第8話 揺らぐ空間〜掴めない力〜
第8話 揺らぐ空間〜掴めない力〜を投稿しました!少し遅れてしまい申し訳ありません。
食レポ多めですがなにとぞよろしくお願いします
今日200PVを達成しました。まだまだひよっこですがよろしくお願いします。ぜひ楽しんでね!
「よし、全員よくやっているな。だいぶ慣れてきたようだ」
訓練場にラリル教官の声が響く。
朝から続く魔力訓練は、新兵たちの息をすでに荒くしていた。
しかし、それでも誰一人、手を止めようとしない。
浮遊する水球の光が、青く光って空気を染めていた。
――その光景は、まるで希望そのものだった。
だが次の瞬間、教官が低く呟く。
「今お前たちは浮かれているようだな」
その言葉に、場の空気が凍った。
ラリルは一歩前に出て、ゆっくりと手を組む。
「少し説明不足の部分もあったので付け足すぞ。……お前たちが“空間を把握できた”のは、俺たち教官がこの区域全体を“制御していたから”だ」
その一言が雷のように落ちた。
ざわ……と小さな波が広がる。
まるで今までの成果が、一瞬で幻になったような錯覚。
「な、なんだって……?」
「制御を外したらどうなるか、試してみるか」
ラリルが指先を軽く鳴らす。
空間が歪んだ。
周囲の光がねじれ、空気がぐらりと波打つ。
先ほどまで整然としていた空気が、まるで深海の渦のように重く沈んでいく。
「……な、なんだこれ……」
「これが“本来の空間”だ。俺たちが整えた場がどれだけ恵まれていたか、身をもって知れ」
試しに一人の新兵が手をかざす。
しかし――水は一滴も浮かばない。
ただ、掌の上で冷たく光っただけだった。
「くっ……動け、動けよ……!」
必死に魔力を込めても、結果は変わらない。
リオンも試したが、同じだった。
どうして、さっきはできたのに。
俺のがんばりは無駄で、出来て当たり前だったのか
世界が崩れ落ちるように俺は深く絶望した
まるで周囲の空気が拒絶しているかのように、何も反応しない。
今まで“できていた”感覚が、一瞬で崩れ去る。
教官が静かに告げた。
「空間把握ができなければ、エーテルを使うことすらできん。己の力を過信するな。今はまだ初日だ。なにもできなくても誰も咎めん。だが――今日知れ、この差を」
その言葉とともに、空間の制御が完全に外れた。
訓練場に吹く風が一変する。
重く、鋭い。息をするのも難しいほどに。
兵士たちは呆然と立ち尽くすしかなかった。
「……化け物みたいだな、教官」
あぁ、そうおもうぜ…
こうも簡単に新兵の心をへし折るとは
絶対に許さぬぞ!!
「化け物じゃない。“鍛え上げられた人間”だ」
その冷たい言葉が、静かに響いた。
訓練が終わると、ラリル教官が淡々と指示を出す。
「今回の訓練で大方お前らの技量は測れた。今日は自由訓練としておくが――明日からは体力向上の訓練に入る。今のうちに心構えをしておけ」
「た、体力訓練……?」
俺は体力に自信がある方なのでそこまで気にしていなかったがそんなにやばいのか?
兵士たちの焦りは尋常じゃない。
特に何も感じていない俺さえも
この空気に飲み込まれ
焦りを感じている…これが共感性羞恥だな
きっとそうだ
「うそだろ、あれって、あの“地獄の”……」
「聞いたことある……新兵の八割が虫の息になったとか……!」
八割?!虫の息なるのはいたとしても
せめて3割だと俺は予想していた
ことごとく外れた俺の勘
悔しい…
場が一気にざわめく。
笑う者もいれば、青ざめる者もいた。
---訓練が一段落し、腹の底から鳴り響く鐘の音が中庭に響いた。
この音のお陰で俺はある程度救われたと感じる
今までよりもはるかに幸福を感じた……
「……あっ、昼だね!」
マイルが肩の力を抜いて叫ぶと、周りの緊張がいっぺんにほどけたように、皆一斉に食堂へと駆け出した。おれも死にものぐるいで走る。
緊張感がなくなるも無性に腹が減るものだ
食堂の扉を開けた瞬間、香ばしい匂いが鼻をくすぐる。バターの香り、炒めた野菜の甘い匂い、肉汁の弾ける音。
「うわ、やば……いい匂いする」
リオンが思わず唾を飲む。広い食堂の中には長机がずらりと並び、白い皿に山盛りの料理が次々と運ばれていく。
ルルがトレーを片手に嬉しそうに目を輝かせた。
リオン「よっしゃ、俺チャーハン!」
「私はナポリタンにする〜。
あ、目玉焼き乗ってるじゃん!
