第六話 営業活動
昇はとあるビルのー室を訪れていた。
そこには強面の黒スーツの面々が並んで立っており、奥の高そうな机のソファーに、組長を思わせる人物がいた。
その人物は立ち上がり、昇の方に近寄りながら、
「久しぶりやのー。最後に会ったんは親父さんの葬式の時か?」
「お久しぶりです。武雄さん、その説はお世話になりました」
昇は武雄と呼んだ人物に挨拶をして頭を下げた。
「かまわんかまわん。ちっちゃい時からの顔見知りじゃ、今さらきぃ使わんでええ。とりあえず、立ち話も何やから、そこに座り。おい!茶もってこい」
黒スーツの一人がお茶の準備を始めたのを確認し、武雄はガラスのテーブルを挟んで向かい合った大きなソファーに腰をかけ、それに習い昇は反対側に座った。
「積もる話もあるが、今日どうしたんや。急に話があるいうてくるから相当なことなんやろ。」
「実は・・・」
昇はエルシィをアイドルとして採用したこと、幼なじみのメンツがトレーニングなどしてくれてること、そのおかげもあり、実力が急速に伸びていることを説明した。
「なるほどなー。ちゅーことはウチのステージを使いたいってことでええんか?」
昇は静かに頷いた。
武雄は藤堂 武雄といい、藤堂グループの会長で、昇の父親の親友でもあった。
藤堂グループというのはこの辺り一体を取り仕切るグループで、ショッピングモールなどの商業施設をメインにしている。
その中にイベントステージもあるのだ。
昇はそこを借りようと交渉にきていた。
「貸すのはいいが、こっちも仕事や、利益が得られんのに貸すことはせん。」
「そこをなんとか。なんならモールの入り口で歌わせてもらえるだけでもいいんです。」
昇の作戦はとりあえず、この街での認知度を高めること、今はインターネットが普及している。大々的に広告をしなくても、惹かれるものが伝われば広がると踏んでいた。
しかし、現状は歌える場所すらないのだ。
そのためのこの交渉をしくじるわけにはいかなかった。
「いくら坊主の頼みでも聞けんなぁ。」
なんとか交渉してみても、利益の見込みがないときっぱり断れる始末だった。
諦めめかけたその時。
「今度、ウチのグループ内部で記念パーティーがある、そこでなら歌わしてやる。ただし、ギャラはなし。そこで見込みありと判断できればステージの利用どころか後援もしてやる。なしなら今後一切手は貸さない。どうする?」
つまり、内々で実力を試し、価値ありなら全面的にバックアップを受けれるが、なければこの街での活動はほぼ不可能になるということだった。
昇はなんの迷いもなく、
「お願いします!」
と頭を下げた。
武雄は少し驚いたようだったが、昇を見て微笑んでいた。
昇が帰ったあと、側近の黒スーツの一人が、武雄に声をかけた。
「でも、いいんですか?内々といっても有名人も来るのに無名のデビューもしてない子に歌わせて」
武雄は側近にニヤリと笑みを見せ、
「お前は知らんかったなー。昇自身は平凡としか言えんチカラしかないが、人を見る目、これだけはとてつもない才能があった。あいつの幼なじみをしっとるか?あれらの才能を見抜いたのも昇なんじゃ。あいつらが成功したのも昇のチカラがあったからと言ってもいいぐらいじゃ」
「そこまでなんですか?」
側近はあまり信じられない様子だった。
「この賭けみたいな条件に乗ってくる程の才能がその子にはあるんじゃろう」
武雄のそれはほぼ確信であった。
そして、それは大当たりだったのである。
つづく