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Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

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第96話 共有

挿絵(By みてみん)




 古流剣術の共有が終わった。


 知識でも情報でもなく、経験だ。


 一生をかけて体得した、戦闘技術だ。


 それをたった数秒で身に着けてしまった。


「………………」


 パオロは閉じた目を開いた。


 そこにはマルタとガルムがいた。


 半信半疑だったが、確信に変わった。


 こいつらが持つ能力は間違いなく本物だ。


「人が血の滲む思いで積んだ経験を、トレースした気分はどうだい?」


 すると、マルタは何の気なしに語り出す。


 上から目線の変わらない態度で、尋ねてくる。


 共有される前だったら、悪態でもついてやりたい。

 

 だが、変わった。印象が変わった。見る目が変わった。


 敵意の目線は今や、敬意の眼差しへと変化したのを感じる。


 背筋を正して、片膝をついて、服従したっていいとさえ思える。


「……どうして、僕を選んだ。なぜ、ジェノじゃなかったんだ」


 パオロは無礼を承知で、変わらぬ姿勢を貫いた。


 質問を無視して、聞きたかったことを真っ先にぶつけた。


 用意周到に仕組まれた計画。その一部が経験を通して見えたんだ。


 その中心人物が――ジェノ・アンダーソン。


 ジェノを育て上げることに、マルタは人生を捧げた。


 剣術をトレースさせることが、一番の近道になるはずだった。


 だが、教えなかった。結果として見送った。だから、『なぜ』なんだ。


「刀を握れば、殺す択が嫌でもチラつく。不殺を貫くには限度があるのさ」


 他でもないマルタ本人の口から理由が語られる。


 言ってることは分かる。意味は理解できなくもない。


 ジェノに不殺を貫かせるのは、計画に重要な要素の一つ。


 剣術を覚えさせれば、殺しに振り切ってしまう危険性もある。


「暗殺拳に託すのも同じ……いや、『神醒体』が遅れる分、もっと悪いだろ」


 ただ、すぐ隣で行われようとしてるのは、荒療治。


 広島が用いる暗殺拳を、ジェノの体に叩き込ませる予定。


 成長する可能性もあるが、剣術を教えるのと同等の危険もある。


 何しろ元は暗殺拳。人を殺すための拳法だ。不殺との相性は当然悪い。


「いいや、活人拳に昇華するのに賭けた方がまだ分はあるね」


 マルタは譲らない。頑なに意見を曲げない。


 計画を達成する条件は、『神醒体』と『不殺』だ。


 これをセットで揃えておかないと、破綻する恐れがある。


 剣術をトレースさせれば、楽に『神醒体』へ至れるはずなんだ。


 その可能性を捨ててまで、あえて難しい方に挑戦させようとしている。


「やつが広島を殺せば、全てが終わるぞ」


「そうならないよう道徳は叩き込んだつもりだよ」


 思惑を知った上で、意見が食い違う。


 議論の中心はジェノが『不殺』を貫けるか。


 継承戦以上に、重要なターニングポイントになる。


 知らなければ傍観者を気取れたが、残念ながら手遅れだ。


「……話にならん。僕は止めるぞ」


 踵を返し、パオロは来た道を戻る。


 そこには、両開きの和風な扉があった。


 入口と同様の月と星の紋様が刻まれている。


 開いた先には、第三回廊区の白い廊下が広がる。


 そこで、ジェノと広島の戦いが行われているはずだ。


 今ならまだ間に合う。介入する時間も余裕も実力もある。


「止めるのは構わないさ。でも……背負えるのかい?」


 背後から掛けられた言葉に足が止まる。


 なんの能力でもないのに、体は重く感じた。


 マルタの半生は経験したが、歩んでる人生は別。


 知識や情報や経験では補えない、隔絶した壁がある。


(どこまで知っても……僕はあくまで部外者か……)


 諦観に近い感情が、胸の内に芽生えていく。


 そう思ってしまった時点で、答えは決まっていた。


「はぁ……。ジェノを信じる。僕は役割に徹する。これなら満足か?」


「見込み通りのいい男だね。あいつが育つのを影で見守ってやろうじゃないか」


 短いやり取りを交わし、思想は共有される。


 パオロとマルタの共謀関係は、ここに結ばれた。

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