第三話 生活基盤とレッスン
「では改めて、月夜エルシィさん、当ユメノプロダクションのアイドルとしてデビューお願いします。」
「はい、お願いします」
2人は微笑みあいました。
「ところで、エルシィさんはどこに住んでるんですか?住所と電話番号もこの履歴書には書いてないですが?」
俺はそういって、天使としか書かれていない履歴書を見せて、聞いてみた。
「住むところはありません。どこか紹介してください」
エルシィは満面の笑顔で答えてくれた。
一方俺はなにを言ってるのか意味を理解するのに時間がかかった。
そして、
「まじか、そこからなのか。手がないこともないが。使いたくないなぁ」
チラッとエルシィを見ると、すごい期待した目で見られていた。
はぁーーとため息をついてから、俺はさっきとは別のところに電話をかけた。
内心、ものすごーく嫌だったが、この際仕方ない。
電話の主は数コール後に出た。
簡単に説明したところ、またもや、こちらに来るという。
数分後、
バターン。勢い良く、会議室の扉が開いた。
こんなの何回もあったら扉が壊れてしまうなどと別のことを考えていた。
「おい、昇!あんた、逸材見つけたとか寝言言いやがって」
「うるさいなぁ、いちいち怒鳴るな。そこの彼女がうちからデビューする予定のアイドルだ。ちゃんと挨拶しろよ」
そう言うと、入って来た人物はエルシィに目を向けた。
「あらあら、失礼。ワタシはここでダンストレーナー兼アイドル寮の大家をしてる、神宮寺 麗よ。よろしくね。さっそくで悪いんだけど、ちょっと踊ってみてくれる?えっと、・・」
麗はなんだっけと言うようにこちらを見る。
はぁ~とため息をついて、
「エルシィだ。月夜エルシィ。それが彼女の名前だ」
勢いに圧倒されていたエルシィも名前を呼ばれ、我に返ったようで、
「えと、月夜エルシィです。よろしくお願いします」
「エルシィちゃんね。オッケー、ワタシのことは麗って呼んで。じゃあ、ほんとに逸材か見せてもらえる?」
エルシィは困ったようにこちらを見たが、俺が頷いてあげると、その場、先程見せたようにクルクル回ったり、横に揺れたりして見せた。
しばらく、黙って見ていた麗だったが、
「オッケー、ありがとう。だいたいわかったわ。まず!基礎ができてない、だから、体の軸が動くたびにずれてる。こんなんじゃ歌いながら踊るなんてムリね」
少し見ただけで、そう言い切る麗はニヤリとして、「でも、ポテンシャルは悪くない。ワタシがレッスンすれば、絶対に、超一流になる!」
なにを隠そうこの麗は俺と篤の幼なじみ四人組の一人で、数々のダンス大会の優勝をかっさらった経験の持ち主。うちで、ダンストレーナーやりながら暇な時にダンサー指導するだけでも充分生活できるほどのお給料がもらえているのだ。
「麗のお墨付きももらえたみたいだから、彼女の部屋を用意してあげてほしい。ちょっと事情があって家に帰れないんだ」
ふーん、麗はこちらを一瞥したあと、エルシィを見て、
「まっいいわ。久しぶりに鍛えがいのある子みたいだしね。今から部屋の用意してくるわー」
そう言いながら麗は出口に向かった。
そして、部屋を出る間際に
「忘れてないと思うけど、ちゃんとあの子にも伝えなさいよ。あとで、知ったら怒り狂うわよ。絶対」
そう言い終わるやいなや扉を閉めてしまった。
あの子というのは、篤や麗と同じく俺の幼なじみの一人。
うちでボイストレーナーをお願いしている
「たしかに、どっちにしろ連絡しないといけないからな」
そうぼやいて俺は三度電話をかけたのだった。
つづく




