2話 決意
今もそうだが、俺は昔から物静かなタイプだった。別に人と仲良くするのが苦手なわけじゃないが、自分に自信がないからか、誰かと話す時はいつも少し緊張していた。そしてそれは、相手が異性ともなると特に顕著だった。
顔が良いわけじゃない。かといって背が高いわけでも話が面白いわけじゃないし、さりげない気遣いができるほど気が利く方でもない。取り柄なんて言えるものは何もなかった。実際、高校の時モテたのは話が面白い奴だったり、部活のキャプテンだったり、そういう同級生ばかりで、俺みたいな奴には誰も見向きもしなかった。それが余計に俺の自信を削いでいた。
だが、高校2年の時に同じクラスになった、深澤柚希さんだけは違った。彼女は誰にでも分け隔てなく接するタイプで、男子女子、明るい暗いに関係なく、色んな人と仲が良かった。
俺も例外じゃなかった。彼女は俺にも優しく接してくれた。そんな経験が初めてだった俺は、いつしか彼女のことが好きになっていた。彼女は俺にだけ優しいわけじゃなくクラスメイト全員に平等に優しいのに、そして俺はそれに気づいていたのに、好きになってしまった。
「ねー君島くん、休み時間の時さ、いつも何読んでるの?」
「あ、えーっと、本」
「本はわかってるよ。どんな本かって聞いてるの」
「あー、最近は小説かな。ラブコメみたいなのを……」
「ラブコメ!?君島くんもそういうの読むんだ〜」
「まあ、うん」
「面白かったら貸してよ。君島くんが読む本、私も読みたい」
本当にそれぐらいの会話だった。でもそれがすごく楽しかった。彼女のことが好きだった。
高校3年の夏休み前だった。俺は深澤さんに告白した。言い訳に聞こえるかもしれないが、別に最初から何かを期待して告白したわけじゃない。彼女が俺なんかと付き合ってもらえるとは思ってもいなかったし、期待するのも馬鹿馬鹿しかった。俺は俺の自己満足のために彼女に告白して、そしてもちろんあっさり振られた。
映画とか小説とかじゃなく、自分のことで泣いたのはその時が初めてだったと思う。全く期待していなかったにも関わらず、振られたという事実はやっぱり重かった。俺がもっとカッコよければ、背が高ければ話が面白ければ、さりげない気遣いができれば。自分にもっと何かあれば、結果は違ったかもしれない。そんなどうしようもないことを考えながら、美容整形クリニックのホームページを見ていたことは未だに鮮明に覚えている。
「鼻を高くする手術……150万!?」
そしてその一月後、深澤さんが隣のクラスの野球部のイケメンキャプテンと付き合っていることを知り、また泣いた。
俺は都内の大学に進学した。特に将来の夢があった訳ではなかったから、適当に経済学部を選んだ。そしてとある英語の授業で、違う学部だった晴雄と出会った。
大学生にもなると、モテるやつは本当にモテる。俺の同期にもそういうやつは何人かいて、いつも幸せそうなカップル達を俺は日陰から羨ましそうに見ていた。危機感を持ち始めたのは晴雄に彼女ができた大学2年生の頃で、俺も彼女が欲しいと真剣に考えるようになった。
だが、20年近くモテてこなかった俺が今になって簡単に彼女を作れる訳もない。他の男より何か秀でたものがなければ、俺はいつになっても意中の人に振り向いてもらえないままだ。そんな意識が俺に芽生えると、俺が何をすべきか導き出すのは非常に簡単だった。
「……お金を稼ぎたいんだ、誰よりも」
それしかない。俺に残された道はもうそれしかない。俺が女性に振り向いてもらうには、お金持ちになるしかない。真剣に考えた結果、俺はその結論に達した。
「じゃあなに、給料が高い大企業に就職するとか?」
「違う、そんなもんじゃない。もっと、比べ物にならないくらいに稼ぐんだよ」
「……起業、か」
翌年、俺と晴雄は学生ながらにして起業した。株式会社グルメットは、俺の「モテたい」という思いが原動力となって誕生したのだ。
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