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塔の悪魔  作者: 炯斗
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002/

「クノ=カノトくん、クノ=カノトくん」

「……ん…」

呼び掛けに応じて意識が浮上する。朝らしいが、あの匂いがしない。

「お〜い、起きたかい?」

声の方に開ききらない目を向ければ、自分を覗き込んでいるのはルームメイトではなかった。

「 ! え、ロアーさん…?」

「君はいつも早いけど、教室で二度寝はどうかと思うよぉ」

見回してみると、確かにここは共通講義用の講堂だ。机に突っ伏して寝てしまっていた。

ロアーさんには寝顔を見られてしまったわけだ。涎は垂れてない。よし。白目を剥いてたりイビキをかいたりしていなければいいが。大丈夫だと思いたい。

「…起こしてくれてありがとうございます。助かりました」

「あははは。構わないよぉ。それじゃあねぇ」

ロアーさんは去って行った。生徒たちが集まり始めている。なるほど、本当に危なかった。


「さて諸君!そろそろ『体験授業』がスタートする。お待ちかねだろう。来月から、四限目の授業で行っていく。日替わりで様々な科目を体験して貰うから、興味があった科目は是非控えておいてくれ」

ルマリエ先生の言葉に、講堂は歓喜混じりのざわめきに満たされた。勿論端から予定として知らされていたことではあるが、それでも多くの生徒がまさに『お待ちかね』だったのだ。

皆の反応にルマリエ先生も気を良くしていつもより踏ん反り返っている。後ろに倒れないか心配だ。

「それでは本日は此処まで!明日の講義にも期待するように!」

いつもの定型文で締めて、先生は講堂を出て行った。

授業が終わって暫くは、講堂に残ってノートを纏める。講義内容を整理して、自分の理解度も確認できる。気になった点や理解が及んでいない点が見付かれば、図書館で調べたり補講をお願いしたりすればいい。…友だちや先輩がいれば、頼ってもいいだろう。

今の処、私が頼れそうなのは…ロアーさんしか思い浮かばない。とはいえ、ロアーさんが何を専攻しているのかも知らないし、知識・学力の程度も解らない。だいたい、会い方も解らないと今気付いた。

「………」

まあ、幸い今すぐ頼りたいような状態ではない。共通講義にはついていけてる。

そろそろノートの残量が心許ないので、買い足しに行くことにしよう。


学業区にある所謂『購買』はいつも賑わっている。五十代くらいと思しき温和な男性が仕切っているが、バイト従業員の数も多い。特にキャッシャーは空いた時間に気軽に出来るバイトとして人気が高い。出来れば学業に集中したいが、私もお世話になるかも知れない。

ともかく、ノートだ。

他にも切れそうな物はあっただろうか。インクは余裕があった筈だ。最近は黒鉛合金の筆記具が普及してきているらしいが私はまだインクを使っている。筆跡が少し薄いんだよな、アレ。因みに地元では黒鉛と粘土を混ぜて作られた芯を木や紙で巻いた筆記具があったが、塔ではあまり見ない。木製品はこの地域では少し高価になるらしい。出身が木の多い地域だったから、妙な気持ちだ。

勿論、紙は木製品だ。流石に学生には必要不可欠な品だし、質の低い安めのノートを用意してくれてある。あまり強く書くと破れてしまうので気を使う。

とはいえ、普通の紙だってそんなに高価なわけじゃない。あくまで地元と比べれば、という話だ。まあ物価の違いもなかなかに大きいのだが。

そんな益体もないことを考えながら会計に並ぶ。

おや。今日のキャッシャーはバイトじゃないようだ。サクサクと列が進んでいく。まあそうか。バイトが入っている時は会計所は複数設けられている。今日は会計待ちが一列しかなかった。…緊張してきた。

順番が来たので、ノートを差し出す。

「はいありがとう。e.(エン)5ね」

準備していた硬貨を五枚トレーに落とす。差し返されたノートを受け取り、直ぐに順番を次へ譲る。店主は優しく微笑んで、次の客の対応に移った。

「………」

早足でその場を離れると、静かに呼吸を整えた。

何故か知らないが、購買の店主には妙に緊張してしまう。きっといつも忙しそうだからだろう。迷惑にならないようスムーズに、と力んでしまっているに違いない。我ながら小市民だ。

荷も増えたし、一先ず自室に戻るとしよう。

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