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Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

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第95話 至るべき道

挿絵(By みてみん)




「肉体系の最高到達点は、何か分かる?」


 首の骨を鳴らしながら、広島は問いかける。


 パキリと小気味のいい音が、白い廊下に響いた。


「……」


 問われたのは、広島と対面するジェノ。


 片膝をつき、体勢を崩し、視線を落とす。


 その先には、手甲を装着した右腕が見えた。


(折れてるな、これ)


 右肘から先の腕が、不自然な方向に曲がっている。


 複雑骨折。手甲の中は青く腫れ上がっているはずだ。


 ただ、不幸中の幸いか、痛みを感じることはなかった。


 神格化が進んだおかげで、痛覚は完全に遮断されている。


(……このまま無視するのは失礼か)


 損傷を理解した上で、質問に対して、頭を巡らせる。


 質問内容は互いの得意な領域。――肉体系の最高到達点。


 深く考えるまでもなく、自分なりの答えはすぐに思い至った。


「圧倒的なフィジカル。他の追随を許さない超人めいた身体能力、ですかね」


 ジェノは立ち上がりながら、言い放つ。


 腕は折れても、心はまだまだ折れてない。


 健常な左腕を構え、戦う意思を示し続けた。


「曖昧じゃのぉ。……もっと具体的に言ってみんさい」


 一方、広島は構えを解き、尋ねる。


 格上だからか、師匠面をしたいのか。


 よく分からないけど、答えてあげよう。


「核をも超える攻撃力と、核をも凌ぐ防御力。この二点でしょうか」


 思い描いた理想の自分であり、想像上の限界。


 肉体系というイメージから連想できる最大公約数。


 きっと、これぐらいはできないとリーチェは倒せない。 


「悪うない、悪うないよ。……ただ、足りんね」


 広島は視線を落とし、反応を示す。


 右手をぎゅっと握り、右拳を見つめる。


 今は至らずとも、心から欲してやまない力。


 視線を上げ、熱い眼差しを向け、彼女は言った。


「神を上回る体……『神醒体しんせいたい』。それこそが、肉体系の最高到達点じゃ」


 ゾクリと体が疼き、鳥肌が広がる。


 言葉を咀嚼して、意味を噛みしめる。


 無関係でもなければ、夢物語でもない。


 遠いけど、ちゃんと手が届く場所にある。


 理解が追いつくと、心は確かな熱を帯びる。


 歯車が噛み合って、円滑に回る光景が見えた。


 リーチェを倒すことを目標にしてたけど、違う。


(俺が目指すべき場所は、きっとそこだ……)


 白き神が内に宿る以上、解決は必須。


 神格化が進む以上、策を講じる必要がある。


 共存でも、共生でも、共闘でもなく、神を上回る。


 それ以上の回答なんて、世界に存在しないように思えた。


「あー、勘違いせんで。道を示したかったわけじゃないんよ」


 広島は思考を先回りしたように語り出す。


 確かに一瞬、頭をよぎった。なんとなく思ってた。


 わざわざ敵に回り、親切に教えてくれたんじゃないかって。


「…………だったら、なんですか」


 でも、彼女の答えはきっと違う。


 受け入れる心構えはすでにできている。


「――神憑きのあんたを殺して、成り上がる。それがうちの大いなる目的じゃ」


 語られたのは、この上なく納得できる理由。


 戦いは避けられない。適当な決着は許されない。


 頭に浮かぶのは最悪の選択肢。戦いの行き着いた先。


(俺は今日……初めて人を殺すかもしれない)


 ジェノは腹の底から、毛利広島と向き合う覚悟を決めた。


 ◇◇◇


 赤い斬閃が煌き、両刃の剣が空を断つ。

 

 幾重にも、幾度にも、それが繰り返される。


「はぁ……はぁ……」


 畳の間に響いたのは、荒い呼吸の音。


 目の前には、第四王子に成りすました輩。


 王位継承戦に紛れ込んだ、異物が立っている。


「難儀な体だねぇ。まるで戦いに向いてない」


 聖女マルタと呼ばれた、長い白髪のすかした女。


 目的は、初代王の偵察と白き神を宿したジェノらしい。


 詳細も背景もよく分からんが、偉そうにも指導してきていた。


「意味のない忠告をどうも。健常者の発言は心に染み渡るね」


 パオロは敵意むき出しに、言葉で噛みつく。


 戦闘で生じる、諸々の不満をぶつけてやった形だ。


 皮肉が分かる、まともな感性の持ち主なら口を慎むはず。


「人には向き不向きってもんがある。できないことに固執するんじゃないよ」


 と思っていたが、マルタは上からの目線の指導を続けていた。


(心底ムカツクが……呼吸を整える良い機会か……)


 憤りを覚えながらも、パオロは冷静に感情を抑え込む。


 挑発に乗って、怒りに身を任せてもいいことはないからな。


「嫁いで、主夫でもしてろってか? 御免だね。僕は僕のやりたいようにやる」


 口調は熱く、内心は冷めたまま、話を転がす。


 戦術的には意味があるが、中身のない会話だった。


 マルタは、今見える問題点を指摘しただけに過ぎない。


 努力をし続けた未来や、将来性が一切考慮に入っていない。


 医療が発達すれば治るし、意思の力で短所は長所に変えられる。


 問題があるとすれば、本人のやる気。やりたいと思えるかどうかだ。


「なにも戦うなと言ってるわけじゃない。戦い方を選べと言っているんだ」

 

 ぴくりと耳が動いたのを感じた。


 耳を傾ける価値のある気がしていた。


「……何が言いたい?」


 呼吸を整えながら、パオロは尋ねる。


 期待をしつつある自分に、少し嫌気が差した。


雲耀うんようという言葉がある。時間にして一万分の一秒。雷光に匹敵する速度の初太刀で相手を必ず仕留めろ、という帝国における古流剣術の教えだ。今のお前さんの戦闘スタイルにピッタリな戦い方だとは思わないかい?」


 マルタは淡々と口を挟んだ理由を説明する。


 はっきり言えば、こいつの意見は気に食わない。


 ただ、異国の武術には少なからずリスペクトがある。


 縛りで捨ててしまったが、中国の武術には世話になった。


「一呼吸以内に倒せ。理屈は正しいし、僕の体にも合ってる。……だが」


 だから、ぞんざいに扱うことはできない。


 悔しいが、無視できるほど恩知らずでもない。


 ただ、相手の発言には致命的な欠陥を抱えている。


「一朝一夕では身につかない、だろ? 伝える術があると言えばどうする?」


 的確に心情を見抜き、相手は欲しい回答を用意する。


 魅力的な提案だった。可能なら、経験値は計り知れない。


 欠点を克服した上で、現時点よりも更なる成長が期待できる。


「敵を全面的に信用して、ようやく成り立つ話だな。詐欺師の常套句だ」


 そんな甘い誘惑には、乗ってやるか。


 見ず知らずの相手を信じるほど馬鹿じゃない。


「ふっ……。だったら一方的にくれてやるよ。受け取ってから考えな」


 すると、マルタは訳の分からんことをほざいた。


 構えも一切なく、能力を発動する素振りも見えない。


(くだらん。結局、信じられるのは――)


 嘘だと切り捨てて、そろそろ戦いに集中しようとした時。


「……っ!!!?」

 

 脳内には、膨大な知らない経験が洪水のように押し寄せていた。

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