プロローグ
生前の私はろくでもない人間だった。
裕福な家の一人娘として生まれ、両親や使用人達から甘やかされて何不自由なく育てられ、気がつくと我が儘放題の傲慢な人間となっていた。
――だから罰が当たったのね。
自分の身体から流れ続ける血を霞む視界に捉えながら、ふと思った。
大学卒業後に結婚した幼い頃からの許婚との結婚生活に、当時の私は幸せの絶頂にいた。
夫が家に帰ってこないのを仕事が忙しいからだと信じ、家事は全て家政婦任せでエステや旅行やショッピングなどで散財する毎日。
そんなある日、突然やって来た夫の愛人に包丁で胸を刺されたのだ。
「あんたみたいな女が本気で愛されてるとでも思ったの?」
「あの人はあんたの父親の会社が欲しくて仕方なくあんたと結婚するしかなかったのよ!」
「お前なんか死んでしまえ!」
美しい女の狂気に満ちた呪いの言葉を聞きながら、私の意識は暗い闇に沈んでいく。
……本当は心のどこかで気づいていたのかもしれない。
夫が私を愛してなどいないことを。夫どころか、私の周りにいる人間は、私ではなく私の家柄や財産を目当てに側にいたことを。
誰からも愛されずに死んでいく……。
なんて虚しい最期だろう。
――ああ、願わくば。
もしも、やり直せるなら。
もう一度人生をやり直して、今度は誰かに愛されて死にたい。そう思った。