第五話 レッスン、レッスン、またレッスン
3日後
縁は約束通りに事務所に来た。
事前に電話で
「今日行くから、例の子とレッスン室で待ってなさい!」
と、言うだけ言って切られてしまった。
相変わらず、こっちの予定確認も、時間指定もなかった。こういうところは変わらない。
いつものように10時ぐらいに来るだろうと思っていたが、予測時間に縁は事務所の1フロアを使ったレッスン室に来た。
「ちゃんと待ってたわね。で、この子が例の逸材?たしかにかわいいけど・・・。まぁいいわ。ちょっと歌ってみて。話はそれからね。」
「わかりました!」
エルシィは元気よく答えると子守歌を歌い始めた。
縁は俺の横で、黙って聴いていたが、途中から
「これは、・・いや・・・・だし、・・」
とブツブツ言い出していた。
なにやら今後のプランを考えているようだ。
一曲歌い終わったエルシィはこちらを伺うように
「ど、どうでした?」
と聞いてきた。
俺は縁の方をみた。すると縁は
「潜在能力的には問題なさそうね。でも、基礎がまだまだね。まず、声の伸びが足らない。音程が安定してない」
次々と今後の課題を提示していった。
エルシィも真剣にその言葉を聞いていた。
「いろいろ言ったけど、とりあえずは体力よ。アイドルは体力が重要!ダンスもそうだけど、歌も体力を消耗するの。体力がないことには話にもならない。あと、体幹ね。体幹がないと音程は安定しないし、伸びのなくなるの。しばらくは技術的なことよりも体力作りがメインなるわね。」
そう言って縁はエルシィに近づき、あれこれ指導を始めた。
それから一週間、麗と縁の指導の元エルシィは体力作りに励んでいた。
毎日のランニングに始まり、腹筋や背筋。
時にはひたすら長く声を出す、ロングトーンもしていた。
一週間と少し経ったある日、俺は
麗と縁にレッスン室に呼び出された。
「来たわね。とりあえず、体力作りのせいかを確認してくれる?」
縁にそう言われ、レッスン室の真ん中に立つエルシィの方に向いた。
エルシィは少し緊張しているようだったが、息を吸い歌い始めた。
「♫〜〜〜♪〜〜〜」
聴いてすぐに俺は驚いた。
最初に聴いた時も感動したが、その時よりずっとチカラ強く、声が伸びており、頼もしくも感じられた。
「どう?ワタシたちのレッスンの成果?と言っても一週間でここまでになるとは思わなかったわ。」
麗は言いながら、エルシィを見ていた。
「これまでは、体力作りだけだったけど、これからは技術的なところも指導するからね。もっとすごい子になるわよ」
縁も満足そうだった。
俺の幼なじみは素質はあったが、それ以上に努力家だった。そしてそれは、トレーナーになっても変わらず、また指導する時にも相手にも求められてしまうため、実力のないもの、実力はあっても努力できないものはついていけなかったのだ。
つまり、2人の指導についていってしかも、2人の予想を超えるエルシィはかなりのものだと言うことになる。
2人の指導によりエルシィの潜在能力が開花する日も近いと踏んで、俺は次のステップを用意するために動き出そうと思ったのだった。
つづく