3-06 神々の饗宴〜或いはDOTCHの料理グランプリ〜
はぁ……まったく、なぁんでこんなことになっちまったかなぁ。
っと、失礼。
ことの発端はウチの親父……あ、ギリシャの雷神ゼウスと(自称)唯一神ヤハウェの大喧嘩。
お互い売り言葉に買い言葉で決着つけようとなった内容が、何故か『多神教の神 VS 聖人』の料理対決七番勝負!
どっちが美味いモノを作れるか! あ、神様なんだから楽勝とか思うじゃん?
コレがさぁ、なかなかそう簡単にもいかなそうな話でね……。
「ヘルメスさぁん! 本番、そろそろ始まりますよぉ!」
はぁい! 今行きます!
それじゃ! 本番でお会いいたしましょう!
※※※
作者からのお願い
構想段階で某戦闘がリアルで勃発してしまいましたが、特定の宗教を貶める意図はありません
有識者の皆様へ
作者の知識・財力・時間に限界があり全ての宗教に触れているわけではありません
あくまでも娯楽小説としてお楽しみください
皆さま! ようこそ競技場へ!
さあ! いよいよ開催となりました! 第一回DOTCHの料理グランプリ!
司会は私、オリンポス十二神が一人! 伝令神ヘルメスと!
「四大天使にしてテレビ・ラジオ関係者の守護聖人、ガブリエルでお送りいたします〜」
いやぁ、ガブリエルさん。ご一緒できて光栄です。
「こちらこそ。お手柔らかにお願いいたしますわね〜。ヘルメスさん」
とまぁ、一体全体突然どうしたものかといいますと、騒動の発端はウチのクソ親父げふん、ゼウスと唯一神の大喧嘩でございますよ!
詳細はまぁ……うん、ぶっちゃけ聴いていたら大して面白くなかったんで省略いたしますが、あーだこうだと擦ったもんだの挙句、多神教対一神教で、料理対決することに決まりまして……。
「あらあらまぁまぁ……血を見ない、とっても平和な争いでよかったですわね〜」
そこは私もガブリエルさんに全力同意ですよ。はい。
──と、話が逸れましたが、そんなわけで多神教からは各国の神々から、一神教の中からはガブリエルさんのような守護聖人の中から代表者を選んで、これから料理対決七番勝負をおこないます!
なお、選手は事前に主催側で指名させていただいておりますが、誰が出てくるかドキドキワクワク感を損なわないために、ご観覧の皆様方には直前まで秘密とさせていただきます!
「さぁ〜! 十四名の選手の皆さま? ご準備はよろしいかしら?」
それでは! 早速ですが、最初の対決に参りましょう! ガブリエルさん、お題発表をお願いします!
「はい、お題は「アミューズ」! 歴史は浅く、いわゆる「お通し」・「つきだし」と呼ばれる少量かつシンプルな存在ですが、それでいてフレンチ・フルコースの最初を飾る大切な料理ですわ」
ありがとうございますガブリエルさん! それでは皆さま、大変長らくお待たせいたしました!
第一試合を担当する選手が双方とも、間も無く入場です!!!
※※※
──と、大会を始めるその前に。
読者諸君には自分視点ではあるが、多神教側の事情を語っておこう。
時は数日前に遡る。
「どうしてくれよう……」
頭を抱える親父──げふん、最高神を横目に、オレは内心盛大にため息を吐いた。
おろおろと落ち着きなく慌てる姿に神の威厳は無く、その姿はただの濃い髭面のおっさんである。
「そもそも、なんでこんな見切り発車な企画をすることになったんです?」
「そうじゃそうじゃ」
円卓に座っている複数の神々が、好き放題口を開く。
主催はギリシャの最高神だが、北欧代表、中国代表、ケルト代表、エジプト代表、インド代表、日本代表、アステカ代表──などなど、古今東西南北を問わず集まった客神たちも、親父に引けを取らぬほど高位の神々であった。
またこの神々以外にも、この円卓を囲むよう、様々な神が控えて、会議の内容に耳を傾けている。
そのままではあるが、『多神教同盟』というのがこの集まりの一応の名前である。
──まぁ、そんなことはさておき。
「だってのぉ……」
親父は頭を抱えて机に突っ伏した。
「売り言葉に買い言葉。議論が白熱していくうちに、アレよアレよと……」
親父が頭を悩ます相手。それはとある地域において『唯一神』とか『絶対神』と呼ばれている神のことである。
かの神が現状数多の人間に信仰される、大変強い力を持った神である──ということにまぁまず間違いは無いのだが、はた迷惑この上ない話ではあるのだが、かの神は「唯一柱の神である自分以外で、神を名乗る者は『悪魔』である」と、失礼極まりない主張を昔から繰り返していた。
親父は『多神教同盟』の代表として、苦情を申し出に行ったわけなのだが──。
