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Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

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第97話 外と内

挿絵(By みてみん)




 般若無道流。戦獄時代の暗殺拳。


 刃を通さない、鋼の肉体を誇った骸人。


 帝国を支配した外来種に、唯一通用した武術。


 用いる武器は、己の肉体と意思の力。ただそれだけ。


 名のある刀より拳が上回ったのは、それなりのワケがある。


「――超徹甲拳シェルインパクト


 赤いセンスが白い廊下を照らし、声が響く。


 幾多の攻防を潜り抜け、放たれたのは正拳突き。


 毛利広島による暗殺拳の技が、ジェノの懐に迫った。


「………っっ」


 ジェノは歯を食い縛り、受け止める。


 腹部には銀のセンスを集中させて、防御。


 剛速球のボールをミットで受けたようなもの。


 衝撃は緩和されて、威力は限りなく弱まっていく。

 

 バチンと光が弾け、少年は数メートル程度飛ばされる。


 受け身を取って、体勢は崩れず、次の一撃を警戒していた。


「へぇ……上手に受けたね」


 広島は一連の動作に対し、賞賛の声を送る。


 一朝一夕では身につかない、機転の利いた守り。


 修羅場を幾度も潜り抜けた経験と成長を感じられた。


「まだまだ……」


 ジェノは口元を拭って、前を向く。


 瞳には、揺るぎのない闘志を滾らせる。

 

 きっと、どれだけ痛めつけても立ち上がる。


 その精神は鋼そのもの。彼の持つ最も強い武器。


「……でも、無駄なんよ」


 特性を理解した上で、広島は冷たく言い放つ。


 打ち砕くべきは心じゃない。もっと根本的なもの。


「がは……っ」


 ジェノは唐突に咳き込むと、白い廊下を赤く染め上げた。


 ◇◇◇


 襲い掛かってきたのは、吐き気だった。


 気持ち悪さを解消するために、口を開いた。


 すると、吐血した。急に口から血が溢れ出した。


(これ……全部、俺の……)


 目に入ったのは、大量の赤い血液。


 頭がくらくらして、足元はふらつく。 

 

 視界もぼやぼやするし、気分も最悪だ。


 幸い痛みはなかったけど、何かおかしい。


 受けた衝撃に対して、出血量が比例しない。


(何が、起きた……)


 攻防の隙間を縫って、拳を打たれた。


 広島が放った正拳突きが、懐に直撃した。


 でも、防御した。センスを使い、受け止めた。


 大して飛びもしなかったし、威力は殺せたはずだ。


「イメージのモデルは徹甲榴弾。硬い装甲を貫き、内部で炸裂する弾。そのイメージを拳に乗せ、体表面を通過させ、体内で炸裂させる。堅苦しい本流の技を、うちが勝手に現代風にアレンジした。その威力は相当のもんじゃろ?」


 すると、広島は淡々と技の詳細を説明する。


 嘘をついてる様子はないし、正直、納得がいった。


 それどころか、感心してしまうほどの合理性さえあった。


(意思の力はイメージできるかが全て。イメージしにくい古風な武術の技を、馴染みのある現代の技に作り変えた。技をなぞるだけじゃ駄目なんだ。自分にとって想起しやすいモデルを取り入れることで、威力も精度も補強される……)


 ジェノは状況を忘れ、技の分析をする。


 一を聞いて、一を覚えるだけじゃ、届かない。


 一を聞いて、十にできないと、この人には勝てない。


「今頃、内臓はぐちゃぐちゃでしょうね。……その程度で俺が止まるとでも?」


 平静を装って、ジェノは質問に答える。


 痛覚がなくて、心の底から良かったと感じる。


 右腕の複雑骨折と内臓の損傷。本来なら戦闘不能だ。


 戦えるかどうか以前に、受け答えするのも厳しかったはず。


「思っとらんよ。どうせ、白き神が出しゃばりゃあ、治されるじゃろうしね」


 ただ、広島はこっちの反応なんて眼中になかった。


 目線は第一形態を攻略した後。第二形態を見据えている。


(俺はしょせん、神の前座か……)


 頭では分かっていたけど、正直、傷つく。


 広島との実力差は明確だし、白き神より格下だ。


 戦闘面に関して言えば、勝っているところは多分ない。


供犠くぎ。そう一言だけ、余に向けて発して頂きたい所存でございます』


 そこで思い出したのは、白き神の言葉。


 恐らく、体を代償に白き神を呼ぶ呪文だ。


 自分の意思で、代わろうと思えば代われる。


 運が良ければ、戦闘後に戻れる可能性もある。


(…………)


 最悪の選択を考慮に入れ、ジェノは最善の手を考える。


 無理して戦う。白き神に頼る。助けを呼ぶ。あるのは三択。


 そこで嫌でも視界に入ってきたのは、ぐにゃりと曲がった右腕。


 一人で格上相手に戦い続けるには、あまりにも重いハンデキャップ。


(意地を張ってる場合じゃないのかもな)


 頭の中で無理して戦う選択肢が消えた。


 残るは二択。自分以外の誰かを頼る選択肢。


「……少し、別の要因の力を借りても構いませんか?」


 ジェノは恥を忍びながらも、問いかける。


 本来なら、確認する必要なんてないのかもしれない。


 でも、言いたくなったんだ。これからやるのは卑怯なことだから。


「好きにしんさい。どちらにせよ、勝つのはうちじゃ」


 広島は恐らく、おおよそ理解している。


 さっき考えたことぐらいは予想済みのはず。


 仮にどの選択肢が来ても、勝てる気でいるんだ。


「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいますね」


 ジェノが目を向けたのは和風の扉。


 数歩進んで、扉の目の前に立っていく。


 さっきまで攻略していた城に繋がる場所だ。


「……まぁ、それしかないじゃろうね」


 予想通りと言わんばかりに、広島は語り出す。 


 この場で、白き神に身を捧げるのはあり得ない。


 消去法で、助けを呼ぶ選択肢になると踏んだんだ。


 だけど、これからやることは、絶対に予想できない。


「…………」


 ジェノは懐を探った後、ゆっくりと左手を伸ばした。


 そして、ドアノブに手をかけて、奥へ意識を集中させる。


(地下空間、扉……。条件は揃ってる……。俺は一人じゃない)


 左手に握っていたのはドアノブと、赤い星型の髪留め。


 ガチャリと捻り、扉を引き、脳裏に浮かんだ語句を並べる。

 

「来い!! ヘケヘケ!!!」


 声を高らかに、呼んだのは魔物の名前。


 赤い髪留めが地下世界と繋げ、呼び寄せる。


「ヘケっ!!!」


 黒くて真ん丸の小さい体、長い耳、丸い尻尾。


 かつて共闘して黒龍を倒した、頼りになる相棒。


 魔物ヘケヘケを味方に加えて、二対一が始まった。

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