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塔の悪魔  作者: 炯斗
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「おっ、クノちゃんだ。おかえりぃ。今日は遅かったね」

「本読んでた、から」

「そっかぁ。お夜食食べる?」

ルームメイトは四十手前の女性で、何かとこちらを気遣ってくれる。面倒見が良い性格なのだろう。謎の汁物を差し出されたので、両手で受け取る。香りと見栄えからして、恐らく薬膳だ。

「ココットは薬学に行きたいの?」

「そうねぇ。取ろうと思ってるのは薬学と調理と玄獣学ねぇ」

「ふーん」

椀に口をつける。

素材の味が活きている。食感もバラエティに富んでいた。

「どうかしら?」

「これは、ヒトの口には合わないと思う」

「そっかぁ。クノちゃん的には?」

「…汁なら汁だけの方が」

「なるほどね~」

味は嫌いじゃない。何より、ココットの薬膳には愛がある。そのエネルギーは馬鹿にできないものだ。

「ありがとうクノちゃん。参考になるわ」

「個人的な見解だけど」

「いいのよそれでぇ」

食べ終わった椀を回収して、ココットは背を向けた。拡げられたノートに何か書き込んでいる。熱心だなぁと感心しつつ、その背を暫し眺める。

ココットは温かで人懐っこく、まともに作れば料理も上手い。

仲良くなれればいいのに。

学ぶべき事は魔術知識のみに留まらない。こうやって、人付き合いも学べればいいのに。

意味のないことだと思っているのかも知れない。悲しませる結果になると考えているのかも知れない。

それでも、仲良くすればいいのになぁと思わずにはいられない。

「…ココット。医学と錬金、教えてあげて」

「本人にその気があればもちろんだけどねぇ…」

ココットは少し悲しそうに眉尻を下げた。

「大丈夫。ココットが医学と錬金に明るいのを、知らないだけ。学べる事は学ぼうとする、筈」

「クノちゃんがそう言うなら、声を掛けてみるよ」

「うん。おねがい」

任せておいて、と胸を張るココットが頼もしい。

ルームメイトがココットで良かった。

「ところで、クノちゃんからは伝えられないのかい?」

「…手紙を残せば良いんだろうけど…」

どうにも、文章を書くのは苦手だ。意図しない解釈をされるかもしれない不安もある。

「そうかい。いざとなったら書いてごらんよ。添削はしてあげるよ」

「うん、ありがとう」

ココットはノートを閉じて片付け始めた。そろそろ寝る準備をする時間だ。

「それじゃあね。今日も夜遊びするなら気を付けて。『刻紋の亡者』に出逢わないようにね」

「ありがとう。気を付けるとするよ。おやすみ、ココット」

そうして、寮の部屋を出た。

明け方までは散歩の時間だ。特に目的があるわけじゃないが、部屋に居ても暇を持て余す。

塔の夜は寝静まらない。学業区では寝る間を惜しんで勉学に勤しむ者もいるし、研究の為に早朝から起き出す者もいる。商業区ではナイトショーだってあるし、パン屋や新聞屋も朝は早い。農業区も工業区も、夜通し誰かが働いている。観光区だけは静かなものだ。

さて今日は何処へ行こうか。放課後はずっと図書館に居たから、訓練場の方にしようか。

そうやって学業区内をふらふらと歩いていると、それに出逢った。

「おやぁ?ちょっと君ぃ」

呼び止めてきたのは、何処かで見たことがあるようなオジサンだった。塔では年齢で学生か講師かは見分けられないので、何と返すか悩ましい。

「…ぇっと?」

「おや。おやおやおや!なぁんと、クノくんじゃないか!?ははぁ、なるほどぉ?なるほどなぁ!!」

だいぶ高揚した様子で目前まで迫って来て、舐め回すように視線を向けられた。そして頻りに何かに納得している。

「ん?あれぇ?…これは失礼したねぇ。ボクは玄獣学を教えてる講師だよぉ、宜しくねぇ」

やがてこちら戸惑っていることに気が付いて、自己紹介をしてくれた。

「こんな時間にどうしたんだい?刻紋の亡者に見つかっちゃうかも知れないよぉ」

「それにはもう、遭ったことある」

「あら本当。確かに君には害は為さないよねぇ」

肯いて、ペコリと頭を下げる。「もう行きます」の合図だったのだが、

「あぁ、待って」

引き留められた。

「眠れないのなら、話し相手にならないかい?先生も暇してるんだよぉ」

「………」

返事をする前に、研究室に連れ込まれてしまった。

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