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塔の悪魔  作者: 炯斗
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「聖霊の隠し部屋というものを知っているか?」

ルマリエ先生は机に肘をついてだらけた姿勢を見せている。此処は玄獣学研究室の一角だ。深夜の遭遇以来、高頻度で遊びに来るようになった。次期学長が入り浸るので研究生たちは戦々恐々としている。

それはともかく、質問には覚えがある。

「…あれのこと、かな?」

ただでさえ崩れかけていたルマリエ先生は、グッタリと机に倒れ伏した。

「私も探しちゃいるんだけどなー」

先生はまだ見付けられていないらしい。

「入ってみたか?」

「うん…一回だけ」

「どうだった?」

「ええと──」


開いた扉の先には、書斎があった。

本の詰まったたくさんの棚。堆く平積みされた本。大きな杖と、大きな男。

「来たか、不確定の獣。おかげで先が読めなくなった」

背後で重厚な音を立てて扉が閉まった。

「あなたは…」

直感する。彼は生きている人間ではない。

「どーしてこんなところに来た」

こんなところ、とは何処を指しているのだろうか。この部屋か、この塔か。

「剥脱の蝙蝠によばれたか」

此方に質問しているわけではなさそうだ。

呼ばれた、ということは塔を指していたのだろう。

「剥脱の蝙蝠…クーシェ先生のこと?」

ルマリエ先生がそう呼んでいた。あの時は結局クーシェ先生にはぐらかされてしまった。それから聞いてはいない。

「あーそーだ。先生やってるんだったな。今は玄獣学だったか」

「その前は呪学だったって言ってた」

おう、と一声。それから漸く、此方に向き直った。

「テメーは、この世界は好きか?」

「世界、のことはよく解らないけど、今迄関わった人格は皆好ましいと思ってるよ」

カノトもカノトの家族も村の人も、ココットも玄獣学研究室の人たちもフェディット先生もルマリエ先生も、クーシェ先生も。恐らく、この男も。誰も嫌うに値しない。

「博愛主義、とは違いそーだな。まーいい。それなら、『クーシェ先生』かその他全てか、選ぶ時が来る」

「?」

「テメーの先はおれさまには読めねー。その時が来たら、好きに選べ」

首を傾げるしか出来ない。ボクには彼の言葉の意図が理解できないでいる。

「どっちかしか選べないの?」

「そーだ。道は大きく二つしかない。テメーの先は解らなくても、選択肢は変わらねー」

先生は、何を引き起こすのだろう。

「アレは世界の皮を剥がすのが望みだそーだ。機が来れば魔女すら唆す。万一アレが塔から出たら──テメーがアレの望みに共感していなければ、塔の管理者経由でディエルゴに協力を頼むと良い」

世界の皮?…何だろう、モヤモヤする。頭が──いや、胸が、痛むような。

「さて。そろそろ戻れ。それとも何か聞きてーことでもあるか?」

「聞きたいことと言うか、伝えておくことはある、かも」

「ほー?なんだ?」

「アィーアツブスが、塔に来てる」

「あー。選択を先延ばしにしてーなら、剥脱の蝙蝠とは遭わせない方が賢明だ」

知っていたのだろう。だとすれば少し驚きだ。

「領域侵犯、じゃないの?いいの?」

許容していることになる。

「いーだろ。ディエルゴだって黙認してる。知人に会いに来るぐらい好きにしたらいい」

「だけど、先生に遭ったらマズいんでしょ?」

きっと彼女は賛同する。

「無理に止めようとは思わねー。現代のことだ、死人が口を出す道理はねーからな」

求められれば支援はするが、積極的には手も口も出さない。そういうスタンスらしい。

「そうなんだ。じゃあ、そろそろ帰るね」

「おー」

密された部屋には、過去に生きた者が居た。過保護に塔を見守っているわけではないらしい。何が目的で彼は意識を遺したのだろう。


「──幽霊が、いた?」

「霊?聖霊か?いいなー」

ルマリエ先生は潰れながらも羨ましがる理由を話してくれた。どうやら代々の塔の管理者は、若くしてあの部屋を見付け、聖霊との邂逅を果たしているらしい。このままではまるで落ち零れだ、とボヤいている。

「うーん…。多分、なんだけど。あの部屋は助力を求めている者にしか見付けられない、んじゃないかなと思う」

「…助力?」

「知りたい事があるとか、自分ではどうしようもない悩みがあるとか、そういうの」

因みにボクにはなかったけど、そもそも根底が異なるので論外とする。

「ルマリエ先生は、逆に、凄いのかもしれない…ね?」

「…なるほどなー」

代々の悩みに心当たりでもあったのか、それとも慰めと受け取ったのか。ルマリエ先生はのそのそと上体を起こした。

「しかし会えなくて困っているんだ、会ってくれてもいいじゃないか。なあ」

悩みがないのが悩みだなんて、ルマリエ先生は流石だ。

「ね〜も〜また来てるぅ。暇なのぉ?帰ったらぁ?」

席を外していたクーシェ先生が戻ってきた。

「自分で言うのも情けないが、私はとてつもなく多忙だぞ!さりとて息抜きは必要だ」

そうなんだ。まあ息抜きは必要だ。仕方がない。

「邪魔も入ったし今日は戻ろう。またな、クノくん」

ボクは座ったまま手を振り返す。

「さっさとお帰り〜。ボクの研究室だよぉまったく」

シッシッと手で払って、先生はボクの対面に腰を下ろした。

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