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Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

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第94話 違和感

挿絵(By みてみん)




 第四小教区。王墓所内、緑地霊園。

  

 中央には巨大な針葉樹がそびえる場所。


 そこにタッタッタッと軽快な足音が響いた。


「……」


 アルカナは木彫りの杖を片手に駆ける。


 目的は最奥。王墓所に鎮座する初代王の首。


 足取りは軽く、瞳は真っすぐ前だけを見ている。


(守護霊は多分もう出せない。でも、僕にはまだ……)


 第三回廊区での戦いでは心を折られた。


 魔術も守護霊も通用せず、叩きのめされた。


 でも、勝てる希望はある。懐の中に眠っている。


「……っ!!?」


 それなのに足が止まった。


 前に進めなくなってしまった。


 感じたのは、異様な圧と異常な音。


(なんて、出力……。あのレベルと戦えって言うの……?)


 手合わせしてもいないのに力差が伝わる。


 奥の手を加味しても、明らかに格も規模も違う。


 ハッキリ言ってしまえば、勝てる気が全くしなかった。


(やっぱり、僕なんかじゃ……)


 心は落ち込み、視線は自然と地面に向く。


 見えたのは、地をえぐる深い斬撃の跡だった。


「……これって確か、エミリアの能力、だよね」


 エミリアの能力は超限定的で、かなり特殊だ。


 案内中に危機が及んだ場合、無限の対応力を得る。


 問題は霧だった。それを排除するために、蹴り払った。


 生じたのは、足刀による風の斬撃。霧ごと障害物を裂いた。


 能力の詳細は、さっき本人の口から直接聞いたから間違いない。


「おかしいな……」


 アルカナは前提を知った上で、異変を感じ取る。


 辺りをよく観察して、情報を頭の中で整理していく。


 条件外になったから、霧の発生原因の標的を倒したから。


 色々考えられるけど、何か変だ。違和感が全く解消されない。


「どうして、ここで斬撃が止まってるんだ?」


 地面の裂け目は、針葉樹を境にピタリと止まっていた。

 

 ◇◇◇

 

 第四小教区。時計塔北の街路。


 暗闇を切り裂くのは、三連撃の剣閃。


 その間隙。技の終わり際に肘鉄が放たれる。


 肘鉄は相手の胴を突き、その勢いで地面を滑った。


 両足の底が摩擦し、軽く火花を散らし、ようやく止まる。


「…………っ」


 苦悶の表情を浮かべるのは、メリッサ。


 得物は右手に持った短剣。明らかに不慣れ。


 能力は恐らく、音叉みたいな見た目からして音。


 接触されたらヤバそうだけど、今のところ被弾なし。


「能力に頼り過ぎだよ。もっと自然に戦ったら?」


 そこでソフィアは、アドバイスを送る。


 経験値はリセットされたけど、馴染んできた。


 やっぱり、知識は裏切らない。微調整は容易だった。


「そっちこそ……魔眼に頼り過ぎなんじゃないっすか」


 疲労の色を見せつつも、メリッサはしっかり反論してくる。


「……なんの話?」


 脊髄反射的に、首を傾げて言い返す。


 何を言っているのか、よく分からなかった。


 でも、取返しのつかないことだとすぐに気付いた。


「へぇ……。ちゃっかり、忘却してるじゃないっすか」


 メリッサの表情に余裕が戻っていく。


 墓穴を掘った。記憶がないのがバレちゃった。


「そっか。閉じてる左目は魔眼なんだね」


 でも、戦闘は今のところ困ってない。


 今ならバレたところで、どうにでもなる。


 だから認めた。むしろ、情報を得た分プラス。


「あらゆる異常を正常に戻す魔眼。範囲は半径数十メートルっすね」


 メリッサは、さらに補足説明をしてくれた。

 

 真偽はともかく、事実ならかなり使えそうな力。


(私の性格にピッタリ。でも、なんで使わなかったんだろう。記憶を消される前の私が不意を突かれたとは考えにくいし、何か別の理由があったはず。……いや、そもそも、魔眼を使ってみれば、記憶が元に戻るのかも)


 能力に頼るなと言いつつ、能力に頼ろうとする。


 矛盾した思いを秘めながらも、好奇心には勝てない。


 罠である可能性も考えつつ、慎重に左目を開こうとした。


「――直視すれば、うちは死ぬっすよ」

 

 そこでメリッサが行ってきたのは、ささやかな脅し。


 いや、心理戦を仕掛けてきたと言った方が正しいかな。


「そうまでして勝ちたい? 今なら私の立場はフラットだよ?」


 ソフィアは左目を閉じ、問いかける。


 殺してしまう可能性があるなら使えない。


 話し合いのターンに移行せざるを得なかった。


 戦う理由がないなら、極力、戦いたくないからね。


「足止めしたいだけっすよ。味方に引き入れる気はないっす」


 メリッサは多くを語らない。


 知らないなら言わないって感じだ。


 知るためには魔眼を使わないといけない。


 でも、使えば彼女を殺してしまう可能性もある。


「あー、そっちの事情が終わるまで左目は使わない。これでいい?」


 両手を上げて、ソフィアは降参の意を示す。


 状況はよく分かんないけど、協力しとけば良さそう。


「まぁ、条件としては悪くはないっすね。……でも」


 目つきを鋭くさせ、メリッサはこっちを見る。


「でも?」


 嫌な予感がしつつも、聞き返す。


 正直、この後の展開は読めていた。


「燦爛と輝く命の煌めきよ、幽々たる深淵に覆われ、虚空の闇へと堕ちよ」


 詠唱と共に両手には白と黒の手袋が纏われる。


 同時に左手を地面に置き、影の空間が四方に展開。


 彼女が有利なバトルフィールドの完成。それすなわち。


「あんたは能力を馬鹿にした。だから、うちの能力で倒してみせる!」


「自分を人質に魔眼なしのタイマン勝負を所望か。いいよ、かかっておいで!」


 交渉は決裂。目的が明確になった第二ラウンドの始まりだった。

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