右手に強爆裂の欠片が少し残っていたことに気づいた信は、どうすることも出来ないまま、二次爆発に巻き込まれた。