贅沢すぎるよ……」
「僕は……やっぱ牛丼かな」
三人がそれぞれ好きな皿を受け取り、窓際の席に腰を下ろす。
リオンはスプーンを手に、湯気の立つチャーハンをひと口。
「うっま……! 米一粒一粒がふわっとしてる……! 中の卵がトロッとして、塩加減もちょうどいい!」
口に入れた瞬間、バターの香りとほんのり焦げた醤油の香ばしさが鼻に抜ける。
「うーん、こりゃ疲れが癒される……」
と思わず呟くと、向かいのルルがくすっと笑った。
「単純だね。でもわかるよ、美味しいものって、ほんと元気出るよね」
ルルはナポリタンをフォークでくるくると巻き、慎重に口に運ぶ。
「ん〜! 麺もちもち! ケチャップの甘酸っぱさが絶妙……! 上の目玉焼きの黄身と混ぜたらもう最高…」
フォークの先からとろりと黄身が落ち、赤いソースに溶け込んでいく。
「それ絶対うまいやつだな」
リオンが言うと、ルルはにやりと笑って「ちょっとだけ食べる?」と差し出した。
「いや俺チャーハンあるし大丈夫、
ルルもさっさと食べちゃいなよ」
いくら幼馴染みと言っても間接キッスはきつい
俺が何歳かわかっているのだろうか?
元気ギンギンな思春期男子だぞ!
「ふーん?」
ニヤリとした顔でまた麺を食べだした
ふぅ、一難はさったぞ、さあ食事の再開だ
マイルは丼の端に箸を立て、湯気の立つ牛丼を豪快にかき込む。
「はぁ〜、やっぱ肉だよ肉! 甘辛いタレが染みてて……最高だよこれ」
「マイル、食べるの早すぎ。喉つまるよ?」
「へへ、これが
僕のエネルギー補給法ってやつだよ」
そんなやり取りに、周りの兵士たちも笑い声を漏らす。訓練で張り詰めていた空気が、ようやく柔らかく溶けていった。
ふとリオンは、窓際の一角に座るミオの姿に気づく。
彼女は一人、静かにスプーンを動かしていた。
皿の上にはサバのムニエル。こんがり焼けた皮がきらりと光り、レモンバターソースが淡く湯気を立てている。
ミオは無言で小さく切り取り、口に含む。
その瞬間、瞼がわずかに震えた。
「……おいしい」
かすかにそう呟くと、また静かにスプーンを動かす。
彼女の周りだけ、時間がゆっくり流れているようだった。
「ミオさん、サバ派なんだね
ちょっと意外だったなぁ…」
ルルがこそっと声をかけると、
聞こえていたのかミオは少し驚いたように
顔を上げた。
少しの間こちらをみたままでいると
会釈をして、また静かに皿へと視線を戻す。
訓練の厳しさとはまるで違う、穏やかな時間がそこにあった。
食堂は昼の光が差し込み、木の机と椅子が規則正しく並ぶ。香ばしい匂いと温かい湯気が漂い、少しざわつく声が混ざる中、それぞれが席に着いていた。
リオンはちらっとその人たちの会話を聞いてみる
ハイロというすこし身長高めのチャラそうな男は
食事前から机に肘をつき、眉を少し寄せている。「おい、新入りども、寝坊すんなよ」と、
軽い口調でベンとネロに声をかける。
ベンは慌てて自分の制服の袖を払う。
「やべ、さっき泥のついた靴で走ったせいで教官の服に泥付けたかも……」
と小声で言うが、どこか楽しげだ。
それを聞き逃さなかったネロは肩をすくめ、
一瞬絶望した表情をしていた
落ち着いた声で二人を制する。
「落ち着け。
食べる前にそんなに慌てても仕方ない。」
どれだけ教官が恐ろしいのかそこまで分からないが
落ち着いた声で話していても
その声の震えや表情からは
冷静さを1ミリも感じられなかった
ハイロは手元のナポリタンにフォークを突き刺す。「これ、意外と悪くないな。トマトの酸味がちゃんと効いてて、麺のコシも悪くない。」
