【AI小説】星のメガネ|2026
ミクがそれを見つけたのは、百円ショップのパーティグッズ売り場でした。星の形をしたメガネ。レンズの周りにはキラキラのラメがついています。フレームは明るいピンク色で、つるの先には小さな星の飾りがついています。
「かわいい!」
思わず手に取ると、指先にプラスチックの冷ややかな手応えが伝わります。レジでお感を払うと、ミクはすぐにそれをかけてみました。
「うん、かわいい!」
ミクは大満足だった。
◇◇◇
家に帰っても、ミクは星型メガネをかけたまま過ごしました。宿題をする時も、夕飯の時も、お風呂に入る直前まで。
「ミク、いつまでそのメガネをかけてるの?」
お母さんが、少し心配そうに言いました。
「だってかわいいんだもん!」
「でも、もう3年生なんだから……そんなおもちゃみたいなメガネ、ずっとつけてたら変よ」
「変じゃないもん!」
ミクは少しムッとしました。
もう3年生なんだから、もう3年生なんだから……。お母さんはよくそう言う。でも、かわいいものが好きなことは悪いことじゃない。ミクはそう思った。
「明日は学校に持っていかないでね」
「はーい」
ミクは返事をしました。
◇◇◇
次の日の朝、ミクはお母さんとの約束をすっかり忘れて、星型メガネをランドセルに入れて家を出ました。角を曲がったところで、誰にも見られていないことを確かめてから、そっとメガネをかけました。
「やっぱりかわいい」
車の窓に映る自分を見て、ミクはニコニコと歩き出します。その時、向こうから一人のおじいさんが歩いてくるのが見えました。大きな荷物を両手に抱えて、よろよろと歩いています。
「大丈夫かな……」
ミクは駆け寄りました。
「おじいさん、お手伝いしますよ」
「おお、ありがとう。助かるよ」
おじいさんは嬉しそうに笑った。
ミクは荷物の片方を、自分の小さな掌で受け止めました。ずしりと重いその重みを、おじいさんの代わりに半分だけ背負います。
「本当にありがとうね。いい子だねえ」
「どういたしまして」
その瞬間、不思議なことが起きました。おじいさんの肩のあたりから、小さな光の粒が、ぱらぱらとこぼれ落ちたのです。まるで、線香花火。キラキラと輝く光の粒子は、ふわりと宙に舞って、そのまま透明な空気に溶けていきました。
「え……?」
ミクは目をこすりました。でも、光はもうどこにも見えません。
「気のせい……かな?」
ミクは不思議そうに首をかしげながら、学校に着く前にメガネを外して、大事にランドセルにしまいました。
◇◇◇
お昼休み、ミクは学校の裏にあるウサギ小屋に向かいました。ここなら誰もいません。ミクはもう一度、星型メガネをかけました。校舎の窓ガラスを鏡にしてポーズを決めていると、
「ミク!」
突然名前を呼ばれて、心臓が跳ねました。生き物係のユウカが、小屋の中で掃除をしていました。
「あ、ユウカ……」
「そのメガネ、かわいいね」
恥ずかしさで爆発しそうだったが、ミクはポーズの流れのまま、なめらかにユウカへと向き直った。
「ありがとう。……手伝おうか?」
二人でウサギのフンを片付け、新しい餌を用意しました。もぐもぐと口を動かすウサギの背中に触れると、指先に温かな命の鼓動が伝わってきます。
「ミク、ありがとう! 助かったよ!」
ユウカが笑顔で言った瞬間、また起きました。ユウカの周りから、線香花火のような光がキラキラとこぼれ落ちたのです。
「やっぱり……!」
気のせいではありませんでした。そして、もっと驚いたことに、ウサギたちの柔らかな毛並みの隙間からも、小さなキラキラがこぼれていました。
「ウサギからも……?」
ミクは目を丸くしました。人だけじゃない。動物からのキラキラも見えるんだ。
◇◇◇
ミクが学校からの帰り道でも星型メガネをかけて歩いていると、公園で転んで泣いている小さな男の子を見つけました。
「どうしたの? 痛かったね」
ミクが声をかけると、男の子は服で涙を拭いました。
「いたい……」
「砂、払ってあげるね」
ミクが屈んで、男の子の膝についた砂を優しく払ってあげました。
「ほら、もう大丈夫だよ。痛いの痛いの、飛んでいけ」
「ありがとう……」
男の子がニコニコと笑った瞬間、また、あの温かなキラキラが舞いました。
ミクは優しい気持ちになりました。このメガネがあれば、誰かを助けた時のキラキラが見える。それが嬉しくて、ミクは星型メガネを大切に握りしめて、家に帰りました。
◇◇◇
家に帰ると、お母さんが夕飯の支度をしていました。
「おかえり、ミク」
「ただいま」
ミクは星型メガネをかけたまま、お母さんを見ました。そして、ふと思いました。
お母さんは、いつもミクのために料理を作ってくれる。朝早く起きて、お弁当を作ってくれる。洗濯も、掃除も、全部やってくれる。それなのに、ミクは「ありがとう」って、ちゃんと言ったことがあっただろうか。
「お母さん」
「なあに?」
「いつも、ありがとう」
お母さんが驚いたように動きを止めました。
「え? 急にどうしたの?」
「ううん、ちゃんと言いたかったの。いつもありがとう、お母さん」
その瞬間、お母さんの体全体から、今までで一番たくさんの、温かな光が溢れ出したのです。線香花火のように、キラキラと輝く光のシャワー。
「お母さん、このメガネ、すごいんだよ!」「あのね、このメガネをかけると、キラキラが見えるの」
「キラキラ?」
「うん。誰かを助けたり、優しくしたりすると、その人からキラキラした光がこぼれるの。線香花火みたいに」
ミクは夢中で話し始めました。おじいさんの荷物を持ったこと、ユウカと掃除をしたこと、男の子の砂を払ったこと。そして、そのたびにキラキラが見えたのだと、嬉しそうに伝えました。
「かけてみて!」
ミクはメガネをお母さんの顔にそっと添えました。
お母さんはメガネをかけたまま、しばらく静かにしていました。やがて、その瞳に小さな涙が浮かびました。
「本当だ……。私にもキラキラが見えるよ」
「え?」
「ミクから、キラキラがこぼれてる」
お母さんは優しく笑って、ミクを見つめました。
「ありがとう、ミク。優しい子に育ってくれて、お母さん嬉しいよ」
ミクも嬉しくなって、お母さんに抱きつきました。二人の周りを、たくさんのキラキラが舞っていました。それは線香花火のように、いつまでも温かく、優しく、輝いていました。
──THE END──




