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Royal Road  作者: 木山碧人
第六章 イギリス

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第93話 本気

挿絵(By みてみん)





 次期イギリス国王を決める、王位継承戦。


 参加者は、王位継承権を持つ直系王子と侍従。


 分霊室最奥にいる初代王を倒せば、王に選ばれる。


 部外者が倒したら、どうなるのか。答えは分からない。


 前例がない。本来は関わるべき事案じゃないかもしれない。


 ――だけど、ここで終わらせる。


「……」


 リーチェは右手を握り、手の甲を下に向ける。


 腰を落とし、両足を力強く踏みしめる地は王墓所。


 分霊室最奥に位置し、金色の棺の前には、初代王の姿。


 距離は三メートル弱。手をいくら伸ばしても届かない距離。


「全力でおいで。避けるなんて無粋な真似はしないよ」


 マーリンは両手を広げ、待ち構える。


 自信過剰で人を舐め腐ったような態度。


 ここで負けるなんて、微塵も思ってない。


「ふぅ……」


 リーチェは息を吐き、言葉を聞き流す。


 体には、無数の針のような鋭い銀光が生じる。


 量は多くない。ただ、精度と練度には自信があった。


「「「「……………………」」」」


 背後では、王子陣営三人と案内人の息を呑む音が聞こえた。


 継承戦の当事者でありながら、今は部外者になってもらってる。


 巻き込めば殺してしまう。適度な距離を保ってもらう必要があった。


「円環、螺旋、万物の流転。我は原動天の根源に至る」


 リーチェが口にしたのは、詠唱。


 意味合いと結びつきを強める、儀式。


 頭の中で想像し、意思の力を高める所作。


 関連性が高いほど補完され、能力は向上する。


 長ければいいわけじゃない。的確かどうかが重要。


「……あぁ、いいね。少し見ない間に、そこまでできるようになったのか」


 マーリンは恍惚とした表情を作り、偉そうに評価する。


 上から目線は揺るがない。立場というものが分かってない。


(目にもの見せてあげる)


 不安定な感情に流されることなく、集中する。


 構えた右拳に全神経と、全センスを集約させる。


 条件は過不足なく整った。残っている所作は二つ。


「――永劫回帰(プリモ・モビレ)


 詠唱を締め、放たれるは、螺旋の拳。


 能力は、回転に関連している事象の強化。


 全ての所作を十全に行い、性能は一段階向上。


 詠唱によって、付与された効果は――万物の乖離。


 空を穿ち、捻り、抉る、防御不能の衝撃波が生まれる。


「……死者交霊約定リビングデッド


 対するマーリンは、白い杖で地面を叩く。


 能力は、霊体の召喚。条件や詳細は、一切不明。

 

 過去現在未来。あらゆる時間から呼べるのなら、脅威。

 

 ただ、それを考慮に入れても、霊体ごと貫ける自信があった。


「「――――」」


 万物を裂く衝撃が、霊体に到達。


 両者の持ち得る手札がぶつかり合う。


 空気が戦慄き、甲高い異音を奏でていく。


 万の鳥が同時にさえずったような、不協和音。


 予期しない力の衝突に、世界が悲鳴を上げていた。


(…………)


 ただ、威力と規模に反し、視界は良好だった。


 そんな中、リーチェは冷静に接敵した霊体を見る。


 金縁の眼鏡越しに、白銀色の両眼を通して、認識する。


 気付けば、最高威力で放ったはずの衝撃波は、空中で瓦解。


 意思がブレたのか、敵が上手だったのか、ともかく、停止する。


「「…………」」


 それと同時に、霊体と目が合った。


 場は静寂に満ち、見つめ合う時間が続く。


 一秒か十秒か一分か。もはや時間の感覚がない。


 圧縮された時の中、自分の運命を呪いたくなってきた。


「……今の君に一番ふさわしい相手を用意しておいたよ」


 その時間の終わりを告げたのは、マーリンだった。


 耳には入ってこない。言われなくても、見れば分かる。


 黒髪短髪の男。前髪は長く、肌は褐色で、体つきは筋肉質。


 白のタンクトップに、紺のジーンズ、右手の甲には、蛇の刺青。


 分かり切った正体よりも、気になるのは相手がどう思っているのか。


「こっちは一度死んだ身だ。今度は本気で手合わせしてもらうぞ……リーチェ」


「今度こそ本気で向き合うしかなさそうね。アンドレア・アンダーソン……っ!」


 マーリンに仕組まれたのは、師匠と元一番弟子のマッチアップ。


 手加減なしでの殺し合い。あの日行われた悲劇のリフレインだった。

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