ベンは自分のオムライスを見下ろしながらつぶやく。「ふわっと卵に包まれたライス……うん、ケチャップの酸味がちょうどいい。やっぱり、昼飯はこうでなくちゃ。」
ネロはスープをひと口すする。「野菜の甘みが柔らかい。薄味だけど、旨味はちゃんと感じられる。こういうバランスは見事だな。」
ベンが口をもぐもぐしながら、突然ハイロに聞く。「ねえ、ハイロはどうしてナポリタン選んだの?いつもならもっと無難なものにしそうなのに。」
ハイロは少し眉を上げる。「俺は……味の濃い方が気分に合っただけだ。まあ、昼にナポリタンなんて久しぶりだからな。」
ネロが静かに頷く。「久しぶりに食べるものは、いつもより舌に染みる。そういう意味では、今日の昼は悪くない選択だ。」
ベンはふと周囲を見渡し、「なんか、こういう食堂の雰囲気、落ち着くなあ」とつぶやく。
ハイロが軽く肩を揺らして笑う。「ああ、確かに。こうして座って食うだけでも、訓練の緊張が少し抜ける気がする。」
ネロはスープを飲み干し、「でも忘れるな、明日からは体力訓練が控えている。ここでしっかり栄養を摂ることも、戦力の一環だ。」
そこからすこし遠くに位置する席では
アミリアとフィンが座っていた
アミリアは迷惑そうにフィンを見ていたが
フィンはそんなの
お構い無しに話しかけ続けていた
アミリアは静かに紅茶をすする。カップから立ち上る香りは、ほのかにベルガモットが混ざり、落ち着いた印象を与える。
フィンはその横に座っており、
焼き魚定食のサバの塩焼きを箸で摘む。
「あの……アミリアさん、
紅茶はいつもこういうものを?」
アミリアは目を細め、静かに頷く。
「ええ。昼間の食事では、
あまり重くないものを選ぶようにしているの。
食後の眠気も抑えられるし、
心が落ち着くでしょう。」
フィンは少し微笑みながら、
今日はよく喋りますね…と小声で喋る
アミリアは聞こえていたようでわざとらしく
咳払いをする。それに気づかぬぬまま
自分のサバを口に運える。
「なるほど……この塩加減がちょうど良くて、身も柔らかい。やはり火加減が完璧ですね。」
呆れたのか
アミリアは紅茶の香りを再び楽しむ。
「魚の塩気の匂いと
紅茶の苦味が、
意外に合うの。ちょっとした驚きね。」
フィンは静かに頷き、
「そう言われると、味覚の組み合わせの妙が、食事の楽しみの一つだと改めて思います。」
アミリアは視線を遠くに投げる。「フィン、君は私が兵団に所属する前から
いつもこうしてうるさく
話しかけてくれるけれど、
私は少し緊張してしまうの。
皆が騒ぐ中での私たちの時間が、
逆に大切に感じられる。」
フィンは紅茶を置き、真剣な顔で答える。「ちとその冗談はキツイです。俺のことは気にすることはありません、アミリアさん。こうして穏やかに食事をする時間は、誰にとっても必要ですから。」
アミリアはクスクスと笑う。真顔で笑っていたので本当にあの小さな口から漏れた声なのか
怪しいくらいだ
フィンという少年よ、恐ろしい…
「よーし、腹も満たされたし、
午後も頑張ろっか!」
マイルが立ち上がると、他の兵士たちも次々と立ち上がっていく。
リオンも皿を片付けながら、ふっと空を見上げた。
窓の外、真っ青な空に白い雲が流れている。
「……絶対、上手くできるようになってやる…」
小さくそう呟き、再び訓練場へと足を向けた。
再び訓練場に戻る時間が来た。
自主練の時間だ。
リオンは空間把握の訓練を再開したが、思うようにいかない。