「売り言葉に買い言葉で、どうやったら『料理七番対決』とか、よくわからない展開になるのですか」
「正直、頭に血がのぼってたんで覚えとらんです……」
エジプトのイシス様の呆れたような冷たい視線に、情けないほどしおしおになっている親父。
「どうせ皆、宴会好きだから、なんとかなるだろーとか思ったんだろ」
北欧のオーディン様がガシガシと頭をかきながら、ため息混じりに図星をついてくる。
「貴様も同席したのなら全力で止めよ。ヘルメス」
いやいやいやいや──自分はタダの広報担当なんで無理ですよ! と、インドのヴィシュヌ様に突然話を振られたオレは全力で首を横に振った。
「しかし……意外というか、予想外というか……」
中国の伏羲様の隣で、同じく中国の女媧様が深くうんうんと頷いて続ける。
「コレだけ多種多様な神が集まっているのだから、一柱くらい『料理の神』が居ても良いじゃろ普通……」
そう。そうなのだ。
親父の目論見が外れた一番の理由。
国や国境を越えて豊穣の神や火の神、竈門の神や酒の神は数多あれど。
何故か『料理』を司る神が居ないのだ。
あ、いや、訂正しよう。日本の天照大御神様の管轄に、近い権能を持つ神々が居なかったわけではないのだが──。
「伊勢神宮外宮の 豊受大神ならともかく、他の豊穣神がねぇ……ちょっと難ありというか……」
視線を盛大にそらしつつ、天照大御神様は長い黒髪をいじりながら、もにょもにょと口ごもる。
「その、全年齢向けじゃ無いというか……食べ物が、口やら鼻やら尻から出るというか……」
ナニをどうしたらそんな誰得の権能が求められるのか。特殊性癖にも程があるだろソレ。
──流石はHENTAIの国JAPAN。
「あと一応祀られてはいるけれど磐鹿六獦と田道間守は元は純粋な人間なんで、我が国のことながら、はたして神様カウントしていいものかどうか……」
訂正。もはやなんでもありだな日本……。
「一つ質問なのだが、ウチのダグザが持ってる大釜のような、調理を補助する魔法の品の持ち込みは可能か?」
ケルトのルー様がおずおずとその長い手を挙げた。しかし。
「ワシもソレ思ったが、即刻却下くらってしもーた。純粋に技術・技量の戦いであるため、魔術付与や祝福の類も禁止じゃと」
親父が突っ伏したまま返答。
一部の神から「えーッ!」と不満げな声が聞こえたが、質問をした当のルー様はというと「まぁ、アレ、ヤツの好みでほぼ粥専用だしな……」と、何故か満足げに頷いていた。
そんな中、エジプトのイシス様が目頭を押さえながら口を開く。
「決まってしまったことは致し方ございませんね……とりあえず誰が出るか、選出しましょう」
「七番勝負……ということは、お料理の詳細も決まっておりますの?」
アステカのコアトクリエ様が長い舌で、ご自身の舌をぺろりと舐める。
「じ……こほん、生肉料理なら、審査員として私も食べたいですわ〜」
残念ながら審査員は会場でランダム抽選、料理は二十世紀末のフレンチ・フルコースディナー基準なのですよ。
「まぁ。残念ですわぁ……」
オレの言葉にしょんぼりと肩を落とすコアトクリエ様。
はい。言い直されましたが、さすがに人肉は絶対に出てこないと思います。
「フランス料理なら一番最初は前菜とかの軽食だろ? なんだったらオレが出てもいいかい」
円卓の向こう側から、ひらひらと動く白い手が伸びた。聞き覚えのある声に、オレは思わず顔を顰めた。
「おぉ……お前か!」
親父が顔をあげ、嬉しそうに声を弾ませる。
「親父が持ってきた話の割にはなんだかんだで面白そうだし、まぁ、なんとかなるでしょ?」
ね! と、何故かオレの方に向かってウィンクしてくる兄弟に、オレはげんなりとため息を吐いたのであった。
※※※
「さぁ! 選手入場! まずは我が神の僕から! ローマ皇帝プブリウス・リキニウス・ウァレリアヌスの御代! 我が神に殉じて死を選んだ敬虔なる殉教者! ローマ・ロッテルダム・スリランカ・カナダの守護聖人であり、料理人の守護聖人が、満を持さずにいきなり登場! 聖・ラヴレンティウスー!」
おお! 最初からフルスロットル! 聖人側の本気を感じます!
対する多神教同盟は我がギリシアはオリンポス十二神が一柱! 父ゼウスと人間の間に生まれ、放浪の末自力で信者を集めに集め、神へと昇格した葡萄酒と狂乱と酩酊の神ディオニュソス!
「うわー。兄上紹介めっちゃ雑ー! それ全然褒めてなーい!」
うるせぇ。異性装神と紹介しなかっただけマシだと思え!
「ちょっとぉ。弟扱い酷すぎない?」
気のせいだ!