第一話 天使の面接
日本武道館の特設ステージ、その中心にいる一人の少女。
会場に響き渡る歓声と満席の観客席。
それをステージ脇から眺めていた俺は彼女出会った日のことを思い返していた。
数年前のあの日から今まで長かったような短かったような、忙しくも充実した日々。
いろんな意味で彼女には泣かされてきた。
そんな苦労も今となってはいい思い出だ。
3年前
少し古い寂れたビルの会議室と書かれた部屋。
部屋の中心に置かれたパイプ椅子にちょこんと座る少女と窓側の長机の向こう側のパイプ椅子に座る俺。
「はぁーーーー、まじか」
俺の手元には履歴書が1枚。
天使とだけ書かれており、目の前の少女の写真が貼ってあった。
ここは父から受け継いだ芸能プロダクション。
といっても不景気の波にのまれ、所属アイドルもいない倒産間近のこの会社に面接希望があった。
そして、面接前に少女に渡されたのは手元にある履歴書。
どうしたものかと少女を見るとニコニコとこちらを見ていた。
銀髪の長い髪に青い瞳、整った顔で、控えめに言ってとても可愛い。
ずっと見ていると疑問そうな顔をして首を傾げた。
絵になるぐらい可愛い。
ブンブンと首を振り、意を決して聞いてみることにした。
「すみません。本日は面接にお越し下さりありがとうございます。
質問なんですが、天使としか書かれていませんが、お名前フルネームと年齢や簡単な学歴など教えて頂きたいのですが?」
少女はなにも答えずポカンとしている。
「どうされましたか?」
そう聞いてみると、
「アマツカとはなんでしょうか?」
「アマツカはあなたのお名前では?ここに書いてありますが。」
「いえ、それは天使です。私、天使なんです。」
耳を疑った。それが顔に出てしまったんだろう。
「信じていただけないみたいですが、その証拠に、ほら」
そういうと少女の背中から羽が飛び出してきた。
しかも、パタパタと動いている。
とても、作り物には見えなかった。
「それは、本物ですか?良く出来た作り物ということは」
「これなら信じて頂けますか?」
そう言って少女は羽を動かした。すると、ふわっと少女の体が宙に浮いた。
「!!!本物の、てん、し?」
「だからそう言ってるじゃないですかー。」
ニコニコとしながら目の前の少女はスッと椅子に戻った。
俺はなぜかこの時、この子にプロダクションの運命を託そうと思った。
「わかりました。しかし、天使として売り出すことはできません。普通の人間としてデビューしてもらいますがよろしいですか?」
「構いませんよ」
「最後にどうしてアイドルになろうと思いましたか?」
「天使は人間様を笑顔にするのが仕事なんです。最近、なかなか笑顔にできなくて、それでアイドルになれば直接笑顔にできると思いまして」
そこまで言うと少女はこちらを伺うように見つめてきた。
アイドルのいないウチには必要だった。しかし、父の代からしている面接時の質問を最後に問いかけた。
「あなたはアイドルには何が一番必要だと思いますか?」
少女は少し考えた後、元気良く答えた。
「わかりません!でも、アイドルは自分が幸せじゃないといけないと思います」
「どうしてそう思いますか?」
「だって、自分が幸せじゃないと他の人におすそ分けできないじゃないですかー」
俺と父が持っていたアイドルの心構え、それを彼女は持っていた。
ここから、俺と天使のアイドルとの活動が始まった。
つづく