「……ちくしょう、なんで……なんでできねぇんだよ……!」
目を閉じても、何も感じない。
風の流れも、空気のうねりも――すべてが掴めない。
手のひらに乗せた水は、またすぐに落ちる。
何度やっても同じ結果だった。
やっぱり俺は才能なんてない、ただの砂だ
そんな絶望したリオンのもとへ、ルルとマイルが歩み寄る。
「リオン、大丈夫? 焦っても仕方ないよ」
「僕も全然ダメだしなぁ……空間把握ってなんかフワフワしててよくわかんないし。
もう慣れしかないんじゃないのかな。
教官の人たちもそう言ってたよ
リオン、今できなくても明日できればいい
焦らなくてもいいし不安にならなくてもいい
だってみんな一緒なんだから…
ゆっくり息をすまして、空気の流れを感じて
空気の中に紛れ込んでるエーテルを」
混乱しているリオンをみて
ルルは少し考えてから言った。
「リオン、感じようとしすぎてるのかも。“捉える”んじゃなくて、“共鳴する”の。空気と一緒に、呼吸を合わせる感じ」
「共鳴……」
リオンは目を閉じ、ルルの言葉を思い返した。
だが――それでも、結果は同じだった。
焦りと悔しさで、胸がざらつく。
「くそっ……俺だけ、なんにもできねぇ……」
そのとき、背後から柔らかな声がした。
「落ち着いて。焦りは魔力を濁らせるだけ」
振り向くと、ミオが立っていた。
彼女は静かに近づき、リオンの目の前に立つ。
「リオン、少しだけ力を貸す。目を閉じて」
そう言うと、ミオはリオンの目にそっと手をかざした。
指先から温かい光が流れ込み、彼の視界が白く染まる。
……静寂。
風の音も、声も、すべてが遠のく。
代わりに、世界の“輪郭”が見えた気がした。
ミオが囁く。
「ほら、もう一度。今度は“見ようとせずに感じて”」
リオンは息を整え、再び空間を探る。
すると、今度は確かに感じた。
空気の震え、水の揺らぎ、微かな魔力の流れ――。
ほんの少しだけ、世界が“掴めた”のだ。
ミオは言葉ではなく感覚派であったか
それを俺に共有できるだなんて、
本物の才能には頭が下がらない
「……! できた、少しだけ……!」
どこからか現れた測定官の声が響く。
「空間把握、12パーセント。初めてにしては悪くない。もっと頑張ってね」
リオンは目を見開き、ミオに頭を下げた。
「ありがとう、ミオ。おかげで、少し見えた気がする」
「感覚は人それぞれ。でも、掴めたなら十分。あとは繰り返すだけ」
「よっしゃ! 明日はもっと上げてやる!」
その笑顔に、ルルとマイルもつられて笑った。
「やっぱ単純だね〜、リオン」
「単純なのがリオンの強みじゃないか、
信じてたよ、本当にお疲れ様」
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夕暮れが迫る頃、訓練は終わった。
赤い光が訓練場を照らし、風が涼しく吹き抜ける。
リオンは寮のベッドに体を投げ出した。
「……つっかれた……」
頭が重い。
でも、どこか心地よい疲労感だった。
瞼が重くなる。
明日の訓練のことを思いながら、心の中で呟く。
「明日も……頑張らないとな……」
そのまま、静かに意識が途切れた。
彼の寝息が、夜の静寂に溶けていく。
――そして、明日は新たな試練の日となる。
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楽しめたかな?今回はリオンの絶望の壁にぶつかっているシーンを多めにかきました。次回は2日後の午後7時か9時に投稿します。また見てね!




