ほらね
いきなり目の前の男が笑いかけてきた。大きな顔を突き出し、目の玉をくるっとまわして、口を開く。
「ほらね」
肩を揺すり、愉快で仕方がないという調子でメガネをはずすと、男の顔から目と眉がなくなった。
目と眉の消えた顔で男はニヤリと笑い、今度は右手で鼻をもぎ取る。あたかも粘土細工のように鼻はなくなり、それがあった場所はのっぺらになった。
「ほらね」
つづけてティッシュを一枚取り出し口を拭うと、いままでそこにあった唇も顔の中から消えさっていった。
「ほらね、簡単なことさ。これでもう誰でもない」
目も鼻も口もない顔で男はそう言い放つと、丸めたティッシュを放り投げ、クツクツと笑い声をあげて立ち去って行った。
声が頭の奥で響き渡っている。
ほらね、ほらね、ほらね、ほらね、ほらね……。
ほらねほらねほらねほらねほらねほらねほらね……。
ほらねほらねほらねほらねほらねほらねほらね……。
ほらねほらねほらねほらねほらねほらねほらね…………。