勇者は異世界の人々が進む道を善意で舗装した
あるとき、世界に魔王が現れた。
魔王は瞬く間に魔物をまとめ上げると人類に侵攻を始め、人類は滅びの手前にまで追い詰められた。
そんなときである。
異世界から勇者が現れたのだ。魔を退ける聖剣、神の加護により頑強になった肉体、異世界で培われた知識、そして生まれ持った勇気と優しさを武器に勇者は魔王と戦い、ついにはこれを打ち滅ぼした。
人々は勇者に感謝し、どうかこれからの人類の復興に力を貸してほしい、自分たちを導いてほしい、と願った。しかし勇者は故郷に大切な人を残しているからとそれは出来ない、と答え、その代わりにこれから復興をする人類に一冊の本を残した。
それは勇者が来た世界の歴史や、そこに存在する技術など、勇者が知るあらゆる知識が書かれた本だった。
「僕の世界は、これまで多くの間違いをして、そして最近になりようやく少しだけ平和になってきています。あなたたちは僕たちの間違いを繰り返さないでください」
勇者はそう言い残すと元の世界へと帰って行った。
勇者が元の世界に戻ってから数十年後、世界は魔王がいたときよりもはるかに荒廃していた。
勇者が残した科学技術の知識は大地を、森を、山を、谷を、海を汚しつくし、そこに住む精霊は姿を見せなくなってしまった。
人々は飢えや猜疑心から互いに傷付け合い、やがて各地で争いが起こると、人々はこの現状を作り出した勇者こそが本当の魔王だったのだと罵り始めた。
天上から事の顛末を見ていた神は、世界が一人の男の善意で地獄の様相を見せ始めたことにため息を吐き、そしてこう呟いた。
「やれやれ。そういえばあやつの世界には『地獄への道は善意で舗装されている』とかいう言葉があるのだったか」
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